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第一章
独り飲みでの偶然
しおりを挟む「うわぁ、こんな時間まで寝ちゃってた……。」
千佳子は枕元にある目覚まし時計が指し示す時刻を見て、がっくりと肩を落とす。時間はすでに午後5時過ぎ。昨日は朝日が昇り始めるような時間帯まで、本に夢中になっていたので仕方のないことではあるけれど。仕事をしているときは、本を読む暇なんてとてもじゃないがなかった。だからそこ、本屋でたくさんの本を買い込んでしまっていて、読みきるのも大変なのだ。
「ふわぁ……。それにしても何かお腹すいたなぁ。」
お腹からものすごい音が響く。それもそうだ。ほぼ一日何も食べていないような状況だ。何か作ろうか、それとも買いに行こうかを悩んでいると、寝る前にソファの上に放り投げたスマートフォンからメッセージの着信を知らせる音が聞こえた。この音声が鳴るのはたった一人。勝手に彼が登録してしまったものだ。
もそもそと気だるげにベッドから出て、スマートフォンを見ると、やはりメッセージは不破さんからだった。
『ゆっくりしてるか? 俺は今日は仕事が立て込んでるんだ。でもそろそろ一段落するから、千佳子の時間がある時にまだご飯に行かないか?空いている日を教えてくれると嬉しい。 不破』
「私はいつでも空いてるんですけどね……。」
何せ、こんな時間まで眠っているくらいだ。時間ならいくらでもある。でもこの前の不破さんのデートを思い出すと、少しだけ躊躇してしまう。
「あんなデート、毎回されたらひとたまりもないんですよぉ。」
ベッドの上に戻り、仰向けになって不破さんからのメッセージを眺める。初めてデートをしたあの日、さんざんキスを楽しんだ不破さんは、私をエレベーターの前まで送ると、拍子抜けするほどあっさり帰っていった。
あのデートから約1週間。1日に1通程の不破さんからのメッセージを楽しみにしている自分もいる。でも不破さんにはまりたくない。この前のデートで見た女性のように、不破さんに夢中になってしまい、自分を見失ってしまうのはごめんだった。
「返事は後でいっか。」
寝起きの頭で考えるのもめんどくさい。不破さんも社長という忙しい身だし、少し返信が遅れても気にしないだろう。
「それよりもご飯!何にしよう……。」
冷蔵庫の中に食材は入っているものの、作る気はしない。それに何だか美味しいものを食べたい気分になってきた。
「そうだ。飲みに行こう!」
そういえば、高校の時に仲良くしていた同級生の松田舞(まつだ・まい)が店を開いたとずいぶん前に連絡が来ていたはずだ。
もともと料理が好きだった彼女は、高校を卒業後に専門学校で料理を学び、イタリアに留学して現地のレストランで修行をしていた。そして、半年前にイタリア料理のレストランを開いたと言っていた。仕事をしている時はとても行くような時間はなかったが、今なら時間は腐るほどある。
「ここからそんなに遠くないし、行ってみようかな。」
予約で満員なら行っても申し訳ないと思い、久しぶりに舞にメッセージを送ってみる。すると、数分で返事が返ってきた。
『おぉ!まさかの人物からの連絡でびっくりしたよ!仕事で忙しそうだから店を開いたってことだけ連絡してたけど、時間あるならおいでよ。ごちそうしてあげる。』
歓迎ムードだったので、図々しくも今日行っても構わないか尋ねてみる。すると、週の中日だったこともあって『予約も二次会の予定ざ一件しか入ってないし、全然大丈夫!こじんまりしたお店だけどおいで!』と言ってくれた。
「よかった。行っても良さそう。」
せっかくだから開店祝いにお花でも買っていこう。久しぶりに会うし、少しオシャレをしてもいいかもしれない。何だか気分が乗ってきたぞ。私は勢いよく立ち上がり、早速クローゼットをあさり始めた。
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