【完結】永遠の愛にはイロドリを

鈍感

「だが、君の妹なら」
「ええ、私は家族ですから、特例となっています。ある意味、優先していいのは私だけなのです」
「では君のドレスだと言って」
「私のサイズをあの子が着るのですか？サイズが合わないでしょう」

　姿絵のような体なら可能かもしれないが、どう考えても丈も体つきも、チェルシーのドレスをキャローズが着ることは滑稽でしかない。

「それは、そうだが…」

　シルヴァルはいやらしい視線ではないが、チェルシーのメリハリのある体を見て、キャローズとはサイズが違うことは分かった。

「ならば、待てばどうにかなるのか？」
「さあ？でも、新作や王女殿下のドレス、他にも令嬢のドレスを順番に作っているそうなので、何十年先になるか分かりませんよ？」
「それは…」

　今すぐ欲しいというわけではなかったが、何十年後となれば話は変わって来る。

「他のデザイナーに頼めばいいではありませんか？フォスト侯爵家なら、優先してくれるデザイナーくらいいるのではありませんか？」
「それは…」
「さすがに恋人のドレスは頼めませんか…」
「そうなんだ、だから」

　シルヴァルはさすが察しが良いと、嬉々とした声を上げた。

「キャローズさんはフォスト様以外、要らないとおっしゃっていたではありませんか。あなたがいるのですから、ドレスなんて何でもいいのではありませんか？そろそろ、仕事に戻ってもいいですか？」
「あ、ああ…」

　シルヴァルはそうだった。ドレスくらいと思ったが、目立たぬように、キャローズにはドレスはいつもと同じプレタポルテを買おうと決めた。

「妹君は王女殿下たちが優先になっているそうだ」
「え？王女って？」
「エカリオ王国の第二王女殿下、パソラシオ王国の第一王女殿下、レイシュアナ王女殿下は皆、妹君のご友人だそうだ」
「そんな凄い方だったの？」

　チェルシーはすでに有名だと言っていたが、キャローズは聞いたこともなかったので、若手デザイナーのドレスを着てあげるのもいいなどと考えていた。

　チェルシーの妹なら年も近く、価値観も合うはずだから、自分の希望通りに作ってくれるのではないかとも、期待していた。

「ああ、若手ではトップクラスだとは聞いていたが、私もそこまでだったとは思わなかった」

　チェルシーに頼めばどうにかなるのではないか程度にしか、シルヴァルも考えていなかった。自国のレイシュアナ王女殿下にはどうにか会って貰えてたとしても、頼めることではない。

「トップクラス？」
「ああ、学生時代から有名だった」

　だが、トートレイ伯爵家の次女だと聞けば、皆がああと声を漏らすような存在である。むしろ、チェルシーの方が凡庸な方だろう。

「チェルシー様に頼んだのに駄目なの？」
「お忙しいそうだ、王女殿下たちのドレスを担当しているのなら、当然だろう」

　チェルシーは分かり易く、王女殿下たちの名前を出したが、他の令嬢と言っても格上の公爵令嬢などもおり、知りもしない準男爵の娘のドレスを作る暇などないと口にしなかっただけである。

「でも、どうにかならないの？」

　シルヴァルは諦めさせるために話したが、キャローズはそんな凄い人なら、ますますドレスを作って貰いたいとしか考えられず、二人の考えはすれ違っていた。

「無理だよ、王女殿下に頼むことなんて恐れ多くて出来ない」

　キャローズはレイシュアナ王女殿下を遠くからしか見たことがなく、シルヴァルなら簡単だと思っていた。

「そうなのね…」
「ドレスは購入したらいい」
「分かったわ、ありがとう」

　欲しかった言葉はそうじゃないと思いながらも、物分かりのいい振りをするしかなかった。

　今まではシルヴァルの買ってくれるドレスで、満足していた。プレタポルテでも準男爵の娘には、上等過ぎるドレスである。

　だが、トップクラスのデザイナーが身内のような気分になっており、もう一度チェルシーに頼んでみようと考えた。