【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ

文字の大きさ
14 / 38

異物

しおりを挟む
「アウラ。リラ・ブラインが調べられていたそうだ。それにルカスも」
「シュアリーの耳に入って、陛下が動いたのでしょうね。シュアリーが面倒なことをしなければいいけど」

 アウラージュが夜会に姿を現したのは現在、ご厄介になっている家に頼まれたからであった。その令嬢がリラ・ブライン。誰が言い出したのか分からないが、アウラージュに似ていると、それに腹を立てたのはアウラージュではない人々。

「学園長も大きな問題を起こしそうだが、まだ起こしてはいないという難しいところで、困ってらっしゃるようだ」
「余計な者が出て来たものだわ。自由にしたいのなら、別の学校に行けばいいのに」

 数年に一度、学園を乱そうとする令息、令嬢が現れる。高位貴族とお近づきになりたいというのは、本能なのかもしれないが、風紀を乱すこととは別問題である。ゆえに王族は学園に通えなくなったのだ。

「あのナルシストも余計なことをしてくれたと思ったけど、これでシュアリーはリラ・ブラインの方に傾くでしょうね」
「自分のことは横に置いといてだろう?」
「同族嫌悪とも言えるわよね。自分は違うと思えるけど、不快だとは感じる」
「自分が見えていない証拠だろう」

 シュアリーの不勉強は王宮から出ないこと、周りがフォローすることでどうにか成り立たせている状況だ。だがリラは違う、学園に放たれてしまっている。

「悲しいことにあの妹によく似ているのよね、どうしてなのかしら?」
「ああ、どうしてるんだろうな」
「足取りが掴めないっていうのが一番恐ろしい気がするわよね」
「自業自得だがな」

 アウラージュは夜会以来、また表舞台から姿を消している。元々王宮育ちで、外に出ることも多くない、出掛けられないことも苦ではないので、問題はない。

 シュアリーは久しぶりにルカスと会うことになった。いくら何もなかったとはいえ、心を乱されたシュアリーは何か言わないと気が済まなかった。

「噂をお聞きしましたのよ」
「噂ですか」
「そうです、リラという伯爵令嬢のことです」
「彼女はただの同級生ですよ?」

 調べて貰ったから信じられるけど、そうではなかったら、浮気した人の言葉みたいで、信じられなかったかもしれない。

「仲が良いのでしょう?」
「別に良くないですよ、途中で入って来たので、話はしたことはありますけど」
「人気があるんでしょう?あの夜会の時もいたじゃない」
「あれは誰かが誘ったのでしょう。皆、新しく入って来たから、面白がっているだけだと思いますよ。シュアリー様が気にするような子ではありません」
「年下だからって子ども扱いしないで」
「そうではありません。あまり関わることのない相手だと思いますので」

 シュアリーは年下という立場を利用して甘えて来たのに、今度は子ども扱いしないで欲しいとは、随分矛盾だらけになってしまっている。

「でも勉強以外は自由にしたらいいなんておっしゃっているんでしょう?」
「そのようですね、ですが無理に決まっています」

 リラの考えは勉強はきちんとする、でもその他の王侯貴族の礼儀や交友関係は、学生の間だけは自由にしたらいいというものである。

「ルカス様も憧れますの?」
「憧れないとは言いませんが」
「ほら!」
「ですが、シュアリー様も勉強を投げ出したい気持ちになるでしょう?それと同じではないでしょうか」
「酷い!伯爵令嬢なんかと、同じだって言うの!」
「そうではありません、落ち着いてください」
「私だって、私だって、何なのよ!もう!何もうまくいかない。もう分からないわ」

 やりたくてやっている王太子教育ではない。唯一の人だと思ったルカスも、気持ちに余裕がないせいか、前のような気持ちではなくなっている。

 あの縁談を受けていたらと思う方が強くなっている時もある。あれがブルーノ殿下だったら、スイク王国は王太子教育で、第二王子はそのまま王太子の補佐として、王族に残ったままになると教えられた。王太子ほどの重圧もなく、でも王族でいられる、シュアリーの考えた案と同じだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』

恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り リリアーナ・レーヴェン(17) 容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる 完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢” エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生 ユリウス・エルンスト(17) 誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“ 祖父たちが、親しい学友であった縁から エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに 5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。 果たして、この婚約は”政略“なのか? 幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー 今日もリリアーナの胸はざわつく… 🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨

処理中です...