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決闘
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美しい新緑が彩る校庭に兵学校の予科生五〇〇名ほぼすべてが集結し、円をつくっていた。
その中心には卓人とルイザがいる。卓人はこれまでにないほどの居心地の悪さを感じていた。図らずもルイザを侮辱する形になってしまったので、その責任を負う必要はあるだろう。だけどこれではほとんど見世物だ。
このアイア兵学校では予科生同士の決闘を教官の許可のもとで認めている。本来、兵学校の指導は非常に厳しく、基本的生活から徹底的に仕込まれるので予科生間での大きな問題はあまり起こらない。それでもごくまれに著しい名誉の棄損や教官の知らぬところでの重篤な規律違反がありえ、予科生の自治意識の向上の目的に設けられている制度である。
教官が決闘を行う理由とその結果においての要望に正当性を認めれば翌日には行われ、申し渡された相手は逃げることは許されない。必ず一対一で行われ、仮にグループ同士の対立であったとしてもそれぞれの代表者一名が闘うのみである。
また学校という性質上、対戦相手を殺すあるいは再起不能となるような重傷を負わせてはならない。ただし腕の骨折程度なら問題ない。回復魔法によって全快することがわかっているからだ。つまり命のやりとりではないが、かなり苛烈な戦いになる。
申請した者が勝利した場合その要望が認められる。決闘を申し込まれた側が勝利した場合は、五日以内にその者が要望を申し出れば認められる。もちろん、いずれの要望も法外であれば退けられる。
決闘開始から五分経過した場合は引き分けとなり、申請した者の要望は退けられ、なおかつその評価は下げられる。また、申し込まれた側は代理人を立てることができる。これは悪意ある申請を防ぎ、決闘を受ける側に支援者があるならばその者にも正当性があると訴えることにもなる。このように決闘は申し込む側に不利になるように設定されており、申し込むには相応の覚悟が必要である。
観衆はどちらの応援をするかで二分されている。とはいえその人数には格段の差があるが。ルイザは実績とともにその容貌もあって人気が高く、女子は全員、男子も向上心の高いグループは彼女の味方である。
「タクト、負けちゃだめだよー」
ベラはルイザの応援についていたが、にこにこと無邪気な笑顔でと手を振っている。いいのだろうか。
卓人の応援はレヴァンニたちくらいのものだ。天才的な魔法使いだったのに魔法が使えなくなったと知れれば多くの者が関心をもたなくなっていた。
戦う二人を取り囲む人ごみを八人の教官が制止するとともに、この決闘における立会人として見守っている。
「両者、不正が認められた場合は即刻敗北を宣告する」
二人は同時にうなずいた。
「では申請者であるルイザ・アフレディアニ。決闘を行う理由を観衆全員に聞こえるように述べよ」
ルイザは凛とした声を発した。
「はい。タクトは魔法を忘れてしまいました。彼が戦場でまっとうに戦うことができるでしょうか。いいえ、無為に命を落としてしまうのが目に見えています。この決闘を通して、彼の決断の機会とします」
多くがなるほどといった顔をしている。そもそも魔法が使えないなら兵学校には入れないのだ。このまま軍人を続けられるとは思えない。
卓人は違うと思った。一昨日の夜、決闘を申し渡されたときは明らかに別の理由だった。まあ、胸が小さいと言われたとか嫌いだからという理由で決闘が認められるとも思えないが。
「では、勝利の際は何を望むか」
「はい、彼の退学です」
観衆はざわついた。
「おいおい、ちょっと待てよ。いくらなんでも退学にする必要はないだろう」
レヴァンニたち男仲間たちが文句を言ったが教官に制止された。ルイザはそんな抗議など意に介することもない。
「では、ナナリのタクト。勝利の際は何を望むか」
とりあえずはここで平和に暮らして、入れ替わりの魔法について調べられればいい。
「今のところ、とくにありません」
「よかろう。五日以内であれば、新たに要望するなら許可する」
宣言を終えたところで、教官は互いに十歩下がるよう指示した。
「互いに剣を構え」
ルイザはいつもの竜の装飾がされた細身の剣を抜いた。
卓人も剣を構えた。訓練で使っていた鋳鉄製でなく、より重くてもろい青銅製で、柄のところで小さな金属製の鎖が鞘につながっていた。
ルイザはそれを見て嘲笑した。剣を弾かれにくくするのが目的かもしれないが、その膂力では振り回すのも困難だろう。
「勝つ気ないのかしら。だったらさっさと辞めてくれたほうがよかったんだけど」
「いや、負けるつもりはないんだが……」
「だったら代理人を立てたほうがよかったんじゃなくて?」
「ははは……」
代理人を立てることができると知り、このことについて卓人は同室の仲間に相談していた。彼らはすぐに腕の立つ連中に声をかけてくれたが、ルイザが相手だと知ると皆、勝てるわけがないと断ってきた。レヴァンニに至っては、「あいつは美人だが、色気がないからつまらん」と答えた。
結局、誰も代理人にはなってくれなかった。
薄情だとは思わなかった。いくら軍人としての向上心がないとはいっても、まじめに訓練している者たちが敵わないという。まともにやって勝てるはずはないだろう。
しかし、負けるわけにはいかない。卓人は知恵をしぼる必要があった。
その中心には卓人とルイザがいる。卓人はこれまでにないほどの居心地の悪さを感じていた。図らずもルイザを侮辱する形になってしまったので、その責任を負う必要はあるだろう。だけどこれではほとんど見世物だ。
このアイア兵学校では予科生同士の決闘を教官の許可のもとで認めている。本来、兵学校の指導は非常に厳しく、基本的生活から徹底的に仕込まれるので予科生間での大きな問題はあまり起こらない。それでもごくまれに著しい名誉の棄損や教官の知らぬところでの重篤な規律違反がありえ、予科生の自治意識の向上の目的に設けられている制度である。
教官が決闘を行う理由とその結果においての要望に正当性を認めれば翌日には行われ、申し渡された相手は逃げることは許されない。必ず一対一で行われ、仮にグループ同士の対立であったとしてもそれぞれの代表者一名が闘うのみである。
また学校という性質上、対戦相手を殺すあるいは再起不能となるような重傷を負わせてはならない。ただし腕の骨折程度なら問題ない。回復魔法によって全快することがわかっているからだ。つまり命のやりとりではないが、かなり苛烈な戦いになる。
申請した者が勝利した場合その要望が認められる。決闘を申し込まれた側が勝利した場合は、五日以内にその者が要望を申し出れば認められる。もちろん、いずれの要望も法外であれば退けられる。
決闘開始から五分経過した場合は引き分けとなり、申請した者の要望は退けられ、なおかつその評価は下げられる。また、申し込まれた側は代理人を立てることができる。これは悪意ある申請を防ぎ、決闘を受ける側に支援者があるならばその者にも正当性があると訴えることにもなる。このように決闘は申し込む側に不利になるように設定されており、申し込むには相応の覚悟が必要である。
観衆はどちらの応援をするかで二分されている。とはいえその人数には格段の差があるが。ルイザは実績とともにその容貌もあって人気が高く、女子は全員、男子も向上心の高いグループは彼女の味方である。
「タクト、負けちゃだめだよー」
ベラはルイザの応援についていたが、にこにこと無邪気な笑顔でと手を振っている。いいのだろうか。
卓人の応援はレヴァンニたちくらいのものだ。天才的な魔法使いだったのに魔法が使えなくなったと知れれば多くの者が関心をもたなくなっていた。
戦う二人を取り囲む人ごみを八人の教官が制止するとともに、この決闘における立会人として見守っている。
「両者、不正が認められた場合は即刻敗北を宣告する」
二人は同時にうなずいた。
「では申請者であるルイザ・アフレディアニ。決闘を行う理由を観衆全員に聞こえるように述べよ」
ルイザは凛とした声を発した。
「はい。タクトは魔法を忘れてしまいました。彼が戦場でまっとうに戦うことができるでしょうか。いいえ、無為に命を落としてしまうのが目に見えています。この決闘を通して、彼の決断の機会とします」
多くがなるほどといった顔をしている。そもそも魔法が使えないなら兵学校には入れないのだ。このまま軍人を続けられるとは思えない。
卓人は違うと思った。一昨日の夜、決闘を申し渡されたときは明らかに別の理由だった。まあ、胸が小さいと言われたとか嫌いだからという理由で決闘が認められるとも思えないが。
「では、勝利の際は何を望むか」
「はい、彼の退学です」
観衆はざわついた。
「おいおい、ちょっと待てよ。いくらなんでも退学にする必要はないだろう」
レヴァンニたち男仲間たちが文句を言ったが教官に制止された。ルイザはそんな抗議など意に介することもない。
「では、ナナリのタクト。勝利の際は何を望むか」
とりあえずはここで平和に暮らして、入れ替わりの魔法について調べられればいい。
「今のところ、とくにありません」
「よかろう。五日以内であれば、新たに要望するなら許可する」
宣言を終えたところで、教官は互いに十歩下がるよう指示した。
「互いに剣を構え」
ルイザはいつもの竜の装飾がされた細身の剣を抜いた。
卓人も剣を構えた。訓練で使っていた鋳鉄製でなく、より重くてもろい青銅製で、柄のところで小さな金属製の鎖が鞘につながっていた。
ルイザはそれを見て嘲笑した。剣を弾かれにくくするのが目的かもしれないが、その膂力では振り回すのも困難だろう。
「勝つ気ないのかしら。だったらさっさと辞めてくれたほうがよかったんだけど」
「いや、負けるつもりはないんだが……」
「だったら代理人を立てたほうがよかったんじゃなくて?」
「ははは……」
代理人を立てることができると知り、このことについて卓人は同室の仲間に相談していた。彼らはすぐに腕の立つ連中に声をかけてくれたが、ルイザが相手だと知ると皆、勝てるわけがないと断ってきた。レヴァンニに至っては、「あいつは美人だが、色気がないからつまらん」と答えた。
結局、誰も代理人にはなってくれなかった。
薄情だとは思わなかった。いくら軍人としての向上心がないとはいっても、まじめに訓練している者たちが敵わないという。まともにやって勝てるはずはないだろう。
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