100 / 103
もう二度と
41
ミファラの葬儀は、雲一つない眩しいほどの晴天だった。
アデルとアークスは、食事に呼ばれるまで、ずっと話をしていた。二人はミファラや父親にそれぞれに考えがあったことも理解していて、怒ってはいなかった。
だが一貫していたのは自我のある時に、ミファラに抱きしめて欲しかったということだけだった。
アデルは大事に抱かれていたが、覚えていない。アークスは抱かれてもいない。触れたのですら、あのなくなる間際が初めてだった。
お互いがお互いを思いやる状態だった。
グルズとレーリア夫妻はアデルの顔を見て、ミファラによく似ていて、涙がぐっとこみ上げた。
ミファラはシュアンの用意した墓地に埋葬された。アデル殿にもいつでも来て欲しいと、アークスは手紙のやり取りをすることを約束したらしい。
そして、アデルとトップスは手紙を持って帰った。アークスにはたった一通だけであった。アデル殿と違って、きっと望むようなことは書いていないだろう。それでもミファラが唯一残した物だ。
「アークス、これはミファラからの手紙だ」
「アデルさんが言っていた、沢山の手紙があったと」
「ああ、アデル殿にはたくさんあったが、アークスには一通だけだった」
「うん…」
「アークスの望むようなことはきっと書いていない」
「うん…大丈夫だよ」
アークスはゆっくりと丁寧にその封筒を開いた。目に入った文字は、名前と同じで、美しく、読みやすい字だった。
アークス様
きっと公爵様は亡くなった後で話したことでしょう。
私は何度も死のうとし、死にたいと思わない日はありませんでした。
愚かで弱く浅はかな人間でした。
でも苦しい時、助けてと口にしそうになることがありました。
その言葉を絶対に使ってはいけない人間なのに、
だから私は飲み込んで、自らを殺し続けました。
恥ずかしい人間だと蔑んでください。
いなくなって良かったと笑ってください。
ただ一つだけ、あなたの人生が幸福であることだけ願わせてください。
本当に申し訳ございませんでした。
アークスは便箋を閉じると、静かに涙を流した。二度と会えない、最初で最後の母からの言葉で、手紙となる。
「すまない…私のせいだ」
「違います、嬉しいのです。一通でも私のことを考えて、書いてくれたのですから」
「怒っていないのか?恨むだろうと、私は覚悟をしていた」
「話をしておけばと、悔しい気持ちはあります。お母様は、挨拶だけでも、絶対に無視したりはしなかったのです」
「そうか…」
あまりにも些細なことで、シュアンも胸が苦しくなった。
「私は大丈夫ですから、心配しないでください」
「私は何を言われてもいい。全て受け止めるから、何でも話して欲しい」
「はい」
歪な家族は、これからも二人だったようなものだが、これからは完全に生きていかなければならない。
3日掛けて家に戻ったアデルとトップスに、慌てて妻・オリーが飛び出して来た。
「…おかえりなさい」
「ああ、ただいま。行かせてくれて、ありがとう」
「ただいま戻りました、ありがとうございました」
アデルはオリーに挨拶をすると、すぐさま持ち帰った箱を部屋に運んで行った。
「何か、いただいたの?」
「アデル宛の母親の出せなかった手紙だ」
「え?何でそんな物」
「あれはあの子だけの物だ、理解して欲しい」
トップスは座ったままであるが、オリーに頭を下げた。
「どうして、そんな物を受け取って来たの?要らないって言えばいいじゃない」
「何を言っているんだ?もう二度と貰えないのだぞ?」
「母親はここにいるじゃない」
「それは分かっているが、彼女も母親だ」
何度話しても、ミファラを非難する言葉しか出て来ないのは、今までは我慢していたが、今日はさらに息苦しく感じる。
アデルとアークスは、食事に呼ばれるまで、ずっと話をしていた。二人はミファラや父親にそれぞれに考えがあったことも理解していて、怒ってはいなかった。
だが一貫していたのは自我のある時に、ミファラに抱きしめて欲しかったということだけだった。
アデルは大事に抱かれていたが、覚えていない。アークスは抱かれてもいない。触れたのですら、あのなくなる間際が初めてだった。
お互いがお互いを思いやる状態だった。
グルズとレーリア夫妻はアデルの顔を見て、ミファラによく似ていて、涙がぐっとこみ上げた。
ミファラはシュアンの用意した墓地に埋葬された。アデル殿にもいつでも来て欲しいと、アークスは手紙のやり取りをすることを約束したらしい。
そして、アデルとトップスは手紙を持って帰った。アークスにはたった一通だけであった。アデル殿と違って、きっと望むようなことは書いていないだろう。それでもミファラが唯一残した物だ。
「アークス、これはミファラからの手紙だ」
「アデルさんが言っていた、沢山の手紙があったと」
「ああ、アデル殿にはたくさんあったが、アークスには一通だけだった」
「うん…」
「アークスの望むようなことはきっと書いていない」
「うん…大丈夫だよ」
アークスはゆっくりと丁寧にその封筒を開いた。目に入った文字は、名前と同じで、美しく、読みやすい字だった。
アークス様
きっと公爵様は亡くなった後で話したことでしょう。
私は何度も死のうとし、死にたいと思わない日はありませんでした。
愚かで弱く浅はかな人間でした。
でも苦しい時、助けてと口にしそうになることがありました。
その言葉を絶対に使ってはいけない人間なのに、
だから私は飲み込んで、自らを殺し続けました。
恥ずかしい人間だと蔑んでください。
いなくなって良かったと笑ってください。
ただ一つだけ、あなたの人生が幸福であることだけ願わせてください。
本当に申し訳ございませんでした。
アークスは便箋を閉じると、静かに涙を流した。二度と会えない、最初で最後の母からの言葉で、手紙となる。
「すまない…私のせいだ」
「違います、嬉しいのです。一通でも私のことを考えて、書いてくれたのですから」
「怒っていないのか?恨むだろうと、私は覚悟をしていた」
「話をしておけばと、悔しい気持ちはあります。お母様は、挨拶だけでも、絶対に無視したりはしなかったのです」
「そうか…」
あまりにも些細なことで、シュアンも胸が苦しくなった。
「私は大丈夫ですから、心配しないでください」
「私は何を言われてもいい。全て受け止めるから、何でも話して欲しい」
「はい」
歪な家族は、これからも二人だったようなものだが、これからは完全に生きていかなければならない。
3日掛けて家に戻ったアデルとトップスに、慌てて妻・オリーが飛び出して来た。
「…おかえりなさい」
「ああ、ただいま。行かせてくれて、ありがとう」
「ただいま戻りました、ありがとうございました」
アデルはオリーに挨拶をすると、すぐさま持ち帰った箱を部屋に運んで行った。
「何か、いただいたの?」
「アデル宛の母親の出せなかった手紙だ」
「え?何でそんな物」
「あれはあの子だけの物だ、理解して欲しい」
トップスは座ったままであるが、オリーに頭を下げた。
「どうして、そんな物を受け取って来たの?要らないって言えばいいじゃない」
「何を言っているんだ?もう二度と貰えないのだぞ?」
「母親はここにいるじゃない」
「それは分かっているが、彼女も母親だ」
何度話しても、ミファラを非難する言葉しか出て来ないのは、今までは我慢していたが、今日はさらに息苦しく感じる。
あなたにおすすめの小説
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。