1 / 85
喪失感
しおりを挟む
人は神から誕生を祝って、ギフトを授かって生まれて来る。
ロングリノ王国でも、皆がギフトを持っていた。
だが、目がいい、鼻が利く、舌が敏感など五感が多少優れた個性程度のものから、他者には絶対に出来ないようなギフトを持って生まれて来ることもあった。
遺伝するものではなく、ランダムだと言われているが、使い方によっては人を傷付けることもあるが、ギフトで人を殺したりすることは出来ない。同時に、人を生き返らせることも出来ない。
チェルシー・フェルニナも、珍しいギフトを持つ者であった。
チェルシーは、一年前に騎士であった夫・ロインを亡くした未亡人だった。
ダークブロンドの髪色に、ダークブルーの瞳、目に留まるような美貌を持ち、美しくないと言われても、負け惜しみにしか聞こえない風貌であった。
だが、中身は快活で、育った環境によって少し意地悪でもあった。
目の細いロインは、ライトブラウンのくせ毛の髪質で、ふんわりとした可愛らしい風貌で、二人が並ぶとお似合いに見えて来るほど、二人は公の場ではいつも一緒で、とても仲の良い夫婦であった。
ロインは集中豪雨の災害支援に行っていた先で、二次災害に巻き込まれた不幸な事故であった。
ロインは穏やかで、優しい男であった。チェルシーはロインよりも一つ年上で、チェルシーが家を支えていた。
結婚して二年が経っていたが、二人には子どもはいなかった。
チェルシーはロインの死で絶望というものを、初めて知ることになった。
励まされても、その時はそうよねと思っても、ふとロインがいないことに喪失感を感じるという日々を送ることになった。
だが、誰よりもロインが仕事に誇りを持っていたことを知っており、悲しい気持ちも、喪失感も当然だったが、ロイに恥じないように前を向いて生きて行こうと、一年経つ頃にはようやく思えるようになっていた。
ロインがフェルニナ伯爵家を継ぐ予定だったが、ロインの弟であるリオイが継ぐことになった。
二人は仲の良い兄弟で、チェルシーとも仲が良く、義両親もリオイの妻・エイミーもチェルシーを慕っており、このままフェルニナ伯爵家にいて欲しい、横に邸を建てればいいと言い出すことになった。
流石に自分だけのために建てることは申し訳なく、せめて家だけは別にさせて欲しいと、義両親やリオイが見付けて来た丁度売りに出ていたフェルニナ伯爵家から近い、庭付きの小さな邸に引っ越すことになった。
まさにスープの冷めない距離である。
ロインと二人で使っていた物も移動し、ロインの残してくれたお金とチェルシーのお金で購入したが、他の者は義両親とリオイとエイミーが引っ越し祝いだと足りないものを購入してくれた。
チェルシーはあまりに早く人生を共に歩む相棒は失ったが、心の中には笑顔のロインが生き続けている。それに二人で飼っていた三匹の犬、三匹の猫もいる。
生家であるトートレイ伯爵家と折り合いが悪いわけではなかったが、個性の強い家族であったために戻る選択肢はなかった。
だが、ある日、チェルシーは買い物に行った先で、学園で同級生だったシルヴァル・フォストに声を掛けられることになった。
「チェルシー嬢」
「フォスト様、こんにちは」
シルヴァルはフォスト侯爵家の嫡男で、ブロンドの髪にブルーの瞳で、精悍な顔立ちをし、目立っている存在ではあった。
だが、チェルシーとは挨拶を何度かした程度であり、わざわざ声を掛けるような間柄ではない。
「少し話がしたいのだが、よろしいだろうか」
「話ですか?」
「ああ、大事な話なんだ」
「は、い」
チェルシーは護衛を連れているシルヴァルと共に、喫茶店の個室で向き合うことになった。護衛は扉の前で待っているので、実質二人きりであった。
「大事な話とは何でしょうか?」
「実は私には愛する人がいるんだ」
「はあ」
恋愛相談でもされるのだろうか、私の知り合いなのだろうかと、チェルシーはやる気のない返事をするしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
またも新しい話を書きたい気持ちが沸き上がり、
現在、連載中の一作に終わりの目途が立ったので、
書き始めたいと思います。
いずれ書いてみたいと思っていた契約結婚にまつわる話です。
本日はスタートダッシュとハッピーホワイトデーということで、
1日2話、投稿いたします。次は17時です。
よろしければ、どうぞよろしくお願いいたします。
ロングリノ王国でも、皆がギフトを持っていた。
だが、目がいい、鼻が利く、舌が敏感など五感が多少優れた個性程度のものから、他者には絶対に出来ないようなギフトを持って生まれて来ることもあった。
遺伝するものではなく、ランダムだと言われているが、使い方によっては人を傷付けることもあるが、ギフトで人を殺したりすることは出来ない。同時に、人を生き返らせることも出来ない。
チェルシー・フェルニナも、珍しいギフトを持つ者であった。
チェルシーは、一年前に騎士であった夫・ロインを亡くした未亡人だった。
ダークブロンドの髪色に、ダークブルーの瞳、目に留まるような美貌を持ち、美しくないと言われても、負け惜しみにしか聞こえない風貌であった。
だが、中身は快活で、育った環境によって少し意地悪でもあった。
目の細いロインは、ライトブラウンのくせ毛の髪質で、ふんわりとした可愛らしい風貌で、二人が並ぶとお似合いに見えて来るほど、二人は公の場ではいつも一緒で、とても仲の良い夫婦であった。
ロインは集中豪雨の災害支援に行っていた先で、二次災害に巻き込まれた不幸な事故であった。
ロインは穏やかで、優しい男であった。チェルシーはロインよりも一つ年上で、チェルシーが家を支えていた。
結婚して二年が経っていたが、二人には子どもはいなかった。
チェルシーはロインの死で絶望というものを、初めて知ることになった。
励まされても、その時はそうよねと思っても、ふとロインがいないことに喪失感を感じるという日々を送ることになった。
だが、誰よりもロインが仕事に誇りを持っていたことを知っており、悲しい気持ちも、喪失感も当然だったが、ロイに恥じないように前を向いて生きて行こうと、一年経つ頃にはようやく思えるようになっていた。
ロインがフェルニナ伯爵家を継ぐ予定だったが、ロインの弟であるリオイが継ぐことになった。
二人は仲の良い兄弟で、チェルシーとも仲が良く、義両親もリオイの妻・エイミーもチェルシーを慕っており、このままフェルニナ伯爵家にいて欲しい、横に邸を建てればいいと言い出すことになった。
流石に自分だけのために建てることは申し訳なく、せめて家だけは別にさせて欲しいと、義両親やリオイが見付けて来た丁度売りに出ていたフェルニナ伯爵家から近い、庭付きの小さな邸に引っ越すことになった。
まさにスープの冷めない距離である。
ロインと二人で使っていた物も移動し、ロインの残してくれたお金とチェルシーのお金で購入したが、他の者は義両親とリオイとエイミーが引っ越し祝いだと足りないものを購入してくれた。
チェルシーはあまりに早く人生を共に歩む相棒は失ったが、心の中には笑顔のロインが生き続けている。それに二人で飼っていた三匹の犬、三匹の猫もいる。
生家であるトートレイ伯爵家と折り合いが悪いわけではなかったが、個性の強い家族であったために戻る選択肢はなかった。
だが、ある日、チェルシーは買い物に行った先で、学園で同級生だったシルヴァル・フォストに声を掛けられることになった。
「チェルシー嬢」
「フォスト様、こんにちは」
シルヴァルはフォスト侯爵家の嫡男で、ブロンドの髪にブルーの瞳で、精悍な顔立ちをし、目立っている存在ではあった。
だが、チェルシーとは挨拶を何度かした程度であり、わざわざ声を掛けるような間柄ではない。
「少し話がしたいのだが、よろしいだろうか」
「話ですか?」
「ああ、大事な話なんだ」
「は、い」
チェルシーは護衛を連れているシルヴァルと共に、喫茶店の個室で向き合うことになった。護衛は扉の前で待っているので、実質二人きりであった。
「大事な話とは何でしょうか?」
「実は私には愛する人がいるんだ」
「はあ」
恋愛相談でもされるのだろうか、私の知り合いなのだろうかと、チェルシーはやる気のない返事をするしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
またも新しい話を書きたい気持ちが沸き上がり、
現在、連載中の一作に終わりの目途が立ったので、
書き始めたいと思います。
いずれ書いてみたいと思っていた契約結婚にまつわる話です。
本日はスタートダッシュとハッピーホワイトデーということで、
1日2話、投稿いたします。次は17時です。
よろしければ、どうぞよろしくお願いいたします。
2,043
あなたにおすすめの小説
殿下、その婚約破棄の宣言が、すべての崩壊の始まりだと気付いていますか?
水上
恋愛
※断罪シーンは4話からです。
「……位置よし。座標、誤差修正なし」
私はホールのちょうど中央、床のモザイク模様が星の形を描いている一点に立ち、革靴のつま先をコンコンと鳴らしました。
「今日、この場に貴様を呼んだのは他でもない。貴様の、シルヴィアに対する陰湿な嫌がらせ……、そして、未来の国母としてあるまじき『可愛げのなさ』を断罪するためだ!」
会場がざわめきます。
「嫌がらせ?」
「あの公爵令嬢が?」
殿下は勢いづいて言葉を続けました。
しかし、この断罪劇は、誰も予想しなかった方向へと転がり始めたのです。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる