愚痴聞きのカーライル ~女神に捧ぐ誓い~

チョコレ

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第三章 建国の女神様

(14)帳に潜む影

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三人が再び街中を歩き始めると、建国祭の喧騒から少し外れた路地で、不思議な雰囲気を漂わせた一角が目に留まった。深い紫色の布が、光も音も遮るように覆い隠し、その隙間から甘くスパイシーな香りが漂ってくる。その香りはただの匂いではなく、まるで誘いかけるように心をくすぐり、不思議な引力で三人を引き寄せた。

「なんやろ、あれ。めっちゃ怪しげやけど、面白そうやん!」フィオラが目を輝かせて声を上げると、カーライルは肩をすくめながらも「お前、怪しいものに引っかかるタイプだろ」と皮肉を言った。

「ええやんか、ちょっとくらい冒険しても!」と笑いながらフィオラは先に歩き出し、アルマとカーライルも興味を引かれるようについていった。

布の奥に足を踏み入れると、甘い香りが濃密になり、周囲の喧騒は一瞬で遠のいた。薄暗い中から、全身を深い紫の衣装で覆った人物がゆっくりと現れる。顔はほとんど隠され、見えるのは鋭く光る瞳だけ。その瞳が三人を一瞥すると、背筋に冷たい感覚が走った。

「占いに興味がおありかしら?」低く穏やかな声が空間に響く。その声には冷たさと神秘的な深みが混じり、聞いた瞬間に心が静かに引き寄せられるようだった。

「興味ある!ぜひやって!」とフィオラが即答する。その勢いにカーライルは眉をひそめ、「そんなもんで何が分かるんだ」とつぶやいたが、フィオラは軽く笑って言い返す。「分かるかどうかは別やん。楽しむのが大事やんか!」

占い師は静かに微笑むと、「どうぞ、奥へ」と三人を誘った。布の向こうに広がる空間は薄暗く、壁一面には異国の文様が描かれた布が張り巡らされている。淡い光がその模様を浮かび上がらせ、まるで迷宮のような不気味な美しさを醸し出していた。

フィオラは興奮気味に辺りを見回し、「ええ雰囲気やん!」と声を弾ませるが、カーライルはわずかに警戒心を露わにし、アルマは静かに周囲を観察していた。

「まずはあんちゃんからやってもらおうや!」フィオラがカーライルの背中を押す。

「俺かよ…」とカーライルは不満そうな顔をしたが、占い師が静かに歩み寄り、「そちらの御方からですね」と柔らかく告げる。その瞬間、占い師の鋭い瞳がカーライルを射抜き、彼は一瞬身をこわばらせた。

占い師はカーライルの手を取ると、冷たい指先で手のひらをなぞり始めた。その触れ方には不思議な感覚があり、彼の内に眠るマナを探られているかのような違和感が広がる。やがて占い師は眉を寄せ、低く囁いた。

「…マナの流れが一つではない…?こんなことが…あり得るのでしょうか…」

その囁きには彼女自身の驚きと戸惑いが滲んでおり、カーライルは自分の手のひらを見つめながら、胸の奥にほのかな緊張が募るのを感じた。

「どうした?」と問いかけるカーライルに、占い師は一瞬驚いたように顔を上げ、「いえ、気にしないでください…」と言葉を濁した。しかし彼の手を再び見つめ直し、低く囁くように告げた。「あなたの前には、存在を揺るがすような…大きな危険が迫っています。」その言葉には、まるで氷の刃が胸をかすめるかのような冷たい響きが込められており、カーライルの眉がわずかに動いた。

フィオラは息を飲み、アルマも警戒の表情を浮かべる中、カーライルはわずかに笑みを浮かべて首を振り、「おいおい、商売だからってそんなに怖がらせなくてもいいだろう?」と冗談めかして流そうとしたが、その瞳の奥にはかすかな不安の影が滲んでいた。占い師はそれを見逃さず、意味深に微笑む。

その様子を見ていたフィオラが「ねえ、ウチも見てもらってええかな?」と期待に満ちた声で頼み込むと、占い師は静かに頷き、フィオラの手を同じように取った。占い師は穏やかな微笑みを浮かべながらも、「あなたの未来は光に満ちています。ただし、あなたが信じる道を進む覚悟があるならば」と意味深な答えを返す。

「覚悟かあ…うちは勢いで何とかなるって思ってるけど、それで大丈夫やろ?」フィオラは笑いながら問いかけたが、占い師は微かに首を振り、「勢いだけでは届かない時もあるでしょう。その時、自分の心に問いかけることを忘れないでください」と静かに告げた。

最後にアルマが手を差し出すと、占い師は一瞬だけ動きを止めた。彼女の手に触れた瞬間、占い師の瞳がわずかに細められた。冷たい指先がアルマの手をなぞるたび、彼女は胸の奥に微かなざわめきを感じた。

「あなたの中には静かで強い力が眠っています。しかし、それを解き放つ鍵はあなた自身の手の中にはありません」と占い師は低く囁いた。

「では、その鍵はどこに?」アルマは冷静に問い返す。

占い師は短く沈黙した後、「それは、あなたが信じるものの中にあります。けれども…信じることが時に重荷になることも忘れないでください」と告げた。その言葉にアルマは静かに頷きながらも、その胸には不安がじわりと広がった。

三人がその場を後にすると、フィオラが振り返り、「なんや、ちょっと怖かったけど面白かったな!」と明るく笑った。カーライルは肩をすくめながら「占いなんてそんなものだ」と呟いたが、彼の表情にはどこか考え込むような影があった。

アルマは静かに歩きながら、心の奥に小さな疑念を抱き続けていた。「信じるもの…か」彼女は小さく呟き、露店が並ぶ賑やかな通りを見つめた。その雑踏の中に紛れながらも、占い師の言葉が心に重く響き続けていた。
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