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症例:人魚姫②
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聖が王子様に見えたあの日から、真凛は男の子の前で声が出せなくなってしまった。
男の人を前にすると、喉がヒュッと閉まってしまって息が苦しくなってしまうのだ。
「うぅ~、助けてもらったお礼だってまだちゃんと言えてないのに!」
真凛は自分の部屋のベッドに寝転んでジタバタと暴れていた。
聖に助けられたあの日から、聖と会話できていない。家もすぐ隣で中学校も帰る方向も一緒なのに、二年間もの間、全く話ができていないのだ。
最初は聖が何度も話しかけてくれた。
「気分が悪いのか?」
「怒ってるのか?」
「悩み事でもあるのか?」
「俺に話してくれ。」
「頼むから声を聞かせて。」
その言葉に一度も返事ができなかった。ただ首を横に振る真凛を見て、聖はため息をつく。真凛の母が聖に男の人と話せなくなったことを話すと、「自分のせいだ」と落ち込んでいた。
聖のせいじゃない。むしろ聖は自分を助けてくれた。
母親にそう伝えてもらった。
けれど聖は責任を感じて、真凛のそばにいてくれるようになった。登下校はもちろん、真凛が休みの日に出かける時もついてきた。
聖に恋している真凛はそれが嬉しかった。いつだって自分を優先してくれることに優越感を感じていたのだ。
けれど。
「あなたいい加減にしなさいよ!」
「っ!」
真凛に怒鳴ってきたのは、よく聖と一緒にいる美人な女の子だった。癖っ毛でいくらくしでとかしてもピンピン跳ねるショートカットの真凛とは違い、栗色のウェーブがかかったロングの髪。平凡な黒い瞳の真凛とは違う聖とお揃いの青い瞳。日に焼けた真凛の肌とは違う真っ白で雪のような肌。
「聖がどんな気持ちであなたといると思ってるの!いい加減に聖を縛るのはやめて!」
聖が部活でいない放課後に廊下で腕を掴まれた。
「幼馴染だからって調子に乗ってるの?男の人の前で話せないのはほんとみたいだけど、聖はなんの関係もないでしょ!彼を自由にしてあげて!」
「私は…っ。」
「ねぇ、私聖が好き。きっと聖も私のこと好きよ。だってこの前告白したら『幼馴染の面倒見ないといけないから』って断られたの!こんなことしてたら聖、彼女はなんてできやしないじゃない!放課後、遊びに行くこともできないのよ?可哀想だと思わないの!」
「っ!!」
真凛は全速力で走り出す。
「このまま!消えちゃいたい!!」
学校を出てがむしゃらに街を走る。真凛は絶叫した。雨が降ってきて真凛の服をびしょびしょに濡らす。けれども真凛は止まらず、聖から遠く離れるように走り続けたのだった。
その日から真凛は聖の送迎を断った。もちろん休日に一緒に出かけることもなくなった。
せれど聖を恋したう気持ちは大きくなるばかりだった。
だから真凛は歌う。
「よいしょっと。準備オッケー。」
録音機器を準備してヘッドセットを付ける。
「あーあー。よし!」
大きく息を吸い込んで歌い始める。
それは真凛が自分で作った曲だった。ただ聖だけを思って作ったつたないアカペラの詩。
「つきのうみに たゆたうおもい
あなたのひとみに あなたのほほに
くちづけることが できたなら
きえるまえに なくなるまえに
つめたいわたしの あついきもちを
どうかあなたに とどいてほしい
みなそこでわたし きえるまえに」
心に届くように。よせては返す波のように。
「こんな小さな声じゃ届かないか。」
歌い終えた真凛は小さく笑ってパソコンを操作する。
「聞いてくれますように。」
本当に届いて欲しい人を思いながら、真凛はアップロードのボタンを押した。
男の人を前にすると、喉がヒュッと閉まってしまって息が苦しくなってしまうのだ。
「うぅ~、助けてもらったお礼だってまだちゃんと言えてないのに!」
真凛は自分の部屋のベッドに寝転んでジタバタと暴れていた。
聖に助けられたあの日から、聖と会話できていない。家もすぐ隣で中学校も帰る方向も一緒なのに、二年間もの間、全く話ができていないのだ。
最初は聖が何度も話しかけてくれた。
「気分が悪いのか?」
「怒ってるのか?」
「悩み事でもあるのか?」
「俺に話してくれ。」
「頼むから声を聞かせて。」
その言葉に一度も返事ができなかった。ただ首を横に振る真凛を見て、聖はため息をつく。真凛の母が聖に男の人と話せなくなったことを話すと、「自分のせいだ」と落ち込んでいた。
聖のせいじゃない。むしろ聖は自分を助けてくれた。
母親にそう伝えてもらった。
けれど聖は責任を感じて、真凛のそばにいてくれるようになった。登下校はもちろん、真凛が休みの日に出かける時もついてきた。
聖に恋している真凛はそれが嬉しかった。いつだって自分を優先してくれることに優越感を感じていたのだ。
けれど。
「あなたいい加減にしなさいよ!」
「っ!」
真凛に怒鳴ってきたのは、よく聖と一緒にいる美人な女の子だった。癖っ毛でいくらくしでとかしてもピンピン跳ねるショートカットの真凛とは違い、栗色のウェーブがかかったロングの髪。平凡な黒い瞳の真凛とは違う聖とお揃いの青い瞳。日に焼けた真凛の肌とは違う真っ白で雪のような肌。
「聖がどんな気持ちであなたといると思ってるの!いい加減に聖を縛るのはやめて!」
聖が部活でいない放課後に廊下で腕を掴まれた。
「幼馴染だからって調子に乗ってるの?男の人の前で話せないのはほんとみたいだけど、聖はなんの関係もないでしょ!彼を自由にしてあげて!」
「私は…っ。」
「ねぇ、私聖が好き。きっと聖も私のこと好きよ。だってこの前告白したら『幼馴染の面倒見ないといけないから』って断られたの!こんなことしてたら聖、彼女はなんてできやしないじゃない!放課後、遊びに行くこともできないのよ?可哀想だと思わないの!」
「っ!!」
真凛は全速力で走り出す。
「このまま!消えちゃいたい!!」
学校を出てがむしゃらに街を走る。真凛は絶叫した。雨が降ってきて真凛の服をびしょびしょに濡らす。けれども真凛は止まらず、聖から遠く離れるように走り続けたのだった。
その日から真凛は聖の送迎を断った。もちろん休日に一緒に出かけることもなくなった。
せれど聖を恋したう気持ちは大きくなるばかりだった。
だから真凛は歌う。
「よいしょっと。準備オッケー。」
録音機器を準備してヘッドセットを付ける。
「あーあー。よし!」
大きく息を吸い込んで歌い始める。
それは真凛が自分で作った曲だった。ただ聖だけを思って作ったつたないアカペラの詩。
「つきのうみに たゆたうおもい
あなたのひとみに あなたのほほに
くちづけることが できたなら
きえるまえに なくなるまえに
つめたいわたしの あついきもちを
どうかあなたに とどいてほしい
みなそこでわたし きえるまえに」
心に届くように。よせては返す波のように。
「こんな小さな声じゃ届かないか。」
歌い終えた真凛は小さく笑ってパソコンを操作する。
「聞いてくれますように。」
本当に届いて欲しい人を思いながら、真凛はアップロードのボタンを押した。
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