死にかけたらご褒美がありました

めろめろす

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第一章

デート

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(早まった。これは早まってしまったぞ。)

「どうしたんだ、千佳子?ほら、行くぞ。」

 不破さんが手を差し出してくる。シンデレラみたいな扱いはやめてほしい。恥ずかしいから。


 不破さんのデートに付き合うと決めた3日後、連絡先を交換した彼から早速お誘いが来た。
『千佳子、早速だけど一緒に食事でもどうだ?
金曜日は空いているか?俺の仕事が終わってからだから5時半くらいになるけど、一緒にどうだ?
 もし無理そうなら日程は調整できる。食べたいものを教えてくれるとありがたい。
連絡、待ってる。
不破』

「丁寧なお誘いだなぁ。」

 部屋で洗濯物を干していた私は、不破さんの連絡に感心してしまった。こんなに丁寧に誘ってもらったのは久しぶりだったりする。さすが社長、
女の誘い方もお手の物って訳ですか。

「さすが、イケメンは違うなぁ。」

仕事が忙しく、ためてしまっていた洗濯ものを干し終わって一息つく。あれに荒れていた私生活は少しずつ元に戻りつつあった。

「金曜日か…。何の予定もないし、大丈夫だね。」

 スケジュール帳を開いてみても、真っ白だ。仕事しかやってこなかった自分にはプライベートの予定など何も入っていない。

「大丈夫ですよっと…。」

不破さんに連絡をすると、すぐに返事が返ってきた。

『了解。じゃあ駅前集合でいいな?よろしく!』
「ふぅ…。」

 ほんの数週間前にはこんなことになるなんて思いもしていなかった。仕事のことしか頭になかったし、そもそも不破さんのような人と知り合いになってデートをすることになるなんて思いもしなかったのだから。

「人生ってのはわからないもんだなぁ。」

 でもこんな人生も悪くないかもしれない。せっかくだからこのとんでもない展開を楽しんでみようと思っている自分もいる。

「仕事を頑張ってきた私へのご褒美なのかもしれないしね。」


(そうはいっても、こんな規模の大きいご褒美は予想してなかったよ!)


 不破さんに連れてこられたのは、高層ビル。いわく、このビルの最上階にある高級イタリアンを予約してくれているそうだ。確かに私はイタリアンが食べたいと言ったが、こんなところだとは思ってなかったぞ!
 それに、不破さんが迎えに来たときに、ばっちりスーツを着こなしていたことで少し悪い予感がしていたのだ!悪い予感というものは、的中するものだと思いしる。

「千佳子?」
「えっと、あのこんなところ、こんな服装で入る訳にはいきませんよ!」
「んー、そうか?そのワンピース、すごく似合ってる。」
「くぅ!」

 くしゃりと不破さんが顔を緩める。かわいいかどうかは知らないが、この場所にはふさわしくない。食事というからちょっとしたレストランかと思い、一応お気に入りのAラインのライトグリーンのワンピースにしてみたのだが、セールで買った安物だし、靴だってヒールのない歩きやすいパンプスだ。髪は美容院に行って整えたが、セットなどはしていない。ぼさぼさに伸びた髪をショートカットにしただけだ。

「と、とにかく無理です!こんなとこ!」

 こういうところに連れてくるのであれば、ちゃんと教えてもらいたかった。しかし、教えてもらったからと言って、高級レストランに見合った服装などは持っていないのだが。心構えぐらいはできる。

「そっかぁ。だめかぁ。なら、これ。」
「へ?」

 不破さんが笑顔で紙袋を差し出してきた。よく見ると、世界的に有名なブランドのロゴが入っている。

「千佳子に似合うだろうなと思って買ってきちゃった。着てくれるとうれしい。」
「は?え、何を。」

 ごそごそと紙袋の中身を見ていると、しっとりと手触りのいい黒のワンピースドレスが入っていた。胸元から切り替わっていて、下はシフォン生地でふんわりと広がっている。胸元にはビーズで花柄の刺繍が施されている。

「かわいい…。」
「だろ?靴とバックも入ってるから。」
「え?」

紙袋の底を漁ると、シルバーのラメのヒールとミニバックが入っている。どう考えても高いやつだ。

「こ、こんなもの受け取れません!」

 あわてて返そうとするが、不破さんはにこにこ笑っているだけで受け取ろうとはしない。

「千佳子のために選んだんだ。千佳子がいらないって言うんだったら捨てるしかないな。」
「捨てる!?」

こんな素敵なものを捨てるなんてありえない。

「そんなもったいないことしないでください!」
「だよねぇ?なら千佳子、着てくれるよな?」

(この人は!!!!)

 さすが社長をしているだけあって、人心操作がうまいではないか。

「分かりました!着させていただきますよ!」
「ありがとう、千佳子は優しいな。」

 にっこりと笑う不破さんが私をエスコートして、ビルの中へと入っていく。来たことがない場所なので分からなかったが、どうやらホテルのようだ。

「予約していた不破です。」
「不破様、ようこそお越しくださいました。レストランへご案内いたします。」
「その前に彼女を着替えさせたい。部屋を貸してもらえるかな?」
「もちろんでございます。」

あれよあれよと言う間に事は進み、あっという間に豪華な部屋へと押し込まれてしまった。

「ほーら、早く着替えないと予約の時間すぎちるぞ?」
「ちょっと、なんで不破さんも入ってきてるんですか?」
「え?だって、その服、後ろのチャック自分じゃ閉められないぞ?」

 不破さんの言葉を聞いて、慌ててドレスを見ると、確かに背中にチャックが付いてる。

「なんで、こんな1人で着れないものを!」
「千佳子にはそれが一番似合うと思ったんだよ。それに…。」

不破さんがゆっくりと近づいてくる。

「俺が着せてあげればいいだけの話…だろ?」
「ひゃあ!」

 うなじをつーっと指でなぞられたせいで、変な声が出てしまった。

「好い声…。」
「ちょっと、何するんですか!セ、セクハラですよ、これは!」

 不破さんの手を払いのけて抗議する。しかし、なぜかさらに瞳がぎらついてしまったように思う。

「そんな子犬みたいにわめかれると、なんだか変な気分になっちゃうなぁ。」
「誰が子犬ですか!それに、早く準備しないとって言ったのは不破さんですよね!着替えますから、部屋から出て行ってください!」
「え?だからチャックは自分では閉められないって。」
「ギリギリまで自分で着ますから!下着姿見られるのなんてごめんです!」

まだ不満をぶつぶつ言っている不破さんを押して、部屋から追い出した。

「よし!」

 早くしないと、何が何でも部屋に侵入してきそうな勢いだ。床に置いてある紙袋を拾って、中からドレスを取り出す。急いで自分のワンピースを脱いで、もらったドレスに袖を通した。

「わぁ…すごい。かわいい。」

 着てみると、なおさら可愛いドレスだと分かる。部屋にある全身鏡に自分の姿を映すと、少し頬を染めて嬉しそうな表情の女が映っていた。

「シンデレラみたい…。」

 自分がシンデレラなら、助けてくれた不破さんはさながら魔法使いというところか。

「どっちかというと王子様って感じだけどね。」

 クスクスと笑っていると、部屋の扉がガチャリと開いた。

「もう着られたか?…うん、やっぱり似合う。」

 鏡の前にいる私の方へ、不破さんがゆっくりと歩み寄ってくる。

「千佳子は肌が白いから、黒が映える。体も…着やせするタイプとは思ってなかったな。うれしい誤算だよ。」
「…ナチュラルに変なこと言うのやめてください。それに、私まだ入っていいなんて言ってませんけど。」
「ソファに座って。靴、履かせてやる。」
「本当に自分勝手な人ですね…。」

 溜息がでるが、不破さんはソファの前で今か今かと待ち構えている。しょうがないので、ソファに座ってあげた。

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