【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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「どうせいい暮らしの片手間に書いただけよ」
「仕事もしていたし、お金も入れていて、いい暮らしなんかしていなかったよ」
「そんなの嘘よ、そう思わせたいだけに決まっているじゃない?どうして分からないの?そうやって、騙そうとしているのに?馬鹿じゃないの」

 心身ともに疲れて帰って来ているのに、どうしてこんな言い方しか出来ないのか。あまりの態度に苛立った。

「それは証拠があるんだろうな?高位貴族の知り合いなんていたのか?」
「証拠なんてなくても分かるのよ!」
「…質素な部屋だった」

 ミファラの部屋は部屋自体、家具も一流の物だろうとは思ったが、あまりに簡素だった。ここで生きていたのかと思うと、最後の別れた時の悲しむ表情が甦った。

 幸せではなかった…苦しんでいたのだろう。

「部屋に入ったの?」
「寝かされていたのだから、当たり前だろう?」
「別に入らなくてもいいじゃない」
「何を言っているんだ?おかしいと思わないのか?」
「どうせ、アデルのことも憶えていなかったはずよ。それなのに、手紙なんて、誰が書いたか分からないわ」

 答えになっていない、トップスは絵本や小説は買って来ていたが、ミファラのことを話すことはしなかったのに、どうしてここまで敵意を示すのかが分からない。

 二人はそもそも恋愛結婚ではない。丁度いいのではないかと勧められ、元々知っていたので、結婚したのがきっかけである。

 オリーは母親でもないのに、子育てをさせることに申し訳なさもあったが、持ち前の責任感から、一人ではないが、親や姉の手を借りながら、一生懸命やってくれていた。それは感謝している。

 だが、ミファラに会わせられなかったのを、オリーのせいだとどうしても思ってしまう。幼い頃は難しくとも、今は分別がある。オリーの話を真に受けてもいない。無理にでも会わせてやればよかった…ミファラには会う資格があった。

「彼女の字だった」
「何よ!私の言っていることが正しいのよ」
「いい加減にしろ…もう聞いていられない」

 オリーは一瞬、たじろいだが、すぐにまた喚き出した。

 トップスは無視して、アデルに念のため、手紙を気を付けて保管するように言おうと部屋に行くと、すすり泣く声が聞こえた。

 しかし、オリーが追い掛けて来たようで、オリーの声で聞こえなくなった。ゆえに戻ることにした。

「育ててくれたことには感謝している。だが、彼女だってアデルを手放したくはなかったことは分かるだろう?それなのに、どうしてそんないい方しか出来ないんだ?」
「私が母親なのよ」
「オリーもだろう?」
「あの人は半年しか育ててないのよ!」
「違う!育てられなかったんだ!間違るな!アデルにも何度も何度も、派手な暮らしをして、もう忘れていると、吹き込んで…あの子が母親にそんな風に思われて、悲しまないと思っているのか?」
「だって、事実でしょう」

 頭に血が上っているのか知らないが、話を聞き入れる気がない。

「事実じゃない!手紙は数えてはいないが、500通はあるはずだ。何も思っていないのに、書けるか?ずっとアデルに向かって書いていたんだ、母親だというなら気持ちはわかるだろう?分からないのか?」
「だからそれは、あの人が書いていないのよ」

 ミファラの字だと言っているのに、一体誰が書いたというのか。自分の都合のいいように、なるわけもないのに、何を言っているんだ。

「君と話していると、頭がおかしくなりそうだ。もういい」
「何よ、もういいって」
「もういい、この件について話を受け止める気がないのなら、話をする気はない…」
「はあ?何よ、私が悪いみたいに、出て行ってもいいと言うの?」

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