21 / 47
鹿神様は死神だった件
「ねぇ、鹿の獣人っているの?」
その日の夕方、森の端まで送ってもらうためコロの背中にしがみつきながら、そう質問した。本当は馬に乗るように優雅に横乗りしたいのだが、車のような速さで走る彼の上に乗るためにはしがみつくのが一番安全だった。いつもならば人目をはばかってできないコロのモフモフ感を楽しめる……というのも理由の一つだが。
『鹿?そんな奴いないぞ』
あまり考える様子もなく、コロは即答する。
「今日ね、温泉で鹿の獣人の方を見たんだけど……」
『鹿の獣人?』
そのワードに突如、コロの足が止まり振り落とされそうになる。
「うん。パウル達よりも少し小さいぐらいの女の子」
『白い服を着ていたか?』
「そうそう。白いひざ丈ぐらいのワンピース着ていたの。一人で温泉に入っていたからちょっと心配で……」
『心配なのはお前だ』
コロはそう言うとクルリと身体を反転させ、来た道を引き返す。
「コロ、道が違うよ」
と私は叫ぶが、聞こえないのか一目散に鍾乳洞へと向かっていった。
「鹿神様をご覧になられただと?」
コロの背中に乗り辿り着いたのは、診療所ではなく村長の部屋だった。コロの話を聞いた村長は、叫ぶようにして私を揺さぶる。
「鹿の角が着いた女の子が温泉に居まして……」
「あぁ……なんと言うことだ」
村長は私の言葉にへたへたと地面に膝をつく。
「鹿神様は、死期が訪れた者の前にしか現れないんじゃ……」
そんな村長の独白を聞いたコロは『クソっ』と小さく悪態をつく。
「どこか痛い場所、気分の悪い……というようなことはございませんか?」
「特に……そういう箇所はありませんけど……」
改めて自分の現状を確認するが特に病に侵されている、といった様子はない。
「事故、ということもございます。キース殿をココにお連れしろ……」
『分かった』
コロは悲しみを瞳いっぱいに浮かべてそう言うと、風のように部屋から飛び出ていく。
「むさ苦しい場所ですが、どうぞこちらでお休み下さい」
そう言って案内されたのは真っ白なフェンリルのまえだった。おそるおそるその場に横たわると身体中をモフモフが覆う。特に体調が悪い訳では無いが一日の疲れがどっと溢れ出し、温かなフェンリルの体温と規則正しい鼓動が私を眠りに誘った。
「グレイス!グレイス!」
キースさんの叫ぶような声と共に身体を揺すぶられ、私はうとうととしていた事に気付かされた。ふと周囲を見渡すとキースさんだけでなく獣人、魔物、リタ姉達が部屋に集まっている。至る所からすすり泣きも聞こえてきて、まるでお通夜のような雰囲気だ。
「どこか痛い?」
私は首を横に振る。
「気分が悪い所は?」
再び首を横に振る。むしろ定期的に温泉に入るようになってから調子がよいくらいだ。そんな私にキースさんは、うーーんと唸ると意を決したように顔を上げた。
「膨大な魔力を使いますので皆さん下がっていて下さい」
キースさんの言葉に、私の布団代わりを務めてくれたフェンリルも渋々と言った様子でその場を立ち去る。部屋にキースさんと二人になるとキースさんは私を抱きしめた。
「体のどこが悪いか確認する魔法を使う。膨大な魔力を使うから俺が倒れるかもしれないけど、ちゃんと問題の箇所が何処なのかは伝えるから」
「キース様……」
「絶対、俺が治すから。死なせないから」
その言葉通り、二十分後にはキースさんが地面に倒れていた。この世界では治癒魔法が多数存在するが、やみくもに使えばいいというものではない。使う場所、治癒する方法を選ばないといくら魔法をかけても効果は得られない。そのため何処の箇所が悪いかを検査する魔法が存在するのだ。
診療の一環でキースさんがこの魔法を使うことは時々あるが、問題の箇所を絞って使うためこれ程魔力は消費しない。ただ大きな病院では専門の検査技師が存在するほど一定量以上の魔力を消費することでも知られている。日本で言うレントゲンのような魔法なのだろう。
「キース様、大丈夫ですか」
私は慌てて彼を抱き起こすと彼は力なく微笑む。
「俺は……大丈夫。あと……グレイスの身体にも問題はなかったよ」
力を振り絞るようにそう言うと、キースさんはそのまま意識を失った。
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
モブに転生したはずですが?
佐倉穂波
ファンタジー
乙女ゲームっぽい世界のモブに転生したラズベルトは、悪役令嬢レティシアの断罪イベントを「可哀想だけど、自分には関係がないこと」と傍観していた。
しかし、断罪イベントから数日後、ラズベルトがレティシアの婚約者になることが決まり──!?
第1章は、スローライフな領地編。
第2章は、陰謀渦巻く王都編。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。