【完結】永遠の愛にはイロドリを

義務感

「こちらに書いてあるのが条件でございます」
「仕事として報酬をいただきます」

　弁護士アルカッドは、シルヴァルに条件の書類を渡した。

「よろしければ、サインをお願いいたします」

　—週に４日の午前中のみの勤務。

　—チェルシーは邸を持ち、動物も飼っているので、通いとする。

　—フォスト侯爵家で、業務に関係のない物は、チェルシーに用意する必要はない。

　—業務については、シルヴァル侯爵家が責任を持ってきちんと調べ、訊ねた際に応えられる者を置くこと。

　—恋人であるキャローズ・パット、キャローズ・パットの子どもについて、チェルシーは一切関与しない。

　—夫婦生活は業務外とする

　大まかにはそう書いてあり、細々と注意事項も記してある。

　シルヴァルは分かるはずもないが、同行しているアルカッド弁護士が書いた物でも、チェルシーが書いた物でもない。

「通いだなんて」

　シルヴァルは当たり前に、侯爵家に住むと思っており、愕然とした。

「では、報酬にこの邸をくださいますか？」
「な！」

　なぜ報酬として、邸を渡さなくてはならないのかと思った。さすがにチェルシーも断られることを前提で、話している。

「無理でしょう？でしたらこちらには住めませんわ」
「だが、帰って行く妻など」
「別居婚ということもありますし、用事があって出て行ったように帰りますから。後、こちらでは飲食は一切しませんので、何も用意することはありません。業務内容の分かっている者を置いてくだされば結構です」

　女主人の仕事はフェルニナ伯爵家でも行っていたことで、それぞれのこだわりはあるが、書式などは決められているので、大きく変わることはない。

「だが…」

　契約結婚だとは言ったが、あまりにも殺伐とした雰囲気に苛立った。　

　シルヴァルはチェルシーに恋心があるわけではなかったが、評価はしていた。お互いに一目につく容姿を持っていたが、彼女の周りには人が沢山いた。

　そして決定的に違ったのは、彼女にはきちんと愛する人がいること、そして愛してくれる人がいること。

　キャローズに会って、シルヴァルも手に入れることは出来たが、チェルシーたちのように爵位に問題がない相手ではなかった。

　ご主人のことは残念だったと思うが、思い合う夫婦だったことを知っている。面倒見のいいチェルシーなら、きっと再婚の話が出て困っていると思っていた。

　周りでもチェルシーが未亡人なんて勿体ない、そそられると下世話なことを言う者もいた。

　それならば、自分と契約結婚をして、キャローズと三人で仲良く暮らせばいいではないかと閃いた。

　両親にも話をすると、チェルシーの美しさはトートレイ伯爵の年の離れた姉で、騎士であったビアンカにそっくりのようで、ビアンカに憧れを持っていた両親はチェルシーを嫁に出来ると喜んだ。

　想定外ではあったが、父は私が纏めようかと言ってくれたが、自分で話さなければならないと思い、話をしたが、何度話しても断られることになった。

　チェルシーのことを考えていることが、どうして伝わらないのか。

　キャローズも目を引くチェルシーのことは知っており、好きなのかと不安にさせてしまったが、ご主人との話をすると納得してくれた。

　そして、チェルシーもシルヴァルに興味のない様子に安心して、キャローズも是非、正妻になって欲しいと願うようになった。

　少しずるい言い方をしてしまったが、父上のことを出せば考えてくれることになった。だが、いくら何でも、これではシルヴァルの思っている正妻ではない。

「当然のことだけで、フォスト侯爵家に負担はございませんでしょう？」
「じゃあ、好きにすればいい！護衛は付けない」
「ええ、犬を三匹連れて参りますので、外で待たせていただきます」
「犬？」