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2 書くだけならタダ
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「とにかく、書いてみようぜ」
放課後。
敦也が、丸めた赤いノートで、颯太の机をポンポンと叩いた。
休み時間のうちにさっそく何やら書きこんでいる人もいたが、敦也と颯太のノートは真っ白のままだ。
「そんなうまい話、あるわけないんだよなー」
気の乗らない颯太に、敦也は、
「書くだけなら、タダだぞ」
と、ノートを広げる。
「今日の夕飯に、ハンバーグが食べたい、と」
敦也が、筆圧の高い字でくっきりと書く。
「なんだ、そのちっぽけな願いごと」
「ノートには、まだまだ書くところがいっぱいあるんだ。本物なら、どでかい夢、書くけどさ。まずは小手調べってことで、叶いそうなやつからな」
敦也がノートを閉じた。
「それじゃぁ、ノートが本物かどうかわからないじゃん」
颯太は表紙をめくって、ノートの1ページ目を開いた。
「書くだけならタダなんて、大間違いだ。こういうのって、ノートが本物だったら、絶対やばいことが起こるんだよ」
颯太は声を低くして、敦也を上目づかいに見た。
「なにそれ。ホラーの見すぎじゃない?」
「まぁ、見てろって」
颯太はちょっと考えて、ノートの真ん中に大きくこう書いた。
『悪魔に会いたい』
敦也が、あちゃーとおでこを押さえた。
「うわー、最悪。絶対颯太、美恵ちゃんの敵だよ。こういう時は、いかにも叶いそうな願い書くもんだよ。願いが叶ったって言えば、美恵ちゃん喜ぶのになー」
「さっそく先生のことちゃんづけするなよ。っていうか、願い書いたの、そういう目的なわけ? 結局、敦也も信じてないんじゃん」
チャウチャウ、と敦也が顔の前でヒラヒラと手を振った。
「願いを叶えるには、信じる気持ちが大切だって、美恵ちゃん言ってただろ。俺は断然、美恵ちゃんを信じるね。だって可愛いもん」
「意味ワカンネー」
颯太が、敦也の頭をはたくと、
「イッテーなー」
と右からこぶしが飛んできた。
颯太は素早くそれをかわすと、ランドセルを背中にしょった。
「あっ、逃げるの、ずる」
走り出した颯太を、あわてて敦也が追う。
「帰ったら、広場でサッカーな」
昇降口を出たところで振り返って叫ぶ颯太に、敦也がゴメンと両手を合わせた。
「キャッチボールの方がいい? それとも……」
颯太の声をさえぎるように、敦也が早口で言う。
「わるい。今日から、塾に行くことになったんだ」
「かーちゃんか? どうしても行けって?」
うまく下校中の児童をよけながら、後ろ向きに走り続ける。
「まぁ、そんなところ」
敦也の返事に、颯太は足を止めた。
「なんだよ。どうしてもっと早くに言わないんだよ。おまえもとうとう悪魔に魂を売ったか」
「人のかーちゃん、悪魔よばわりかよ」
敦也が駆けてきて、
「スキありッ」
と、颯太の頭をはたいた。
「おい、待て」
今度は、颯太が敦也を追いかける番だ。
「待てったら」
颯太の方が足は速いはずなのに、どんどん敦也に先を行かれてしまうような気がした。
颯太はあせりにも似た気持ちで、地面を強く蹴った。
なんだか、夢の中で走っているような気分だった。
走っても走っても、前に進めない。
放課後。
敦也が、丸めた赤いノートで、颯太の机をポンポンと叩いた。
休み時間のうちにさっそく何やら書きこんでいる人もいたが、敦也と颯太のノートは真っ白のままだ。
「そんなうまい話、あるわけないんだよなー」
気の乗らない颯太に、敦也は、
「書くだけなら、タダだぞ」
と、ノートを広げる。
「今日の夕飯に、ハンバーグが食べたい、と」
敦也が、筆圧の高い字でくっきりと書く。
「なんだ、そのちっぽけな願いごと」
「ノートには、まだまだ書くところがいっぱいあるんだ。本物なら、どでかい夢、書くけどさ。まずは小手調べってことで、叶いそうなやつからな」
敦也がノートを閉じた。
「それじゃぁ、ノートが本物かどうかわからないじゃん」
颯太は表紙をめくって、ノートの1ページ目を開いた。
「書くだけならタダなんて、大間違いだ。こういうのって、ノートが本物だったら、絶対やばいことが起こるんだよ」
颯太は声を低くして、敦也を上目づかいに見た。
「なにそれ。ホラーの見すぎじゃない?」
「まぁ、見てろって」
颯太はちょっと考えて、ノートの真ん中に大きくこう書いた。
『悪魔に会いたい』
敦也が、あちゃーとおでこを押さえた。
「うわー、最悪。絶対颯太、美恵ちゃんの敵だよ。こういう時は、いかにも叶いそうな願い書くもんだよ。願いが叶ったって言えば、美恵ちゃん喜ぶのになー」
「さっそく先生のことちゃんづけするなよ。っていうか、願い書いたの、そういう目的なわけ? 結局、敦也も信じてないんじゃん」
チャウチャウ、と敦也が顔の前でヒラヒラと手を振った。
「願いを叶えるには、信じる気持ちが大切だって、美恵ちゃん言ってただろ。俺は断然、美恵ちゃんを信じるね。だって可愛いもん」
「意味ワカンネー」
颯太が、敦也の頭をはたくと、
「イッテーなー」
と右からこぶしが飛んできた。
颯太は素早くそれをかわすと、ランドセルを背中にしょった。
「あっ、逃げるの、ずる」
走り出した颯太を、あわてて敦也が追う。
「帰ったら、広場でサッカーな」
昇降口を出たところで振り返って叫ぶ颯太に、敦也がゴメンと両手を合わせた。
「キャッチボールの方がいい? それとも……」
颯太の声をさえぎるように、敦也が早口で言う。
「わるい。今日から、塾に行くことになったんだ」
「かーちゃんか? どうしても行けって?」
うまく下校中の児童をよけながら、後ろ向きに走り続ける。
「まぁ、そんなところ」
敦也の返事に、颯太は足を止めた。
「なんだよ。どうしてもっと早くに言わないんだよ。おまえもとうとう悪魔に魂を売ったか」
「人のかーちゃん、悪魔よばわりかよ」
敦也が駆けてきて、
「スキありッ」
と、颯太の頭をはたいた。
「おい、待て」
今度は、颯太が敦也を追いかける番だ。
「待てったら」
颯太の方が足は速いはずなのに、どんどん敦也に先を行かれてしまうような気がした。
颯太はあせりにも似た気持ちで、地面を強く蹴った。
なんだか、夢の中で走っているような気分だった。
走っても走っても、前に進めない。
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