愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第二章 魔匠を継ぐ者

(34)意を決す

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酒場は相変わらず打ち上げの高揚感に包まれ、笑い声や乾杯の音が絶え間なく響いていた。フィオラはその中心に立ち、まるで冒険の疲れなど微塵も感じさせないかのように、次々とボトルを空にしていく。その笑顔は無邪気で、冒険の成功を心から楽しんでいる様子だった。彼女の高らかな声が酒場の空間に響くたびに、周囲の冒険者たちの表情もほころび、その明るさに引き込まれるように場がさらに盛り上がっていった。

一方で、同じテーブルにいるアルマとカーライルの間には、酒場の喧騒とは対照的な空気が流れ始めていた。アルマはフィオラの無邪気な様子に微笑みを浮かべつつも、青い瞳の奥には冷静な観察と隠された憂いが見え隠れしていた。彼女の指先がグラスの縁をなぞる仕草には、何かを考え込んでいる様子がはっきりと現れていた。

カーライルもまた、ジョッキを手に静かに酒を飲み続けていた。泡が消えていく様子に目を落とすその表情は遠い思考に沈んでいるようで、手元のジョッキを置く動きに込められたわずかな力が、内心の葛藤を物語っていた。

しばらくの沈黙を破ったのは、カーライルだった。
「一件落着とは言えないな…。」
低く落ち着いた声が、酒場の喧騒に鋭く割り込んだ。その一言に、フィオラの明るい笑い声がぴたりと止み、アルマも驚きの表情で彼を見つめた。カーライルの言葉には単なる懸念ではなく、確信に近い響きがあった。

アルマは慎重な表情で応じた。「確かに…ダンジョンの異変が完全に収まったとは言い切れないわね。少し様子を見て、慎重に調べる必要がある。それに…」
続けようとした言葉が一瞬詰まり、アルマは視線を少しだけそらした。その一瞬の沈黙が緊張を高め、次の言葉を待つ空気がテーブルの上に漂った。

その間を破ったのは再びカーライルだった。
「監査官の件…そしてダンジョンの異変。どちらも王家が絡んでいる以上、まだ何か隠されているはずだ。」
低く鋭い声が、酒場の浮かれた空気を切り裂くように響いた。

フィオラが眉を寄せ、首をかしげながら尋ねた。「監査官の件って?うち、そんな話聞いてへんけど。」
その問いかけはフィオラらしい無邪気さを帯びつつも、場の緊張を少し和らげるものだった。しかしアルマは軽く手を挙げて静止させ、落ち着いた声で応じた。「後で説明するわ。今は気にしないで。それに…この場では話せないこともあるから。」
アルマの言葉には慎重さと隠された決意が込められていた。

カーライルはジョッキに目を落としながら、一口酒を飲んでから静かに息を吐いた。その吐息には、決意を固めた者特有の重みが感じられた。やがて彼はジョッキを置き、低く、それでいて確かな声で告げた。

「…建国祭、俺も行くぞ。」
その一言が、二人の表情を大きく変えた。アルマとフィオラは驚きの目を向け、カーライルの言葉の真意を測りかねているようだった。彼は軽く肩をすくめ、わざと気軽な口調で付け加えた。
「ちょうど王都に別件がある。ついでってやつだ。」
その軽口に含まれる真剣さを隠しきれない瞳が、彼の本心を物語っていた。

アルマは少し間を置いてから静かに問いかけた。「本当に…ついてきてくれるの?」その声には期待と戸惑いが交錯していた。カーライルは苦笑を浮かべ、視線を一度ジョッキに落としてから、軽い調子で答えた。

「どうも、今回の件は偶然が重なりすぎてる。それに、このまま放っておけば、もっと面倒なことになりそうだからな。」その声には、ただの軽口では済まされない深い響きがあった。カーライルの脳裏には、王家が絡む一連の事件の断片が浮かび上がり、それらが大きな陰謀に繋がっている可能性が否応なく意識されていた。

「それに──」

カーライルが言葉を継ぎかけたところで、アルマが小首を傾げて問いかけた。

「──それに?」

カーライルはわずかに間を置き、冗談めかした口調で答えた。「ロクでもない愚痴を聞く機会が増えそうでな。そうなると酒も楽しめなくなる。」

言葉の表面は軽い調子だったが、その目には真剣さが宿っていた。彼の内心には、この事態がただの偶然ではないという確信があったのだ。そして、その結末に自分が関わるべきだという思いが、静かに彼の心を突き動かしていた。

「王妃と第三王子が絡んでいるとなれば、銀貨五枚じゃ到底見合わないだろうが。」カーライルの言葉には皮肉が混じっていたが、背後には冷静な覚悟が漂っていた。危険を軽視するつもりはなく、むしろその先に待つ困難を十分に理解しながら、彼は進むべき道を選んでいた。

アルマは彼の決意を見て取ると、その表情にわずかな微笑みを浮かべながら、静かに頷いた。その一瞬の表情には、カーライルに対する深い信頼と安堵が込められていた。

「…やっぱり、頼りになるわね。」

アルマのその言葉には、これまでの冒険の中で積み重ねられてきた絆と信頼が確かに宿っていた。カーライルは軽く笑みを浮かべてその言葉に応じたが、その目には冷静で鋭い光が宿り、決意を物語っていた。
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