愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

文字の大きさ
40 / 179
第二章 魔匠を継ぐ者

(17)最後の砦

しおりを挟む
闇を突き進み、最深部へと足を踏み入れたカーライルとフィオラが辿り着いたのは、それまでの荒涼としたダンジョンとは全く異なる世界だった。階段を降りた瞬間、目の前が眩い光で満たされ、暗闇に慣れたカーライルは思わず手で目を覆う。隣のフィオラは素早く反応し、ゴーグルを下げて光を遮った。

しばらくして目を開けると、二人の目の前には神秘的な光景が広がっていた。広間は果てしなく続くかのように見え、壁、床、天井までもが光の結晶化したような純白の輝きを放っている。天井は圧倒的な高さを誇り、広間全体には静寂と調和が漂う中にも、人知を超えた力が潜んでいるのを感じさせた。

その光は単なる明るさではなく、温かさと冷たさ、そして不思議な生命力を同時に感じさせるものだった。体を包む光が心の奥底を浄化していくような感覚が広がり、言葉にできない神聖さが二人を圧倒した。

カーライルは足を止め、目の前の光景を凝視する。「…すごいな」と漏らした言葉は、静かな空間に溶け込んで消えていった。声には驚きと畏敬が入り混じり、この場の圧倒的な存在感が胸を揺さぶっているのが分かる。

フィオラもまた、息を呑む。「あんちゃん!見て!」と小さく震える声で叫び、指差す方向にカーライルも目を向けた。広間の中心――そこには巨大な光の球体が静かに浮かんでいた。それは単なる光ではなく、生命そのもののような脈動を感じさせる存在だった。球体が放つ光が空間全体を包み込み、その場に立つだけで息をするのも忘れるほどの威圧感を放っている。

「…あれが、このダンジョンのコアか…」カーライルの声はかすかに震えた。球体から放たれる膨大なマナの波動が空気を振動させ、全身に響いてくる。その圧倒的な力の前に、自然と双剣を握る手に力が込められた。

だが、その緊張の最中、突然──

「どすぅうううん!」

突然、轟音が広間を震わせた。それは大地そのものが悲鳴を上げるような深く重い響きで、瞬く間に空間全体が激しく揺れた。足元を揺るがされたカーライルとフィオラは、本能的に動きを止め、周囲を見回す。何が起こったのかを理解する間もなく、視界を覆うほどの巨大な影が現れた。

それは、全身が透き通るクリスタルでできた巨大なゴーレムだった。

その巨体はカーライルの五倍以上の高さを誇り、天井に届かんばかりだった。クリスタルの表面は広間を満たす光を無数に反射し、虹色の輝きが空間を満たしていた。その美しさは目を奪うほどだったが、冷たく無機質なその輝きは、不気味な威圧感を漂わせていた。生気のない結晶体が、自らの存在だけで空間を支配しているようだった。

ゴーレムの体は、数十個の巨大な立方体のクリスタルで構成されていた。それぞれのクリスタルは整然と組み合わされているわけではなく、青白いマナの光で浮かぶように接続されていた。そのため、関節にあたる部分は光の束が繋いでいるだけで隙間が多く、無骨な印象を与えていた。しかし、その隙間が生々しい巨大感を際立たせ、むしろ不気味な生命感を醸し出していた。

両手両足は、いくつものクリスタルが無造作に接続されて形作られており、動くたびにその間を繋ぐ光が強く輝き、脈動するマナの気配を放っていた。頭部に位置する大きなクリスタルには、球体のコアが埋め込まれており、淡い光を放ちながら静かに脈打っている。その冷たく鋭い輝きは、まるで相手の内面を見透かしているような威圧感を伴い、カーライルの背筋を冷たく撫でた。

「さて、どうするか…」

カーライルはゴーレムを鋭く見据えながら深く息を吸い、心を落ち着けるように呼吸を整えた。そして、ゆっくりと双剣を抜き取る。刃が鞘から滑り出る音が広間に響くと、それに呼応するかのように張り詰めた空気が一段と緊張感を増し、重くのしかかった。

しかし、隣にいたフィオラは、その重い空気を全く意に介さない様子で、まるで宝石を目の前にした子供のように目を輝かせていた。

「このクリスタル、ウチの魔具に使えるやん!それに高値で売れるしな!めっちゃええもん見つけたわ!」

フィオラは興奮を隠せない声で叫び、ゴーレムの存在よりも、その素材としての価値に夢中だった。

カーライルは彼女の無邪気な反応に半ば呆れながらも、わずかに笑みを浮かべた。「おい、喜んでる場合かよ…」ため息交じりにそう言ったものの、内心では彼女の言葉が的を射ていることを認めていた。「まあ、確かにこいつを倒せば相当な収穫にはなるな。」

「せやろ?」フィオラは嬉々とした表情で続ける。「これ手に入れられたら、ウチの商売大繁盛間違いなしやで!」

彼女の目は期待に輝き、もはや目の前の脅威ではなく、その先にある成果に夢中になっているようだった。

カーライルはそんな彼女の言葉に耳を傾けながらも、再び双剣を構え直し、ゴーレムを睨みつけた。「簡単には手に入らなさそうだけどな…」

フィオラも背負っていたリュックから魔具を取り出し、準備を整えながら「覚悟しいや!」と意気揚々と声を響かせた。彼女のその無邪気な熱意に、広間の緊張感が一瞬だけ和らいだように感じられる。

「行くぞ、フィオラ!」

カーライルの声が鋭く響くと同時に、ゴーレムの巨大な体がゆっくりと動き始めた。その動きが生み出す振動が床を揺らし、戦いの幕開けを告げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

忍者ですが何か?

藤城満定
ファンタジー
ダンジョンジョブ『忍者』を選んだ少年探索者が最強と呼ばれるまで。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

処理中です...