【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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 ミファラの葬儀は、雲一つない眩しいほどの晴天だった。

 アデルとアークスは、食事に呼ばれるまで、ずっと話をしていた。二人はミファラや父親にそれぞれに考えがあったことも理解していて、怒ってはいなかった。

 だが一貫していたのは自我のある時に、ミファラに抱きしめて欲しかったということだけだった。

 アデルは大事に抱かれていたが、覚えていない。アークスは抱かれてもいない。触れたのですら、あのなくなる間際が初めてだった。

 お互いがお互いを思いやる状態だった。

 グルズとレーリア夫妻はアデルの顔を見て、ミファラによく似ていて、涙がぐっとこみ上げた。

 ミファラはシュアンの用意した墓地に埋葬された。アデル殿にもいつでも来て欲しいと、アークスは手紙のやり取りをすることを約束したらしい。

 そして、アデルとトップスは手紙を持って帰った。アークスにはたった一通だけであった。アデル殿と違って、きっと望むようなことは書いていないだろう。それでもミファラが唯一残した物だ。

「アークス、これはミファラからの手紙だ」
「アデルさんが言っていた、沢山の手紙があったと」
「ああ、アデル殿にはたくさんあったが、アークスには一通だけだった」
「うん…」
「アークスの望むようなことはきっと書いていない」
「うん…大丈夫だよ」

 アークスはゆっくりと丁寧にその封筒を開いた。目に入った文字は、名前と同じで、美しく、読みやすい字だった。


  アークス様

  きっと公爵様は亡くなった後で話したことでしょう。

  私は何度も死のうとし、死にたいと思わない日はありませんでした。
  愚かで弱く浅はかな人間でした。

  でも苦しい時、助けてと口にしそうになることがありました。
  その言葉を絶対に使ってはいけない人間なのに、
  だから私は飲み込んで、自らを殺し続けました。

  恥ずかしい人間だと蔑んでください。
  いなくなって良かったと笑ってください。

  ただ一つだけ、あなたの人生が幸福であることだけ願わせてください。

  本当に申し訳ございませんでした。


 アークスは便箋を閉じると、静かに涙を流した。二度と会えない、最初で最後の母からの言葉で、手紙となる。

「すまない…私のせいだ」
「違います、嬉しいのです。一通でも私のことを考えて、書いてくれたのですから」
「怒っていないのか?恨むだろうと、私は覚悟をしていた」
「話をしておけばと、悔しい気持ちはあります。お母様は、挨拶だけでも、絶対に無視したりはしなかったのです」
「そうか…」

 あまりにも些細なことで、シュアンも胸が苦しくなった。

「私は大丈夫ですから、心配しないでください」
「私は何を言われてもいい。全て受け止めるから、何でも話して欲しい」
「はい」

 歪な家族は、これからも二人だったようなものだが、これからは完全に生きていかなければならない。

 3日掛けて家に戻ったアデルとトップスに、慌てて妻・オリーが飛び出して来た。

「…おかえりなさい」
「ああ、ただいま。行かせてくれて、ありがとう」
「ただいま戻りました、ありがとうございました」

 アデルはオリーに挨拶をすると、すぐさま持ち帰った箱を部屋に運んで行った。

「何か、いただいたの?」
「アデル宛の母親の出せなかった手紙だ」
「え?何でそんな物」
「あれはあの子だけの物だ、理解して欲しい」

 トップスは座ったままであるが、オリーに頭を下げた。

「どうして、そんな物を受け取って来たの?要らないって言えばいいじゃない」
「何を言っているんだ?もう二度と貰えないのだぞ?」
「母親はここにいるじゃない」
「それは分かっているが、彼女も母親だ」

 何度話しても、ミファラを非難する言葉しか出て来ないのは、今までは我慢していたが、今日はさらに息苦しく感じる。

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