病める時も、健やかではない時も

野村にれ

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「父上、母上、モリー嬢に婚約の申し込みをさせてもらえませんか」

 レルスはファリスとケリーに、時間を取ってもらい、真剣な様子で申し出ていた。

「モリー嬢か」
「あなた、モリーに好意を持っていたの?」
「気に入ってはおりました」

 オルトに話すモリーを見て、レルスはモリーと結婚したいと決めた。

「正直ね、良いと思うの」
「ケリーは気に入っているものな」
「私も最初は穿った見方をしていたわ、我儘か卑屈か、最悪嫌がらせをしているか、受けている可能性だって」
「嫌がらせを受けているなら助けるべきでは?芸術祭のドレスのこともあったではありませんか」
「嫌がらせを受けているなら、彼女の立場ならどうにでもなるんじゃない?動けないわけではない、脅されている様子もない、助けを求める力はあるはずよ。それでも何もしないのだったら、それも問題だと思うの」

 誰かが助けてくれる、察して欲しいという考えもケリーは嫌っている。

「それは」
「でも、関わりを持っていないと言っていたでしょう?興味もない様子だった。害になるようなら、モリーなら排除するのではないかしら?立場が違うんだもの」

 高慢な言い方ではあるが、責任の重さが違うと言う意味である。

「あと、エリーのドレスを作る姿を見て、誤りだったと思ったの。あんなに穏やかに作れないわよ。成績も最低限はできておりますからね」

 高位貴族の中では良くはないが、立ち振る舞いや、マナーには問題ない。

 成績がすべてはないことは、ケリーも分かっている。あくまで指針であって、勉強しか出来ないよりいいだろう。

「オブレオサジュール公爵家のことだって、彼女には関係ないし、ただ反発はあると思うわ」
「婚約者候補に入っていなかったからな」
「そうなの、婚約者候補は黙っていないでしょうね」

 ファリスもモリーに反対する気はなく、すぐに婚約を申し込むことは渋る気持ちであった。

「モリーのために白紙にしたって思われるわ」
「分かっております。ですから、今すぐ婚約という話ではありません。彼女に被害があっては困りますから。オブレオサジュール公爵にだけ話を通してもらえませんか」
「モリーにはいいの?」
「いえ、モリー嬢の気持ちも聞かなくてはなりません。できればオルトの婚約が正式に決まって欲しいのですけど」

 オルトの婚約が決まってから、発表したいという思いであった。

「あの様子だとナリルミ王女殿下と上手くいくとは思えないでしょう?」
「断るのですか?」
「そうした方がいいのではないかとも思うわ」
「会わせるおつもりだったのでは?」

 この前は会わせると言っていたために、もしかしたらオルトも会えば気に入る可能性もあるのではないかと考えていた。

「でも、乗り気ではない態度を取るのなら、会わせない方が懸命じゃない?」
「父上もそう思っているのですか?」
「ああ、モリー嬢の話したイルメザ王国のことは聞いた。あの三姉妹は論外だが、あのような相手がいいと言っているようなオルトに、13歳の王女は合わないだろう」

 ケリーはファリスにだけはモリーの話したことを伝えると、本当に論外だと、絶対に迎え入れることはないと判断した。

「それは、確かに……」
「あちらにも返事をしなくてはならないから、明日もう一度聞いて、乗り気ではないのなら、まだ白紙にしてから時間が経っていないからと、断ろうと思う」

 確かにオルトが、年下の王女に乗り気ではないという態度を取って、国の関係も悪くなる方が困る。

「ですが、治癒師ならメイカ王国に申し込みをしそうなものですけどね」
「メイカ王国は年齢が合うような王族はいない」

 王太子は既に結婚しており、子どももいるが、まだ幼い。そして、メイカ王国は一夫一妻であるために、側妃の枠もない。
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