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もう二度と
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「失礼ですが、彼女は私のことは恨んでいたのでしょうか」
「分かりません」
「酷い夫だと思ったでしょうね…再婚して」
ミファラのことを考えなかったわけでもないが、住む世界が変わり過ぎてしまい、情報も入って来なければ、平民であるトップスは社交界に出ることもないため、会うこともなかった。
きっと社交界で華々しい暮らしをしているのではないか、そういったことに興味はなかったが、女性なんだからきっと喜ばしいことだろうと考えた。
結婚は出来ずに愛人になったことは聞いていたが、いくら番でも、男爵令嬢なら仕方ないだろうと思った。
「想定はしていたようですが、先程のように不安定だったものですから、再婚のことは話していません」
「そうでしたか…妻は子どもが産めなくて、離縁されました。だからと言ってはあれですが、大事に育ててくれました。アデルも本当の母親だと思っていたと思いますが、きちんと産んだ人は別にいると話していました」
「そうですか」
妻は当初、言わなくてもいいのではないかと言った。
だが、いずれ分かることだ、誰かに聞かされるより話した方がいいと説得して、きちんとアデルに話した。だが、ミファラに会わせることだけは嫌だと言い、そのこともあって、会わせるのを躊躇っていた。
今回も嘘なのではないかと言っていたが、嘘ではなかったら、もう二度と会えないかもしれない、そうなった時に責任を負えるのかと話して、渋々行かせてくれた。
前の結婚で辛い目に遭った妻は、アデルの母親という立場を、どうしても奪われたくなかったのだろう。
「なぜ結婚されなかったのですか」
「彼女が結婚と出産だけは絶対にしないと、名前を付けるならば愛人だっただけで、彼女は居候と言っていましたね」
「そうだったのですか…社交界に出ることもないもので」
「彼女も一度も出ていません」
「一度も?」
「はい、ほとんど部屋で過ごし、時折買い物に行くくらいで、稼ぎのほとんども公爵家に入れていました。高価な物と言えば、お酒くらいです」
ミファラがいい暮らしをしていると言い出したのは妻だった。
アデルのことなんてもう忘れていると、アデル自身にも聞かせていることがあった。何度も注意したが、悪役にしたかったのだろう。
「彼女はこんな人生を送る人ではなかった。彼女にとって離れても、家族はあなたとアデル殿だけだったと思います」
「私も…?」
「あなたのことを口にしたことはありませんが、私が何かするかもしれないと、恐れていたからだと思います」
「それは…」
聡いミファラならば、混乱していても、そうしたかもしれないと思った。
「でも彼女は、こんな私に己を貫かせてくれて、感謝していると言ってくれました。間違っていても、これで良かったと、そう思っています。アデル殿に伝えるかはお任せします。…戻りましょうか」
「葬儀に出席させて貰ってもいいでしょうか」
「勿論です。客室と服も用意させましょう」
「いえ、そこまでは…」
「きっと彼女は口では望まないと言いながら、あなたたちを待っていたのですから、最後に叶えてやってください」
家を出た後で、待ち続けていたと聞かされ、ロークロア公爵がいなかったら壊れなかった前提はあるが、ロークロア公爵がいなかったら、ミファラはあのまま亡くなっていたはずだ。そうなっていたら、私は一生自分を許せなかったと思う。
トップスは甘えることにし、妻に葬儀に出席してから帰ると手紙も出して貰った。
ミファラの部屋に戻ると、アデルはベットの横の椅子にじっと座って、ミファラを見ていた。
「アデル殿、その机の引き出しを開いてみて欲しい」
シュアンがミファラの翻訳をしていた机を指差した。アデルが立ち上がって、引き出しを開けると、そこにはぎゅうぎゅうに詰まった手紙があった。見える全ての封筒に、愛するアデルへと書かれている。
「分かりません」
「酷い夫だと思ったでしょうね…再婚して」
ミファラのことを考えなかったわけでもないが、住む世界が変わり過ぎてしまい、情報も入って来なければ、平民であるトップスは社交界に出ることもないため、会うこともなかった。
きっと社交界で華々しい暮らしをしているのではないか、そういったことに興味はなかったが、女性なんだからきっと喜ばしいことだろうと考えた。
結婚は出来ずに愛人になったことは聞いていたが、いくら番でも、男爵令嬢なら仕方ないだろうと思った。
「想定はしていたようですが、先程のように不安定だったものですから、再婚のことは話していません」
「そうでしたか…妻は子どもが産めなくて、離縁されました。だからと言ってはあれですが、大事に育ててくれました。アデルも本当の母親だと思っていたと思いますが、きちんと産んだ人は別にいると話していました」
「そうですか」
妻は当初、言わなくてもいいのではないかと言った。
だが、いずれ分かることだ、誰かに聞かされるより話した方がいいと説得して、きちんとアデルに話した。だが、ミファラに会わせることだけは嫌だと言い、そのこともあって、会わせるのを躊躇っていた。
今回も嘘なのではないかと言っていたが、嘘ではなかったら、もう二度と会えないかもしれない、そうなった時に責任を負えるのかと話して、渋々行かせてくれた。
前の結婚で辛い目に遭った妻は、アデルの母親という立場を、どうしても奪われたくなかったのだろう。
「なぜ結婚されなかったのですか」
「彼女が結婚と出産だけは絶対にしないと、名前を付けるならば愛人だっただけで、彼女は居候と言っていましたね」
「そうだったのですか…社交界に出ることもないもので」
「彼女も一度も出ていません」
「一度も?」
「はい、ほとんど部屋で過ごし、時折買い物に行くくらいで、稼ぎのほとんども公爵家に入れていました。高価な物と言えば、お酒くらいです」
ミファラがいい暮らしをしていると言い出したのは妻だった。
アデルのことなんてもう忘れていると、アデル自身にも聞かせていることがあった。何度も注意したが、悪役にしたかったのだろう。
「彼女はこんな人生を送る人ではなかった。彼女にとって離れても、家族はあなたとアデル殿だけだったと思います」
「私も…?」
「あなたのことを口にしたことはありませんが、私が何かするかもしれないと、恐れていたからだと思います」
「それは…」
聡いミファラならば、混乱していても、そうしたかもしれないと思った。
「でも彼女は、こんな私に己を貫かせてくれて、感謝していると言ってくれました。間違っていても、これで良かったと、そう思っています。アデル殿に伝えるかはお任せします。…戻りましょうか」
「葬儀に出席させて貰ってもいいでしょうか」
「勿論です。客室と服も用意させましょう」
「いえ、そこまでは…」
「きっと彼女は口では望まないと言いながら、あなたたちを待っていたのですから、最後に叶えてやってください」
家を出た後で、待ち続けていたと聞かされ、ロークロア公爵がいなかったら壊れなかった前提はあるが、ロークロア公爵がいなかったら、ミファラはあのまま亡くなっていたはずだ。そうなっていたら、私は一生自分を許せなかったと思う。
トップスは甘えることにし、妻に葬儀に出席してから帰ると手紙も出して貰った。
ミファラの部屋に戻ると、アデルはベットの横の椅子にじっと座って、ミファラを見ていた。
「アデル殿、その机の引き出しを開いてみて欲しい」
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