神さまに嘘

片岡徒之

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 校舎を出てすぐ、目の前に敷かれているレンガ伝いの壁を叩く。トントンって乾いた音がする。レンガの音。学校の音。門の向こうには街並みが見える。みんな私の知っている景色だ。

 覚えている匂いがある。体育館の屋根の色。校舎の壁に取り付けられたたくさんの窓。その窓の表面に光が当たって、街の景観を映し出す。自動車が通っていく。排気ガスの匂い。懐かしいような、意外とそうでもないような。ぱっと広がった景色の内側で、私の目はどこに向いていいのかわからない。だけど、決して別世界なんかじゃない。ここは。うん。私の知っている場所なはず。

 少しずつだけど、足を動かしていく。校舎を出て、私の目の前には階段が広がっている。石でできたグラウンドへと続く道。一段一段確かめながら、下りる。足取りは重くない。だからって駆け下りたりはしない。慌てずに、ゆっくり、グラウンドへと行こうと思った。グラウンドに出たら、次はどこに行こうか。

 鏡の前に立っていた別人の私は、この景色を知らないはずなのに、私は懐かしいと感じる。鏡が、間違っていたんだろうか。もう一回トイレに行こうかな。いやいや、もうグラウンドまで来ちゃったし、戻るのは遠い。だけど確かめたい。私は本当に別人になっているのか。グラウンドの土の上に、太陽の光が降りそそいで、私の身体の全体の影を映し出す。やっぱり、これだけは見慣れない。周りに広がっている様々な記憶と、その背景の奥底に、新しい色が混じっている。輪郭が違う。身体のラインが違う。グラウンドが巨大な一枚のキャンバスになるなら、その上に浮かび上がった私の影は、遠い外国からやって来た、新しい絵そのものに見える。キャンバスの上には、私たち日本人が使ったことのない色のクレヨンが、こぼれて落ちて、広がる。知らない絵なんだ。私が今まで描いてきた絵はもうそこにはない。
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