死にかけたらご褒美がありました

めろめろす

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第一章

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(ひぇ……。ものすごく怖い顔してる。どうしよう……。)

 目の前に立っている女性、不破さんが和田さんと呼んでいた人は、怒りの表情でベンチに座る私のことを見下ろしている。きっちりとメイクをして、ファッションも最新のものを取り入れている女性。野暮ったい自分とは正反対の女性を見るのは何だか心苦しくて、思わず目を背けてしまった。

「ちょっと!あなた、人の話を聞いてるの!」

 おどおどしている私の様子に苛立ったのか、和田さんと呼ばれていた女性が高いヒールの靴をカツカツと言わせている。恐ろしい。

「人と話す時は目を見て話しなさいって教わらなかったの!こっち見なさいよ!」

 激しい人ではあるが、なるほど、まともなことを言っている。これ以上目をそらしていたら何を言われるかわかったもんじゃないので、恐る恐る顔を上げた。

「全く。それじゃあ単刀直入に聞くわ。あなた、社長とはどういう関係なの?」

(うわぁ、ほんとに単刀直入……。)

 和田さんは腰に両手を当てて、自信満々という風に立っている。やり過ぎには見えないけれど、和田さんの顔を美しく見せるメイクに、流行りのファッション。艶々のロングの髪。そして、キラキラと輝くその瞳。光のあたる道を歩いている人たちの目だ。

(あぁ、綺麗だなぁ。)

 目の前で怒る彼女を見てそう思ってしまった。そして、不破さんと自分の生きる世界がどれほど違うかということも自覚してしまった。就職から失敗して、ぼろ雑巾のようになってしまった自分とは違う。社会に必要とされていて、キラキラと輝いている人たち。そんな人たちと自分が対等に生きていけるはずがないのに。

「……私と不破さんの関係?なんの関係もないですよ。なーにもないんです、私と不破さんは。赤の他人なんですよ。」
「赤の他人なのに、どうして社長と一緒に店を出たのよ。」

 和田さんが疑惑の目を向けてくる。どうして和田さんがこんなに疑い深くなっているのかがわからない。

「私には分かりませんが、たまには毛色の違う生き物でも構ってやろうって気になったんじゃないですか?……あんな人が私みたいになんの取り柄も面白みもない人間にいつまでも構っているとは思いませんが。」

 ベンチに座っていたら、膝の傷もだいぶ痛まなくなってきた。出てきた血も固まってきているで、歩いても足に垂れてはこないだろう。

「もういいですか?私、そろそろ帰りたいんですが。」

 これ以上、ここにいたくない。和田さんとも不破さんとも話をしたくない。ベンチから立ち上がって、歩き出す。

「あっ、ちょっと待ちなさい!」
「ひゃっ!」

 すると、片手を引っ張られて歩みを止められてしまった。何をするんだと怒りがわいてきてくるりと振り替えると、なぜだか和田さんが少しだけ申し訳なさそうな顔をしている。

「なんですか?私と不破さんの関係ならもうお話しました!もう帰っていいですよね?」
「……いいから座って。」
「だから!」
「いいから座りなさい!」
「ひゃい!」

 和田さんの怒声にびびってしまい、慌ててベンチに逆戻りした。

(和田さん、怖い……。)

 また怒られるかもしれないと、ビクビクしながら上目使いで様子を伺っていると、突然、和田さんが自分の鞄をゴソゴソと漁り出した。

「和田さん……?あの、一体どうされて……。」
「あったわ!はい、これ、」
「あ。」

 和田さんが差し出してくれたのは、可愛らしいキャラクターがプリントされた絆創膏だった。まさか、そんなものをもらえるとは思っていなかったので、口を開けたまま和田さんの顔を凝視していると、「悪かったわね!」と和田さんが顔を赤くして謝ってきた。

「さっきは社長のことしか目に入ってなかったからあなたのことには気づかなかったの。怪我させたのは悪いと思ってるわ。でも、社長のことについては話が別よ!絶対に渡さないわ!」
「いや、ですから、私と不破さんは和田さんが思うような関係ではないですってば!」


「夜中に何を騒いでるんだ?」
「ひえっ!」

 和田さんを落ち着かせようとしている間に、不破さんが戻ってきてしまった。和田さんの肩越しに私の方を覗きこんできている。

「千佳子、遅くなって悪かった。傷口を綺麗にするぞ。」
「あ、もう固まってきてますし多分大丈夫……。 
「ダメだ、バイ菌が入って化膿したらどうする。少し痛むと思うが我慢しろ。」
「っ!!」

 不破さんが、濡れたハンカチで傷口を拭ってくる。ビリッと鋭い痛みが走り、ぎゅっと目をつぶってしまった。

「……よし。汚れは取れた。絆創膏でもあればいいんだが。」
「あぁ、それなら和田さんが。」

 先ほど手渡された可愛らしい絆創膏を不破さんに手渡す。

「和田が?」

 不破さんが後ろにいる和田さんを振り返る。

「そ、そちらの女性にはちゃんと謝りました!私の不注意で怪我をさせてしまったので!あの、だからタクシーも呼びますね!私がタクシー代払いますから!」

「あぁ、それは助かるな。」

 不破さんがにこりと笑うと、和田さんの顔があっという間に真っ赤に染まる。そりゃあ、あんなに顔立ちのよい男の人に微笑まれたらそうなってしまうだろう。和田さんがすぐにタクシー会社に電話をしてくれて「5分で来るそうです!」と伝えてくれた。

 和田さんや不破さんにお礼を言っていると、すぐに時間がたち、道路に一台のタクシーが止まる。あれが和田さんが呼んでくれたタクシーだろう。

「それじゃあありがとうございました。」

 二人にお礼を言ってタクシーへと向かおうとする。

「何をしてる?俺も行くに決まってるだろ?」
「えっ、あっ、ちょ!」
「和田、これでもう一台タクシー呼んで帰れ。お疲れ様。」
「あっ、社長!」

 和田さんに万札を渡した不破さんが私の腰に腕を回して歩き出す。出遅れた和田さんはその場に立ち尽くしたまま、不破さんのことを呼ぶも、不破さんは振り返ることはせず、私とともにタクシーに乗り込んだのだった。

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