31 / 47
大聖女に従う黒竜
しおりを挟む
「グレイス様……どうしましょう……」
コロに連れられ、村長の自室を訪れると今にも泣きだしそうな表情を浮かべた村長がそこにいた。
「どうされましたの?お気を確かにお持ちくださいませ」
私はハンカチを彼に差し出しながら、彼の丸くなった背中をさする。
「黒竜の卵が出てきたんです」
「黒竜??」
聞きなれない言葉に思わず首を傾げる。火竜と並び、海竜は存在するのは知っているが、『黒竜』という単語は聞いたことがない。
「伝説の竜といわれている大聖女に仕えるドラゴンでございます」
大聖女にドラゴンがセットになっているという事実に驚きを隠すことができない。
「でも大聖女がドラゴンを従えていた……なんて伝説、聞いたことありませんわ」
「この国ができる遥か昔には存在した伝説でございます。大聖女は国王の伴侶となることが多かったので、この国では黒竜は王の象徴とも言われていたこともございます」
数千人の兵隊を一瞬で治癒できるだけの大聖女。現代ではその存在が発覚すると同時に国が軟禁状態にしてしまうのだろう。そのためドラゴンと出会う機会がなかったのかもしれない。
「そのため私も伝説だと思っていたのですが……先ほど、パウラの父親が森の中で見つけましたのじゃ」
パウラの父・クァールのことだろう。
「でもこれが黒竜の卵ってどうして分かりますの?」
改めて村長の目の前にある卵に視線を移してみる。その大きさは一メートルぐらいで、黒光りしている。確かにニワトリやダチョウの卵ではないのは分かるが、あえてこれが『黒竜のもの』という確証は得られない。
「森の主・クリムゾン様に伺いましたのじゃ。クリムゾン様も悩んでいらっしゃるようでしたが、フェンリル様と協議された結果、黒竜のものという結果になりました」
珍しく今朝はフェンリルが側にいないな……と思っていたが、クリムゾン様と会議をしていたのか。そんな私の気持ちを察したのか、村長の部屋にいたフェンリルが私にスルリと身体を寄せてきた。
「別に何時も一緒にいなくてもいいんですのよ?」
私が小さくフェンリルにそう言うと、無言で機嫌を直せと言わんばかりに身体をこすりつけてくる。仕方ないのでその首筋を優しくなでると嬉しそうに目を細めた。見た目は大きな狼だが、フェンリルもやっぱり犬みたいなものなのだろうか。
「まぁ、何にしても孵化させなければいけませんわね」
この卵の中身が何であるにせよ、孵化させる必要がありそうだ。
「ですがどうしたら……」
「一般的に鶏の卵は母親が温めて孵します。そこで温泉の熱を使って温めてみてはいかがでしょうか?」
温泉に沈めるのが手っ取り早い気もするが、それでは温泉宿の営業に支障が出そうだ。少なくとも私はこの巨大な卵と一緒に入浴はしたくない。
「温泉が湧き出て泉となった場所の近くの大地は、温泉の熱でかなり温かくなっています。そこに埋めてみてはいかがでしょうか?」
いわゆる砂風呂的な効果を狙う方法だ。
「なるほど……それでは手の空いている者に準備させます」
その数日後には砂風呂小屋が出来上がっていた。温泉により温まった砂に横たわる『砂風呂』。おばあちゃんの実家がある鹿児島県に連れて行ってもらった時、何度か体験したことがある。天然のサウナのようなもので、デトックス効果などを得ることができる。あれを毎日体験できないかな……と密かな野望を抱いていたこともあり、少し大きめの孵化施設を作ってもらったのだ。
「これで合っているかしら?」
餅は餅屋に聞けという言葉もあるぐらいだ。温かい砂の中に卵を埋めながら、火竜であるオリヴィアに聞いてみたが、う――んと首を傾げる。
「気付いた時には親はいなかったからなぁ~~分からないわよぉ~~」
確かに私に妊婦の過ごし方を教えてくれといわれても、満足に答えられる自信はない。
「人間の場合は、情操教育のために音楽を聞かせたり、話しかけるといいと言いますよ」
そうアドバイスをしてくれたのは、エマだった。さすがセレブシングルマザーだ。いや……近々伯爵夫人となるエマだ。
当初、伯爵家の人間は商人の娘で未婚の母であるエマとの婚約を大反対したらしいが、子供がエマを「お母さん」と慕っていることが伯爵の背中を押したらしい。私の微かな記憶の中にある伯爵は実直そうで優しそうな人柄だった気がする。おそらくエマの出会いの演出を素直に受け取ったに違いない。
ただ、どんな方法や形にしろ皆が幸せになってくれることは本当に素晴らしいことだ。
「それよりこの砂風呂凄いですね!汗が吹き出していますよ!!」
私達三人は暫定黒竜の卵と共に砂風呂に埋まりながら話に花を咲かせた。
コロに連れられ、村長の自室を訪れると今にも泣きだしそうな表情を浮かべた村長がそこにいた。
「どうされましたの?お気を確かにお持ちくださいませ」
私はハンカチを彼に差し出しながら、彼の丸くなった背中をさする。
「黒竜の卵が出てきたんです」
「黒竜??」
聞きなれない言葉に思わず首を傾げる。火竜と並び、海竜は存在するのは知っているが、『黒竜』という単語は聞いたことがない。
「伝説の竜といわれている大聖女に仕えるドラゴンでございます」
大聖女にドラゴンがセットになっているという事実に驚きを隠すことができない。
「でも大聖女がドラゴンを従えていた……なんて伝説、聞いたことありませんわ」
「この国ができる遥か昔には存在した伝説でございます。大聖女は国王の伴侶となることが多かったので、この国では黒竜は王の象徴とも言われていたこともございます」
数千人の兵隊を一瞬で治癒できるだけの大聖女。現代ではその存在が発覚すると同時に国が軟禁状態にしてしまうのだろう。そのためドラゴンと出会う機会がなかったのかもしれない。
「そのため私も伝説だと思っていたのですが……先ほど、パウラの父親が森の中で見つけましたのじゃ」
パウラの父・クァールのことだろう。
「でもこれが黒竜の卵ってどうして分かりますの?」
改めて村長の目の前にある卵に視線を移してみる。その大きさは一メートルぐらいで、黒光りしている。確かにニワトリやダチョウの卵ではないのは分かるが、あえてこれが『黒竜のもの』という確証は得られない。
「森の主・クリムゾン様に伺いましたのじゃ。クリムゾン様も悩んでいらっしゃるようでしたが、フェンリル様と協議された結果、黒竜のものという結果になりました」
珍しく今朝はフェンリルが側にいないな……と思っていたが、クリムゾン様と会議をしていたのか。そんな私の気持ちを察したのか、村長の部屋にいたフェンリルが私にスルリと身体を寄せてきた。
「別に何時も一緒にいなくてもいいんですのよ?」
私が小さくフェンリルにそう言うと、無言で機嫌を直せと言わんばかりに身体をこすりつけてくる。仕方ないのでその首筋を優しくなでると嬉しそうに目を細めた。見た目は大きな狼だが、フェンリルもやっぱり犬みたいなものなのだろうか。
「まぁ、何にしても孵化させなければいけませんわね」
この卵の中身が何であるにせよ、孵化させる必要がありそうだ。
「ですがどうしたら……」
「一般的に鶏の卵は母親が温めて孵します。そこで温泉の熱を使って温めてみてはいかがでしょうか?」
温泉に沈めるのが手っ取り早い気もするが、それでは温泉宿の営業に支障が出そうだ。少なくとも私はこの巨大な卵と一緒に入浴はしたくない。
「温泉が湧き出て泉となった場所の近くの大地は、温泉の熱でかなり温かくなっています。そこに埋めてみてはいかがでしょうか?」
いわゆる砂風呂的な効果を狙う方法だ。
「なるほど……それでは手の空いている者に準備させます」
その数日後には砂風呂小屋が出来上がっていた。温泉により温まった砂に横たわる『砂風呂』。おばあちゃんの実家がある鹿児島県に連れて行ってもらった時、何度か体験したことがある。天然のサウナのようなもので、デトックス効果などを得ることができる。あれを毎日体験できないかな……と密かな野望を抱いていたこともあり、少し大きめの孵化施設を作ってもらったのだ。
「これで合っているかしら?」
餅は餅屋に聞けという言葉もあるぐらいだ。温かい砂の中に卵を埋めながら、火竜であるオリヴィアに聞いてみたが、う――んと首を傾げる。
「気付いた時には親はいなかったからなぁ~~分からないわよぉ~~」
確かに私に妊婦の過ごし方を教えてくれといわれても、満足に答えられる自信はない。
「人間の場合は、情操教育のために音楽を聞かせたり、話しかけるといいと言いますよ」
そうアドバイスをしてくれたのは、エマだった。さすがセレブシングルマザーだ。いや……近々伯爵夫人となるエマだ。
当初、伯爵家の人間は商人の娘で未婚の母であるエマとの婚約を大反対したらしいが、子供がエマを「お母さん」と慕っていることが伯爵の背中を押したらしい。私の微かな記憶の中にある伯爵は実直そうで優しそうな人柄だった気がする。おそらくエマの出会いの演出を素直に受け取ったに違いない。
ただ、どんな方法や形にしろ皆が幸せになってくれることは本当に素晴らしいことだ。
「それよりこの砂風呂凄いですね!汗が吹き出していますよ!!」
私達三人は暫定黒竜の卵と共に砂風呂に埋まりながら話に花を咲かせた。
2
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
【完結】捨てられた聖女は王子の愛鳥を無自覚な聖なる力で助けました〜ごはんを貰ったら聖なる力が覚醒。私を捨てた方は聖女の仕組みを知らないようで
よどら文鳥
恋愛
ルリナは物心からついたころから公爵邸の庭、主にゴミ捨て場で生活させられていた。
ルリナを産んだと同時に公爵夫人は息絶えてしまったため、公爵は別の女と再婚した。
再婚相手との間に産まれたシャインを公爵令嬢の長女にしたかったがため、公爵はルリナのことが邪魔で追放させたかったのだ。
そのために姑息な手段を使ってルリナをハメていた。
だが、ルリナには聖女としての力が眠っている可能性があった。
その可能性のためにかろうじて生かしていたが、十四歳になっても聖女の力を確認できず。
ついに公爵家から追放させる最終段階に入った。
それは交流会でルリナが大恥をかいて貴族界からもルリナは貴族として人としてダメ人間だと思わせること。
公爵の思惑通りに進んだかのように見えたが、ルリナは交流会の途中で庭にある森の中へ逃げてから自体が変わる。
気絶していた白文鳥を発見。
ルリナが白文鳥を心配していたところにニルワーム第三王子がやってきて……。
攻略なんてしませんから!
梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです!
【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/
閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。
此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。
*攻略なんてしませんから!別ルート始めました。
【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる