ウィッチアタック・ギャラクチカ

まんなかは恥ずかしい

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その3

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 終業のチャイムが鳴ってしばらくすると、どやどやと友人たちが押しかけてきた。いやはや、ありがたいことですね。
「西山ぁ、もう平気なのか? さっき聞いてびっくりしたよ。やっぱりさぁ、昨日あれだけのことをされて、何ともないなんてことはなかったんだよ」
 夏目が俺の背中をばしばし叩く。心配しながらどうして叩くのか。耐久性のテストみたいなものだろうか。それはさておき、夏目の言葉に複雑な顔をするシルシュ。夏目相手には素直にしおらしくする気はないらしい。昨日、大事な部分を痛撃された恨みだろう。垣間見える確執。
 あーちゃんがカバンを持ってきてくれたので、その足で下校してしまうことにする。教科書が入っていないのに妙に重たいと思ったら、そういえば昼食を食べ損ねていた。母よ、すまない。
 バスケ部の練習は、あっても行かないけど今日はない。それで夏目が帰るからか、志津木も一緒だった。
「まったく、急に凛花と二人で教室から出てったっていうから、どうしたのかと思えば……」
「そんなつもりはなかったけど、そう聞くとなかなか心躍るシチュエーションだなぁ」
「言ってなさいよ。これ以上凛花には近づけさせないからね」
「お前はどうして俺の恋路を邪魔することに使命感を燃やすの?」
 へん、と鼻を鳴らすだけで、志津木は答えてくれない。
 そして、その藤野も来てくれている。わかっている、べつに俺のお見舞いなどではなくて、お目当てはシルシュだ。マイナーな部活を渡り歩くよりも、今日はこっちが楽しめると踏んだのだろう。いいんだけどね、何ともないのに変に気を遣われるのも決まり悪いし。
 シルシュが見つかったら騒ぎになるかもしれないので、人目を避け、五人で囲んで歩いた。SPの気分。要人を守る壁。一か所だけ防御力が不安だとこぼしたら、低い壁こと志津木に蹴られた。
 学校から充分に離れたところで、校舎に突っ込む羽目になった経緯をシルシュに問い質す。
「みなさんと別れたあと、別の魔力を探そうと思って移動しました」
「探すって、あのコンパスみたいなやつでか?」
 聞き役はあーちゃんに任せる。たいていのことはあーちゃんに任せればうまくいくのだ。そして俺は黙っていたほうがうまくいくケースが多い。
「コンパス? って、なんです?」
「あの丸いやつだよ。一番大きな魔力を探知するとかなんとか」
「ああ、はい、そうです。ニシヤマさん以外の魔力を指し示すところまで離れなくちゃいけないと思って。すぐにまた暗くなってきたんですけど、それでもしばらく進んで、けどどこまで行っても駄目で、それで暗くて気づかなかったんですけど、いつのまにか全然ヒトとかいそうにないところまで来ちゃってたんですね。見渡す限り真っ平で真っ黒な地面が広がってて、なんですかね、あれ。この世界の端っこのほうでしょうか」
「え、待って。こいつどこまで行ったの? こわいんだけど」
「海だろ」
 あーちゃんがあっさり言う。なんだ海か。おののいて損した。
「あれ、海だったんですか? 海って、向こうのほうにある青いところですよね? あそことは全然違いましたけど」
「沖と浜じゃ、かなり違って見えるかもな」
 首を傾げるシルシュ。てゆうかこいつ、海を知らんのか。やっぱり本当に異世界人なのか。ただの海無し県民だったりしたら承知しねえぞ。
 それで、と若干じれた様子であーちゃんが先をうながす。
「それで……どうしたものかと途方に暮れてたんですけど、ふと大事なことに思い当たりまして。よく考えたら、この世界では魔力がなくなったらそれきりなんですよ。そんなこと初めてですから思いもよりませんでした。それで、急いで戻ってきたんです。ニシヤマさんにはお師匠から注入された魔力がありますから、分けてもらおうと思って」
「んなことできんのか? 魔女じゃなくても?」
 できます、とシルシュ。って言われても、そんなの知らないんですけど……ははーん、俺は察したよ? それはさ、分けてもらうんじゃなくて奪い取るんじゃあないのかい?
「でも、そうするまでもなく、ニシヤマさんからは魔力が漏れてるみたいです。近くにいるだけで充分ですね」
「え、そうなの? なんかヤだな」
 そう言って顔をしかめたのは俺ではなく志津木。待ってください、不可抗力ですよ。べつに汚いものじゃないし。ないよね? ねえ?
 はい、とここで藤野が挙手。
「ひょっとして、言葉が通じたり通じなかったりしていたのも魔力の関係?」
「ああ、はい、ですね。今こうして話していることも、魔力の影響で翻訳されてます。もう大変でしたよ。ニシヤマさんが来てくれるまで、男の人たちに連れられていって、何を言われてるのか全然わからないし、私の言うこともわかってもらえないし……」
「泣きそうだったもんな」
「そんなことないですし!」
 からかってやると、ムキになって言い返してきた。図星かもしれない。
「するとつまり――魔力がなくなりそうだから補充のために急いで戻って来たけど、もうちょっとのところで魔力が切れて、校舎に墜落した、と」
 あーちゃんがまとめると、シルシュはしゅんとなって小さくうなずいた。反省はしているもよう。



 その後も、あーちゃんはシルシュにいろいろ質問していた。
「ねえねえ西山、ねえ西山」
 その様子を後ろから眺める俺の肘を、藤野がリズミカルに小突く。おい、そういうのうれしいからもっとやって。
「なに?」
「あの子はどうしてあーちゃんに懐いているの?」
「言わずもがな。あーちゃんの人徳のなせる業だろう」
「具体的によろしく」
「そう言われてもな。なんでそんなこと気にすんの?」
「だって……さっき私だけ除け者にされちゃったし、悔しい」
「そういうもの?」
 同級生の男子に、年少の女子を手懐けることに関して後れをとることがあってはならない。そういう価値観があるのかもしれない。あとどう見ても悔しいんじゃなくて拗ねてる。ほほえまし~い。
「うーん……魔法ってさ、非常識じゃん?」
「じゃん」
「本当なら、もっとおどろいたり、信じられなくってパニックになったりするもんだと思うんだよ。なりゆきでなんとなく受け入れてるけど」
「そうねぇ」
「ただ、受け入れてはいるけど、いちいちあわてふためいたりしないだけで、結局のところ状況に流されてるだけなんだと思う。目の前で起こったおかしな出来事について、それは魔法の仕業ですって説明されたとして、俺たちは一応信じたつもりでいるけど、実際には信じてないのと変わらないんじゃないかと思うんだ。でもあーちゃんは違ってて、信じる信じないとかって問題じゃなくて、実際に直面したものをそのまま受け止めて、きちんと話も聞いて、自分で考えてるんだよ。シルシュは、俺たちにとって魔法っていうものが非常識でありえないものだって知ってる。だから、自分のする話を頭ごなしに否定するでも、ただ鵜呑みにするのでもなく、しっかり聞いて、わからないところは質問して、そのうえできちんと考えてくれるから、あーちゃんを頼りにしてるんだと思う」
 我ながらたどたどしかったが、藤野は納得してくれたようだった。そればかりか、いくらか感心したようでもあって、俺を見る目に若干の好感が見て取れる気がする。気のせいかな? 気のせいでないといいなあ。
「そうかぁ……あれね、子供の目線に立つってやつね」
「ああ、そう。まさにそれ。一言で済む話だった」
「いえいえ、なかなか興味深いお話でした。それで、あーちゃんは魔女探しを手伝うつもりなのかしら?」
「え」
 そう言われてみれば、そうなのかもしれない。単なる好奇心であれこれ聞き出しているわけではないだろう。シルシュに対して親身になる理由にも思い当たるフシがある。しかしだからといって、魔女なんていう面妖極まる相手に力になれるようなことがあるとは思えない。いかにあーちゃんといえどもねぇ。
「西山も?」
「俺は嫌だよ。これ以上関わり合いになりたくない」
「ふぅん? そういえば、あの子に大事な用があるって言ってなかった?」
「…………」
 そうだった。シルシュには藤野のことを思い出させてもらわなければいけないんだった。これは他ならぬ彼女の師匠の仕業である疑いが濃厚だし、仮にそうでなかったとしても、昨日さんざんな目に遭わされた貸しもある。嫌だとは言わせん。



 帰路は、やがてばらばらになる。初めに夏目と志津木が角を反対に折れた。ややあって藤野も横道を指さす。もっとシルシュにまとわりつくかと予想していたので、ちょっと拍子抜け。
 藤野の家がどのあたりなのか、実は気になっている。子供同士が会っていたくらいだから、きっとウチとはご近所のはずだと思うのだが、変に探りを入れて鬱陶しがられてもいけないし、まずは当時のことを思い出すのが先決。
 あーちゃんとシルシュは話し続けている。俺は話し相手がいなくなって、二人の後ろをただ歩く。
「結局、魔女を探すアテは〈コンパス〉だけなのか?」
「リゼリヤお姉さまに、そう言われて渡されたんです。この世界にお師匠がいるって突き止めて送り出してくれたのもお姉さまで、言うとおりにすればきっとすぐ見つかるものと……」
「自前の魔法で魔力を探知できたりしねーの? 〈コンパス〉とは別の方法で、ざっくりでも複数箇所を探知できるような」
「魔力を飛ばして、反応を得る方法があります」
「そうそう、そういうの。ソナーとかレーダーみたいな。魔女に知られるんだろうが、そんなもん気にしてられんだろ」
「でも、駄目なんです。この世界はマナがとても薄いので」
「そういや教室の壁を直したときにも言ってたな。マナって?」
「魔法を媒介するもので、魔力の元にもなります」
「ああ、それでか。マナがないから、自前の魔力がなくなったらそれきりってことなんだな。そんじゃ、さっき西山から魔力が漏れてるって言ってたが、その場に魔力があるかどうかはわかるんだな?」
「わかります。すぐそばなら」
「なら、西山以外で魔力を漏らしてる奴がいたら、魔女か、魔女に囮にされた奴ってことになるか」
「うぅん……まずですね、周囲に魔力があることがわかるだけで、ニシヤマさんから魔力が漏れてるのを直接感じ取れるわけじゃないんです。だから、大勢ヒトがいるところで魔力を感じ取っても、誰から漏れているのかはわからないんです」
「ってことは、西山の近くで別の誰かから魔力が漏れていたとしても、そうとはわからないってことか。それが魔女だったとしても」
「それに、ニシヤマさんから魔力が漏れてるのは、ニシヤマさんが魔法使いじゃないからです。魔法使いは魔力をとどめる技術を身に付けます。でないと非効率ですから。息を止めて我慢するようなもので、完全に防ぐことは難しいんですけど、相手はお師匠ですし……」
「簡単に気取らせてはくれんだろ、と。たとえば、直に身体に触れるとかしても駄目か?」
 シルシュは首を振る。二人の話を聞くともなしに聞いているだけの俺には、その否定が具体的にどういう意味を持つのかよくわからない。そして、わからない話に熱中している人たちを見ると、どうにもちょっかいをかけたくなってしまう。いけない癖であるが、むくむくと湧き上がる気持ちを抑えられない。
「聞いてると、なんだかんだ不便なんだな、魔法っていっても」
「魔法ですから、なんでもできるわけじゃないんですよ」
「魔法なんだから、なんでもできそうなもんじゃないか」
「魔法だから、なんでもはできないんです!」
「むう……」
 そういうものらしい。昨日この身でもって体感したデタラメなあれやこれやが、何らかの制限の上でのものだったとはちょっと信じがたい。
「スマホはあるけど電波がない、みたいなもんだろ」
「そのたとえ、ホントに合ってる?」
「知らん」
 と、あーちゃん。あのさ、馬鹿相手だからって適当なこと言うのやめて?
「それよりあーちゃん」
 話を変える。俺も会話に混ざりたい。
「こいつ本当に戻って来たね。予想、当たったじゃん」
「お前、話なんも聞いてなかったろ。全然当たってねーよ」
「ええっ、でも実際戻ってきたし」
「理由が違うだろが。魔力が切れるとか、そんなん考えもしてねーよ」
「じゃあ、どうしてです?」
 わずかに目を大きくして、あーちゃんを見上げるシルシュ。青い瞳で見つめられて、あーちゃんは視線を泳がせた。
「あー、なんだ、要するに、囮なんて無意味だってことだ」
「確かに……どっちみち見つけ出せないんだから、囮なんてあってもなくても変わりないですね……」
「ああ。だから、西山が囮になってること自体に、なんか意味があるんじゃねーかと思ったわけ」
「なるほどー……ごめんなさい、そこまでは考えつかなかったですね……」
「ま、しょうがないさ。お前にあーちゃんレベルを求めるのも酷な話だ」
「……なんでニシヤマさんがえらそうなんですか」
 シルシュが鬱陶しそうににらみつけてくる。違うぞ。俺が偉ぶってるんじゃなくて、こうしてあーちゃんの偉さを愚民どもに知らしめてるわけ。
「気になるのは、リゼリヤお姉さまとやらだな」
 火花を散らす愚民をよそに、あーちゃんが改めて口を開く。
「お姉さまが?」
「決定打になりえない捜索手段しか渡さずに送り出したんだ。どう考えてもおかしい。たぶん、そいつは魔女の思惑にある程度察しがついていたんじゃねーか? それとも、魔女とグルなのか」
「お姉さまが私を騙してるってことですか? そんなことはないと思いますけど……」
「〈コンパス〉さえ渡しておけば、魔女を探し当てることは無理でも、痕跡をたどることはできる。それだけで充分なんだろ。追手が近づけば、魔女のほうから寄ってくるってことなんじゃねーかな」
「……どゆこと?」
 俺にはさっぱりわからない。まあでも、俺があーちゃんの深慮に接して理解が及ばないのは今に始まったことじゃない。気に入らないのは、何やらわかったふうのシルシュが、真剣な顔つきで考え込み始めたことだ。ニワカのくせに、ちょっと生意気だと思うー。



 シルシュの探す魔女ロワリィは、『うつつろの魔女』とも呼ばれ、そのスジではたいそう有名なのだそう。そのスジがどのへんのスジなのかはさっぱりだが、我々の知る世間と隔絶していることは確実だろう。
 シルシュにとって魔女は師匠であり、生みの親でもある。ただし血縁関係があるのではなく、魔女の手によって造り出されたホムンクルスなのだという。
「ホムンクルスって?」
「…………」
 珍しく声を失って動揺をあらわにするあーちゃんは、俺の質問にも反応がない。
「……あーちゃん?」
「え? あ、ああ……あれだ、ナマモノの人型ロボだ」
「へー……」
 つまり、人間じゃない。なるほど、確かに、ちょっと言葉が出ない。でも髪色以外は普通の女児だし、姉の面影もあるし、そう言われてもピンとこない。髪だって、コスプレみたいな恰好のせいであんまり違和感ないし。
 ともあれ、シルシュは魔女によって生み出された。どうして手間をかけてそんなことをするかといえば、自分の面倒を見させたいからだ。師弟関係は便宜上のもので、実態は雇い主と家政婦の関係に近い。実際、初めからある程度の知識を学んだうえで生まれてきており、魔法に関しても特別何かを教わるようなことはなかった。
 やることは、もっぱら家事。
「ご隠居のお世話でもしてる感じかねぇ」
「確かにお師匠は長く存在してますけど、お年寄りじゃありません。そもそも老いたりしませんし。それに隠居の身だったら、気まぐれにいなくなられても放っておけるんですけどね……」
 しかし、こうして苦労して探さなければならない。というのも、魔女は現役だからだ。
 魔女は、『全一なる宇宙を管理統制することを目的とした連合団体』、通称『全宙連』の特殊災害に対応する小部門で働いているらしい。
「おいおい、ついに謎の組織が登場しちゃったよ」
 俺は手のひらを上に向けた。
「それよりも僕は翻訳の性能に驚愕している」
 さすがはあーちゃん、専門的な着眼点。
 勤めているのに行方をくらましたということは、とりもなおさずサボっているということ。仕事を放置して無断欠勤。咎められて当然の所業といえよう。
 ただ、一般的な話と若干事情が異なるのは、魔女は正規の人員ではないとのこと。嘱託というのか、スペシャリストとして請われて力を貸している立場。だから組織の上下関係には組み込まれていないし、利害や理念の一致する対等な関係でもない。流しの用心棒のように、気の向くままに助力を打ち切っても文句を言われる筋合いにない。
 ただ、魔女の力を当て込んでいる側としては、どういうつもりであろうと前触れもなしにいなくなられては困る。しかし行方知れずのうえに音信不通ではどうにもならない。
 そこで彼らが頼ったのが、魔女の弟子たちだった。
「弟子って、どれくらいいるの?」
「たくさんいますよ。私は、今回のことがあるまで誰とも会ったことなかったんですけどね。昔は違ったんだそうですが、お師匠は身の回りの世話をさせるのは一人だけと決めているそうです。ヒトの弟子も、今はとらないことにしてるみたいで、もうずっと自分で造ったホムンクルスばかりで。弟子が出ていくと、また一人造って。そうやって出ていった弟子たちの多くは『全宙連』で働いているんだそうです」
「その弟子たちなら、居場所を知ってるんじゃねーかと思ったわけだな」
 あーちゃんが察したとおり、『全宙連』は弟子たちに心当たりがあることを期待した。だが、その当ては外れる。弟子たちはこぞって魔女との関わり合いを避けており、同じ勤め先とはいえ師匠の下を離れて以来一度も顔を合わせていない。失踪先など知る由もないとのこと。
 ただ、失踪の理由には簡単に思い当たった。皆、口をそろえて言う。嫌がらせに違いないと。
 弟子たちは捜索に非協力的で、また、魔女の抜けた穴を埋めるためにもその力は欠かせない。
「それで、リゼリヤお姉さまが私のところにやってきました。せめて誰か一人でも様子を確かめてきてほしいって話になって、その場で一番年少だったリゼリヤお姉さまが押しつけられてしまったんだそうです。私より三代くらい前の弟子ってことでした。家の中をあちこち見て回って、すぐにお師匠の行く先をつきとめて、私をこの世界に送ってくれました。私、それまでお師匠はお仕事で出掛けてるんだと思ってたんですよ。何も言ってくれなかったし、なかなか帰ってこないなあとは思ってたんですけど」
「あの、ひとつ気になるんだけど」
「なんですか?」
「もしかして、魔女って嫌われてる? 師匠なのに?」
 隣であーちゃんが細かくうなずいている。同意見らしい。いやまあ確かに、学校の先生とか、積極的に関わろうとは思わないが。でも生みの親でもあるのに。
「リゼリヤお姉さまによると、修業時代――お師匠の世話をしている間ですね、相当に苦労させられたんだそうです。歴代の弟子たちみんなが。お師匠のところから出ていくのも、我慢できなくなって飛び出すんだって。私は、特にそんなこと思ってなくて……ちょっとニブいのかもしれません。お師匠がいなくなったってことにもずっと気づきませんでしたし」
 へへへ、とシルシュは苦笑いをして続ける。
「私があんまりにものんきで頼りないから、リゼリヤお姉さまも心配になったみたいで、お師匠を探し出したとき、一切容赦しないようにって言い聞かされました。それから、どんな手を使って煙に巻こうとしたり丸め込もうとしたりしてくるかわからないから、いざっていうときに決心が揺らがないように、お姉さまたちがどんなひどい目に遭わされたのか、その記憶を受け取ったんです。ひどいんですよ? リゼリヤお姉さまなんて、お師匠の弟子だと知られた途端に恋人にフラれたそうで……」
「……僕には、そのお姉さまも相当やべーような気がするが……」
 同感。しかも、その結果が昨日の不条理極まる拷問なのである。まあ、目論見としては成功してるんだろうけど、身代わりを用意されることが想定できていた状況で、問答無用で襲いかかるよう仕向けたというのは、しかるべき責任を負うべき立場といえるのでは? 彼女と対面するのは法廷になりそうだ。



 もう家もすぐそばだったが、話が終わりそうにないので近くの公園に立ち寄った。特に何があるわけでもない、海沿いの小綺麗な広場だ。まだ日も高く、小さな子供たちがきゃあきゃあと駆け回っている。
 正直、男子高校生二人が妙な扮装の女子小学生を連れ歩いている状況は、世間の理解を得ることが難しいような気がする。しかもあーちゃんってば自販機でジュースを買ってあげている。やさしい。プルタブが初見でどうしたらいいかわからないシルシュに、手ずから開けてやっている。やさしい。ああ、でも、どうしても世間の目がこわい俺は何かに毒されているのだろうか。
「つまり、リゼリヤお姉さまとやらは、魔女が雲隠れしたのは気まぐれか嫌がらせかそんなようなもので、しかも追って来た奴をもてあそんでやろうと悪巧みしてるに違いないと考えたんだろう。本気で行方をくらまそうとしてるんなら見つけるなんて端から無理だし、追えるような手がかりが残っていたのは追わせたいからだ、と」
 整理された推測を、シルシュは真剣に聞き入る。異論はないようだが、じっと見つめられているあーちゃんのほうがむずがゆそうにしてしまっている。
「で、自分がそれに付き合わされるのはまっぴらだから、妹弟子に押し付けた――と、そんなところじゃねーのかな」
 そして続く内容には、素直に首を縦にはできないようだった。口元をむぐむぐさせて、取り繕おうと思うのだがそのための言葉が出てこない、といったところか。初めて会ったという自分と同じ境遇の相手を、あまり悪く思いたくないのだろう。
「で、結局どうすんだ? これまでのところをまとめると、躍起になって探しても相手の思う壺って感じだけど」
「もちろん探します。いろんなところに迷惑がかかってるんですから、早く連れ帰らないと」
 どちらかといえばすっぱり手を引くべきと思って聞いたつもりだったが、当のシルシュの返答は思いのほか力強い。うっかり手に力が入り、缶ジュースがあふれている。
「でも、どうやって?」
「たぶん、魔女は西山からそう離れてはいないと思う」
 俺の問いに、あーちゃんが代わって応じる。
「魔力切れの問題がある以上、追手はそれを避けるために囮にした西山から離れるわけにいかない。西山以外に囮にされた奴がいるかどうかわからねーからな。その追手にちょっかいをかけるつもりでいるんなら、近くにいたほうが何かと都合がいいだろ」
「ですね。お師匠が私をからかって遊ぶつもりなら、よく見えるところにいるはずです」
 言いながら、缶ジュースをおそるおそる舐めるシルシュ。首をひねって、また一口。
「遠くから様子を見るくらい、魔法でできるんじゃないの?」
「だから、マナが薄いとそういう系統の魔法は無理なんですよ」
 シルシュが面倒くさそうに言い返してくる。知らねえよ、どういう系統だよ。
「……でも、お師匠だからなぁ。お師匠ならどうとでも……けど、うぅん……」
 缶ジュースに口をつけたまま、ぶつぶつと考え込む。なんだよ、どっちなんだよ。
「西山からは魔力が漏れてるってことだったろ?」
 あーちゃんが助け舟を出すように切り出す。
「それが?」
「漏れてるっつーことは、ほっとけばそのうち魔女の魔力が西山の魔力を上回って、〈コンパス〉で探知されるってことだ。そうならねーように、西山には定期的に魔力を補充しなきゃならんはず。どのくらいの頻度なのかは見当もつかんが」
「ほほー。そういう事情もあるのか」
 確かに、補充のたびにいちいち行ったり来たりするのも面倒かもしれない。
「ただ、どっちみち探知されたとしても特定はされないんだから、追手をおびき寄せた段階で囮の役目は終わってるともいえる。けど、囮から魔力が抜け切れば追手は魔力を補給する手段がなくなる。それはそれで充分に罠だろうが、聞く限りでは、魔女はひねくれてるらしいからなぁ」
「この先も、ニシヤマさんに魔力を補充するってことですか?」
「そう思うね。魔力切れはすでに一回やってるし、完全に力を削いでやる気をなくされたらつまらない、とか考えそう」
「それは、ありえますねぇ……」
 嘆息するシルシュ。見つめる虚空には、あーちゃんの推測が妥当と思われる根拠が投影されているのかもしれない。
「でも、補充するときに魔女は俺に接触するわけでしょ? チャンスじゃん?」
「確かに、今んとこ考えられる唯一の機会だけどな、期待はできないような気がするなぁ」
「そうですね……魔力の注入なんて、あっという間にできますし」
 あーちゃんの悲観的観測に、同調して肩を落とすシルシュ。結局、前向きな要素が全然ないけど、本当にどうにかなるの?
 むしろ、聞く限りでは、無理にどうにかする必要なんてないんじゃないかって気がするけど。
「ところで……魔力っていうやつは普通の人間に無理やり注入されて害があったりしない?」
 ふと、不安になる。注入って言葉がまず怖い。シルシュはうつむきがちなまま、俺を上から下まで眺めた。
「……見た感じ平気そうですし、平気では?」
「うわあ適当! いや、今は確かになんともないけどさ、将来的には? 赤ちゃん作れない身体になったらお嫁さんに申し訳が立たないだろうよ」
「……杞憂では?」
「おい、そりゃどういう意味だい!」
 すると、シルシュは皮肉っぽくゆがめてみせていた口元をほころばせた。
「いえ本当に、大丈夫だと思いますよ。魔法使いは特異体質でもなく普通のヒトですし、魔力がヒトの身体に悪影響を及ぼす、なんて話は知りません。ホムンクルスもヒトを模造してるわけですからほぼヒトなんですが、私もなんともありません。それに、ニシヤマさんが無事でいられるのは魔力のおかげなんですよ。魔力で全身ひたひたになっていたから、昨日私があんなに痛めつけても平気でいられたんです」
「ん? ちょっと待って。もし、魔力がなかったら?」
「死んじゃうと思います」
「えぇ……」
「まあ、魔女だと思ってやったわけだから。わざとじゃねーならいいじゃねーか」
 あーちゃん、それフォローになってないから。と、それよりもその刹那、俺の脳裏できらりと閃くものがあった。
「あっ、待って待って。それってつまり魔力が俺の身体を頑丈にしてるわけだろ? 同じ要領で、筋力とか脚力とか、運動能力を強化できたりしないか?」
「できますよ。コツがいりますが」
「マジか! やったぜ!」
 目の前に、ヒーローのように格好良く活躍する展望が開けていく。かつては家からまともに出られないほどの虚弱体質だったというのに、なんということでしょう! 最底辺からのスターダム、絵に描いたようなサクセスストーリー!
「そのコツってのが、いわゆる魔法なんじゃねーの?」
「そうとも言います」
「…………」
 あーちゃんはいつも冷静である。時に憎たらしいほどに。
「で、でも、魔法使いっていっても普通の人なんだろ? 俺でも魔法を使えるってことだよな?」
「そうですね。自力でがんばってみてください。私には教えられませんし」
「……そうなの?」
「誰かに習ったわけではないので、どう教えたらいいかわかりません。でも身体の内側のことですから、本当になんとかできるかもしれません」
「へー、どういうこった?」
 と、あーちゃんも食いつく。こういう話、単純に好きなのかな。
「マナが魔法を媒介するって、さっきお話しましたよね? マナは世界を変容させます。マナに働きかけて自分の思いどおりに世界を変えようっていうのが魔法の根本なんです。世界っていうのは、生物無生物を問わず、さまざまな事情がせめぎあって形成されているわけで、個別の事情は簡単には反映されません。そこで我を押し通すのは並大抵のことではないんですね。でも自分の身体の中は、反対に外側からの事情が入り込みにくい、いわばひとつの世界なんです。自身が主導権を握っていて、ある程度思いどおりにできる。まあでも、そうしてとてつもなく強い身体を作り上げたとしても、それで外界に影響を及ぼそうとするときには、また同じ壁に阻まれることになるんですけどね」
「? さっぱりわからん。じゃあどうすればいいんだって感じだが」
「それを教えられれば、ニシヤマさんを魔法使いにしてあげられるんですけどねぇ」
 わかりやすい解説を求めてあーちゃんを見ると、彼は黙って肩をすくめた。そうか、諦めろってことか……



「とにかく、ニシヤマさんの周りであやしいヒトを探すしかないわけですよね」
 要するに何の手がかりもないということなのだが、シルシュは気を取り直して両手をぐっと握る。
「そうだな。魔法やら魔力やらを頼みにしても相手のほうが上手だし。逆に魔女のほうはこっちの世界に不慣れだったりするだろうから、僕ら目線で不審な奴が案外当たりだったりするかもしれん」
「おおっ、逆転の発想……!」
 と、思わず口から感嘆があふれる。異世界基準のとっちらかった設定に合わせるよりも、あえて地に足をつけた正攻法で詰めようというわけだ。あーちゃんのこういうとこ、ホント感心しちゃうわ~。
 そんなあーちゃんの偉大さにいよいよ感服したらしく、シルシュが祈るように指先を組み合わせる。
「あの……私もこの世界のことはわからないので、アーチャンさん、良かったら、これからも相談に乗ってもらっていいでしょうか。私一人じゃ、その、不安ですし……」
 上目遣いに見つめられて、あーちゃんが背筋を震わせて目をそらす。あーちゃんさぁ、いくら紗莉に似てるからって、こんな背格好の子にマジで照れるのはどうかと思うよ。
「……正直、どうにもできない気がするけど、まあできる限りは」
「いいえ、頼りにしてますから」
 というやりとりを半眼で見やっていると、また大事なことを忘れていることに気づいた。びしりと親指を己に向け、二人の注目を引き寄せる。
「おいおい、俺の協力はいらないっていうのかい?」
「あんまり頼りにならなそうですし、特には」
「なにおう!」
「魔力もひっきりなしに漏れてるみたいですし、適当にそのへんにいてくれれば充分です」
 ひどい言い草だ。目上の人間に対する敬意ってものを知らないようだ。親の顔が見てみたい。まあ、まさにその親みたいなヤツを探してるところで、そいつの人格にはあまり期待できそうにないわけだが。
 というか、べつに俺はぜひとも魔女探しに協力してあげたいなんてつもりは毛頭ないのだ。巻き込まれたかわいそうな被害者として、落とし前を要求したいだけなのだ。なんでこっちが下手に出にゃならんのだ、まったく。
「わかった、そっちは勝手に何でもしてくれ。ただ、お前には迷惑をかけられた貸しがある。わかるな?」
「……なにをさせようっていうんですか」
 シルシュは身をかばうようにしながら後ずさる。こちらをにらむ、青い瞳が強気な態度とはうらはらに揺れている。んー、なんだろ。俺ってけっこうな目に遭わされたと思うんだけど、それにせめてもの謝意を求めるのってそんなにダメなこと?
「なぁに、難しいことじゃないさ。俺は、魔女と会ったときの記憶を消されてるって言ってたろ? それを思い出させてくれればいい」
「なんだ、そんなことですか……」
 シルシュはほっと息をつき、続ける。
「無理です。できません」
「……は?」
「思い出させられるなら、記憶を消す意味なんてないじゃないですか。アーチャンさんを見習ってすこしは考えてください」
「…………」
 言われてみれば、ぐうの音も出ないほどそのとおりなんだけど、でもぉ、えっとぉ……
「……いや、その、実はな、魔女に記憶を消されたときに、藤野凛花という幼なじみの女の子のことも一緒に忘れてしまっているようなんだ。その子のことだけ、思い出させてもらえればいいんだけどぉ……」
「だから、できませんって。壊れたものは戻りますが、消えたものは戻りません。どうにもならないんです」
「でもさ、ほら、思い出せないだけで、頭の中には残ってるっていうじゃない? 人間の脳は三割ほどしか使われていないとかなんとか……」
「そんなの知りません。そうなんですか?」
「魔法で忘れさせるのと自然に忘れるのとではメカニズムが違うんだろ、知らんけど」
 心底どうでも良さそうに言い捨てるあーちゃん。暗に、そんなことは自明だろ、と告げている。そういえばこのこと、あーちゃんには話してなかったっけ……
「それに、その、フジノナントカさんってヒトのことは、お師匠の仕業とは関係ないと思いますよ。記憶の操作っていうのは、術者がある程度記憶の内容を把握している必要があります。知らない出来事は操作しようがないんです。大雑把にざっくり消しちゃうっていうふうにならできますけど、当然支障が出ます。お師匠と会った記憶だけがなくて、他に不自然なところがないなら、お師匠は自分に関する記憶だけをきれいに消したってことだと思いますよ。わざわざ無関係な出来事に手を出す理由もないでしょうし」
「いや、だからな? 藤野のことを思い出せないことが、まさに不自然なことであって……」
「単に忘れただけでは?」
「そ、そんなはずは……」
 肺の奥から悲嘆が絞り出て、俺はへなへなとうなだれる。当てが外れた。おおぅ、なんてこったい……
「それなら、記憶を捏造してやるなんてことはできんのか?」
 あーちゃんがまた新たな好奇心を芽生えさせて質問タイムに入ったが、俺の耳にはほとんど届かない。おおぅ……
「できますね。さっき、リゼリヤお姉さまからお師匠の悪行に関する記憶を受け取ったってお話しましたけど、それと同じことなんです。自分の記憶を他人に移植するわけで、それが作り話なら捏造ってことになりますね。リゼリヤお姉さまから受け取ったのは実際の出来事ですし、普通に話して聞かせてもらえばいいことではありますが、手っ取り早いからって。ただ、意識してないと自分の記憶と混同しちゃうんで気を付けないといけないんですけど」
「すると、嘘でも本当でも、相手に知られないように移植すれば、実際に体験した出来事だと誤認させられるってわけか?」
「そういうことになりますね」
「やりたい放題だなあ」
「でも、もともとの記憶と齟齬が出ないようにするのはなかなか大変だと思います。ヒトの心は繊細だっていいますし、辻褄の合わない記憶があるっていうのはかなりの負担になると思います。いくらお師匠でも、そんな無茶なことはそうそうしないと思うんですけどね……」
「必要だと思えばどんな無茶でもしそうな印象だがな。しかも何を必要だと考えるかまったく見当がつかねー」
 そうして二人、同時にため息をつく。
「孝平。あんた、こんなとこでどうしたの?」
 不意に、飽きるほど聞いた声がして顔を上げる。目の前にいたシルシュが俺の背後を見ていて、そちらを振り返る。まあ、見なくても正体はわかっているのだが、案の定そこには母がいた。ぱんぱんにふくらんだエコバッグを肩から提げている。
「あんた、学校で倒れたんだってね。紗莉は心配ないって言っていたけど、本当に平気なの?」
「ん、平気。なんともない」
「そう……。もともと身体が弱かったんだから、何かあったらすぐに言いなさいよ」
「平気だって。俺、もうずっと風邪ひいてもいないじゃん。心配しすぎ」
「あんたねぇ、そうやって油断してるから今日みたいなことになるんでしょうが」
「あーもう、はいはい、わかった、わかったから」
 つっけんどんな返事に、短くため息をつく母。
「おばさん、こんにちは」
「あら、あーちゃんも。こんにちはぁ。それに……えっと、その子は……?」
 あーちゃんに愛嬌を振りまいたあと、シルシュに目を向ける。訝しげに細められたその視線は、なぜかみるみるうちに険しさを帯びていく。
「……ねえ、あなた。見かけないけど、この辺の子? お父さんとお母さんは?」
 声色は柔らかいのだが、そこはかとない凄みを感じる。シルシュも息をのんでしまって声が出ない。
「あっ」
 と、あーちゃんが声を上げる。え、なに、どうしたの? べつにやましいことは何もないよ。話せばわかるさ。息子を信じろ。
「言葉がわからないのかしら。外国の子?」
「おっ、おばさん! この子は、その、そう! 迷子らしくて! これから、交番に連れて行こうかと!」
 あーちゃんがひどくあわてて取り繕っている。ここは下手に口出ししないほうが良さそうだ。
「あらま、そうなの。それにしても妙な格好をしてるのねぇ。髪なんて青いし、コスプレ? 浜のほうで何かそういう催しでもやっていたかしら。でもこんな平日に?」
「さ、さあ、なんですかね、そこまでは、僕らにもわかりませんがっ……!」
「あのっ!」
 あーちゃんがしどろもどろなのを見かねたのか、シルシュが思い切って母の気を引く。
「私、すごい遠くから来て、このあたりのことわからなくて……その、親を探してるんです。きっとこのあたりにいるはずで、それで……」
 あながち嘘でもない話だ。さすがに、魔女だ魔法だ、なんていう話をべらべらすることが非常識であることくらいはわきまえている。しかし、助け舟を出されたはずのあーちゃんは痛恨の面持ちで絶句しており、どうやら母をやり過ごすことに失敗したことが察せられた。
「そう……そうなの。それは大変でしょうねぇ……」
 そして、母の声音がいよいよ剣呑なものになる。
「ねえ、もう暗くなるし、交番に行くのは明日にしたら? 今日はウチにいらっしゃい」
「まだ全然明るいが」
「あんたは黙ってなさい。ねえ、そうなさいよ。もしかしたら、もしかしたらなんだけどね、あなたのお父さんのこと、よぅく知ってるかもしれないの。だから、そうなさい。ね?」
「あ、その、でも……」
 シルシュは膝をがくがくさせて、それでも抵抗を試みる。助けを求めて視線を泳がすが、頼みの綱のあーちゃんももはや打つ手なしらしく、斜め下を見るばかり。
「ね、いいでしょう?」
「は、はいぃ……」
 掠れ声を絞り出すシルシュ。ちょっと涙ぐんでさえいる。今晩、はたして我が家の団欒にどんな波乱が巻き起こるのか。遅ればせながら想像はついたが、さてどうやって誤解を解いたものか。
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