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第一章
出会い
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「はぁ…。」
今日も大きなため息で仕事を終えてしまった。
(こんなはずじゃなかったのに…。)
もう一つおまけに大きなため息。パソコンの電源を落として、自分のデスクから立ち上がり、フロアを見渡す。私、園崎千佳子(そのざき・ちかこ)が働くベンチャー企業「ショコラティエ」は女性が好む商品を包括的にネット販売している会社だ。セレブに人気で、次にヒットする商品をいち早くリサーチし、どこよりも早く販売する。女性目線の詳しいレビューも評判となっていて、女子高生を中心に、人気が出てきている。
そんな会社に勤める人たちは見目麗しい人が多いと知った。そして仕事をきっちりこなして、定時には退社する。「残業は明日に!必ず定時退社!」がこの会社の決まりだ。現在は定時の午後5時すぎ。フロアにいる従業員のほとんどが帰り支度を終え、エレベーターホールへと向かっている。
「ちか、行くよ。何してるの?」
ぼーっとフロアを眺めていた私の顔を覗き込んできたのが、成長目まぐるしいこの会社の社長を務める若干35歳の不破京一(ふわ・きょういち)だ。それはそれはモテル。おモテになる。180センチを超える身長に、ツーブロックで、前髪にだけゆるくパーマをかけた黒髪。スペインの血が入ったクォーターらしく、筋肉もついていてい日本人離れした体格に、少したれ目な甘めの顔立ち。色が黒いところも、野性的で素敵と評判だ。女性が途切れたこともなしいし、オフィスには毎日女性から社長につないでくれと電話がかかってくる始末だ。週末はもちろん、平日も予定がびっしりで、究極のリア充と言っても過言ではない。
「ちーか、今日は水族館に行くんでしょ?いこ?…早く二人きりになりたい。」
「ひぅ!」
ほとんどの人間がフロアからいなくなったことをいいことに、不破さんが私のうなじを熱い舌でなめてくる。
「ちょ、しゃ、社長!こんなとこで!」
顔を赤く染めて抗議すると、不破さんはにやにやと笑って、さらに体を密着させてくる。
「ちかが悪いよ。そんなかわいい顔して俺のこと見るから。…水族館はやめて、うちに行こうか?」
我慢できない…と不破さんが私の耳を甘噛みする。
(ど、どうしてこんなことになった????)
園崎千佳子、28歳!華やかな生活とは縁遠い人生を送ってきたはずの私は甘い刺激に耐えながら、一年前のことを思い出していた。
全ての始まりは、私が大学を卒業後、ブラック企業に入社してしまったことだ。
大学で、プログラミングを専攻していた私はなかなか名の知れた企業に内定をもらい、その会社のシステム管理部に入った。
入社前には「システム管理は大変な仕事だけど、人数も多いから大丈夫だよ。残業もあるけど、その分残業代も払うから。」
人事担当者にそう言われてすっかり安心していしまっていた。しかし、悪夢は入社してすぐに始まった。システム管理部は私が入社する4月の一か月前に、人員削減という名の実質的な首切りを行った。10人いたはずの部員は5人にまで数を減らされてしまったのだ。曲がりなりにも、全国に支店を持つ企業のシステム管理だ。何か異常が見つかれば、大きな利益の損失へとつながるため、早急な回復が求められる。入社したての私にも、即戦力が求められたのだ。
「ちょっと!在庫管理システムがおかしいだけど!いつになったら直るのよ!」
「メールが届かないんだ!早くなんとかしてくれ!」
「ネットがつながらないと仕事ができない!!」
毎日、朝から晩までシステム管理の電話は鳴りっぱなしだった。自分で解決できるだろ!というようなことでさえ電話してきて、怒鳴り散らされる。ほかの部署でも首切りが行われたらしく、一人当たりの業務が増えていると聞いた。みんな、どこかに不満のはけ口がほしいのだろう。
「園崎、こっちはもう手一杯だから。あとは頼む。」
「…はい。」
嫌とは言えない。上司が私の何倍も多い仕事を抱えているのは知っているから。しかし、自分も限界なのだ。この1か月、休みはおろか、まともに家に帰っていない。会社にある仮眠室でシャワーを浴びて、仮眠を取って仕事をこなしている状態だ。食事も睡眠もまともに取れていないからか、生理も止まってしまっている。しかし、病院に行く時間もないのだ。
「あれ…何してんの、私?」
あまりにも家に帰れていない私を見かねた上司が、仕事を変わってくれて1か月ぶりに家に帰ることができるようになった。
(家に帰ったら、洗濯して掃除して、買い物して、お風呂に入って。)
いろいろするべきことを考えていたはずだった。なのに自分がいるのは線路の真ん中だった。やっと周囲の男が聞こえ始める。カンカンカンという聞きなれた音。
(これは…。)
「踏切の音だ。」
気づいた時には電車が目の前に迫っていた。いつの間にか、線路の真ん中まで来て突っ立ってしまっていたらしい。周囲から悲鳴が聞こえる。
(あー、死んじゃうのか。)
足を動かす元気もない。もういいや、なんかもう疲れてしまったから。
ゆっくりと目を閉じようとした時だった。
「何してんだ、馬鹿野郎!!」
「きゃあ!」
突然、右腕を強く引っ張られて、誰かの胸の中に抱きこまれる。すぐ後ろを電車が通っていき、その轟音で体がびりびりと震えた。
「何やってんだって言ってるんだよ、この馬鹿!」
また怒声が聞こえる。どうやら誰かが助けてくれたらしい。
(あ、私、死にそうになってたんだ。)
そう自覚したとたん、ぶわっと瞳から涙があふれ出る。
「うっ…うぁぁぁぁぁ!」
「っ!ちょっと!」
ぼーっとしていた私が突然大声で泣き出したことに驚いたのか、助けてくれた男が私の顔を覗き込んできた。
「泣かないで…。強く言い過ぎたよ。大丈夫?けがはない?」
呆れたように笑っていた男、私の命の恩人、不破社長。それが究極のリア充不破社長との出会いだったのだ。
今日も大きなため息で仕事を終えてしまった。
(こんなはずじゃなかったのに…。)
もう一つおまけに大きなため息。パソコンの電源を落として、自分のデスクから立ち上がり、フロアを見渡す。私、園崎千佳子(そのざき・ちかこ)が働くベンチャー企業「ショコラティエ」は女性が好む商品を包括的にネット販売している会社だ。セレブに人気で、次にヒットする商品をいち早くリサーチし、どこよりも早く販売する。女性目線の詳しいレビューも評判となっていて、女子高生を中心に、人気が出てきている。
そんな会社に勤める人たちは見目麗しい人が多いと知った。そして仕事をきっちりこなして、定時には退社する。「残業は明日に!必ず定時退社!」がこの会社の決まりだ。現在は定時の午後5時すぎ。フロアにいる従業員のほとんどが帰り支度を終え、エレベーターホールへと向かっている。
「ちか、行くよ。何してるの?」
ぼーっとフロアを眺めていた私の顔を覗き込んできたのが、成長目まぐるしいこの会社の社長を務める若干35歳の不破京一(ふわ・きょういち)だ。それはそれはモテル。おモテになる。180センチを超える身長に、ツーブロックで、前髪にだけゆるくパーマをかけた黒髪。スペインの血が入ったクォーターらしく、筋肉もついていてい日本人離れした体格に、少したれ目な甘めの顔立ち。色が黒いところも、野性的で素敵と評判だ。女性が途切れたこともなしいし、オフィスには毎日女性から社長につないでくれと電話がかかってくる始末だ。週末はもちろん、平日も予定がびっしりで、究極のリア充と言っても過言ではない。
「ちーか、今日は水族館に行くんでしょ?いこ?…早く二人きりになりたい。」
「ひぅ!」
ほとんどの人間がフロアからいなくなったことをいいことに、不破さんが私のうなじを熱い舌でなめてくる。
「ちょ、しゃ、社長!こんなとこで!」
顔を赤く染めて抗議すると、不破さんはにやにやと笑って、さらに体を密着させてくる。
「ちかが悪いよ。そんなかわいい顔して俺のこと見るから。…水族館はやめて、うちに行こうか?」
我慢できない…と不破さんが私の耳を甘噛みする。
(ど、どうしてこんなことになった????)
園崎千佳子、28歳!華やかな生活とは縁遠い人生を送ってきたはずの私は甘い刺激に耐えながら、一年前のことを思い出していた。
全ての始まりは、私が大学を卒業後、ブラック企業に入社してしまったことだ。
大学で、プログラミングを専攻していた私はなかなか名の知れた企業に内定をもらい、その会社のシステム管理部に入った。
入社前には「システム管理は大変な仕事だけど、人数も多いから大丈夫だよ。残業もあるけど、その分残業代も払うから。」
人事担当者にそう言われてすっかり安心していしまっていた。しかし、悪夢は入社してすぐに始まった。システム管理部は私が入社する4月の一か月前に、人員削減という名の実質的な首切りを行った。10人いたはずの部員は5人にまで数を減らされてしまったのだ。曲がりなりにも、全国に支店を持つ企業のシステム管理だ。何か異常が見つかれば、大きな利益の損失へとつながるため、早急な回復が求められる。入社したての私にも、即戦力が求められたのだ。
「ちょっと!在庫管理システムがおかしいだけど!いつになったら直るのよ!」
「メールが届かないんだ!早くなんとかしてくれ!」
「ネットがつながらないと仕事ができない!!」
毎日、朝から晩までシステム管理の電話は鳴りっぱなしだった。自分で解決できるだろ!というようなことでさえ電話してきて、怒鳴り散らされる。ほかの部署でも首切りが行われたらしく、一人当たりの業務が増えていると聞いた。みんな、どこかに不満のはけ口がほしいのだろう。
「園崎、こっちはもう手一杯だから。あとは頼む。」
「…はい。」
嫌とは言えない。上司が私の何倍も多い仕事を抱えているのは知っているから。しかし、自分も限界なのだ。この1か月、休みはおろか、まともに家に帰っていない。会社にある仮眠室でシャワーを浴びて、仮眠を取って仕事をこなしている状態だ。食事も睡眠もまともに取れていないからか、生理も止まってしまっている。しかし、病院に行く時間もないのだ。
「あれ…何してんの、私?」
あまりにも家に帰れていない私を見かねた上司が、仕事を変わってくれて1か月ぶりに家に帰ることができるようになった。
(家に帰ったら、洗濯して掃除して、買い物して、お風呂に入って。)
いろいろするべきことを考えていたはずだった。なのに自分がいるのは線路の真ん中だった。やっと周囲の男が聞こえ始める。カンカンカンという聞きなれた音。
(これは…。)
「踏切の音だ。」
気づいた時には電車が目の前に迫っていた。いつの間にか、線路の真ん中まで来て突っ立ってしまっていたらしい。周囲から悲鳴が聞こえる。
(あー、死んじゃうのか。)
足を動かす元気もない。もういいや、なんかもう疲れてしまったから。
ゆっくりと目を閉じようとした時だった。
「何してんだ、馬鹿野郎!!」
「きゃあ!」
突然、右腕を強く引っ張られて、誰かの胸の中に抱きこまれる。すぐ後ろを電車が通っていき、その轟音で体がびりびりと震えた。
「何やってんだって言ってるんだよ、この馬鹿!」
また怒声が聞こえる。どうやら誰かが助けてくれたらしい。
(あ、私、死にそうになってたんだ。)
そう自覚したとたん、ぶわっと瞳から涙があふれ出る。
「うっ…うぁぁぁぁぁ!」
「っ!ちょっと!」
ぼーっとしていた私が突然大声で泣き出したことに驚いたのか、助けてくれた男が私の顔を覗き込んできた。
「泣かないで…。強く言い過ぎたよ。大丈夫?けがはない?」
呆れたように笑っていた男、私の命の恩人、不破社長。それが究極のリア充不破社長との出会いだったのだ。
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