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第壱章 おはよう、異世界
【第29話】謎の人物、一体誰なんだ!(棒)
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「ねぇ、サーヴィス家御当主サマ?」
女は静かに、それでもハッキリと聞こえる声で告げた。
「……なぜ、分かった?」
第一席と呼ばれる男は、黒いフードを脱いだ。
そこには美しい金髪の男性。青年といってもいいほどの若い男が立っていた。
ただ、頬は痩せこけ、額には積年の皺が刻み込まれている。
「わぁっ、やっぱりそうだったんですねぇ」
「カマをかけたのか?」
「まさか!決闘代理人に刺客を忍ばせるなんて芸当、そもそも出来る人は限られますしぃ、実のことを言うと、結社の金の流れから、99パーセントの確信はありましたよぉ?ただ、残りの1パーセントが今埋まったって感じですかねぇ」
相変わらず、おちゃらけたような調子を崩すことの無い女に、男は少しイラついた。
確かに、決闘代理人に刺客を忍ばせるのは、出来る人が限られるだろうし、この男が結社に金を送っていたのも事実だ。
しかし、それは細心の注意を払って行われていたもので、そう易々と看破できるものではないはずだ。
なぜ自分だと分かったのか。疑問は尽きないがこれ以上は答えてくれそうもないので、質問を変えた。
「それで、私に何の用だ?」
「うーん、用と言いましてもそんなに大した用事では無くてですねぇ。ただ、あなたがやつらに情報を渡す前に片付けにきただけなのですがぁ。一足遅かったようですねぇ」
「なんだと?」
当主が聞き返すと、女が親指で自身の後ろを指さした。
「なっ、誰だ?お前は?」
女に言われるまで全く気づくことが出来なかった。
彼女の後ろには、その女以上の実力者であろう人物が結社のローブに身を包んで立っている。
ただ、確実に言えることは、これ程の実力者は結社に存在しない、ということだけだ。
「さっきから、殺気がビンビンだったんですよぉ。恐らく、やつら──覇王の部下でしょうねぇ」
謎の人物の威圧に臆することなく、女は言った。
「部下……だと?」
驚きを声に出さずにはいられなかった。
『覇王』とは部下に至ってもこのレベル。
つまりは、最初から相手にならないというレベルですら無かった。
我々結社が相手にしようとしていたのは、もはや人間ではない。バケモノだ。
「サーヴィス家、当主に聞くわ。あなたの息子が友人を決闘の替え玉に立てたのは、あなたの差し金、つまり、息子を今回の騒動の犠牲にしないために用意したあなたの策であり、息子はあなたの甘言に騙されただけということでいいのよね?」
謎の人物が透き通るような綺麗な声色で、しかし、その中に明確な殺意を込めて問いかける。
当主はその声で初めてその人物が女性であることに気付いた。
だが、質問の意図は理解出来ない。理解できるのは、もし回答を誤れば、今この場で殺されるであろう、ということ。
「それは……」
当主が答えを模索する数秒の間に、ピンク髪の女が先に口を開いた。
「ふむ、なるほどぉ?つまり覇王の正体はやはりぃ……」
「ちっ、それ以上口を開くなら殺すわよ。──で?ご当主サマの答えは?」
「あぁ。そうだ。私の策だとも。息子から決闘の話を聞いたとき、私はこれは使えると思った。あの学園は外部からの侵入には厳しいが、決闘の代理人であれば入れるし、代理人が内側から手引きすれば、他の者の侵入も容易い。息子には『決闘で殺されることはない』と伝えた上で、友人に替え玉してもらうようそれとなく誘導した。息子はなにも悪くない。どうか息子だけは──」
血だらけで、脇腹に風穴が状態にもかかわらず当主は土下座してみせた。
「今更息子だけは~って?いくらなんでも虫が良すぎるんじゃない?さんざん悪事を働いておいて」
謎の人物がそう言い放つ。
しかし、ピンク髪の女はその様子をみてなぜかニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「どうせ殺す気なんて無いんですしぃ、無駄な会話はやめませんかぁ?」
「……へ?」
驚く当主を前に謎の人物はやれやれとため息をつく。
「まぁ、こちらには大きな被害もなかったし、魔王を復活させようとした目的が奥さんを生き返らせるためとあってはねぇ。マスターは慈悲深い方だから、あなたを簡単に殺すと私が怒られちゃうわ」
「そ、そこまでご存知だとは……」
当主は土下座の体勢のまま呟いた。
「なるほどぉ。それじゃあ、その慈悲深い覇王様はきーっと私も殺すなとおっしゃるでしょうねぇ」
ピンク髪の女が笑みを顔に貼り付けてそう言うと、謎の人物も笑顔で返した。
「うん、あんたはもちろん殺すわよ?あんたらの隠蔽工作のせいで、この場所を見つけるのにも苦労したんだから。女神はあぁ言ってたけど、結社というよりも、あんたら魔人が元凶みたいだしね。魔王の力で人が生き返るなんて嘘で人を操るなんて、ホントに悪趣味」
「え、そんな、うそ?」
「当たり前でしょ?そもそも、そんな話どこで聞いたのよ」
「どこ、で?それは……」
「大方、あなたも軽い洗脳魔法をかけられていたんでしょうね」
「ちょっとぉ、ネタバラシはやめてもらえますかぁ」
「いや、そんな、そんなはずは!!」
しかし、ピンク髪の女のニマニマ笑いが、どこまでもその言葉に真実味をもたせていた。
「私はなんてことを……」
謎の人物がパチンと指を鳴らした。
すると、当主はその場から消え失せる。
「あぁ……おもちゃが逃げた」
「私たちの戦いに巻き込まれると困るしね」
女を睨みつけるが、彼女はわざとらしくブルブルと身震いする。
「『覇王』君の部下は怖い人が多いですねぇ」
「お褒めの言葉、どうも」
「あっはは、本当に怖いので、私は退散しますねぇ」
「逃がすと思って?」
謎の人物が目にも止まらぬ早さで電撃を飛ばす。
が、その電撃はピンク髪の女の体を貫通した。
「流石に生身でこの場に来るほど馬鹿じゃありませんよぉ」
「チッ、投影魔法か」
「そうですぅ」
そう言ってる間に、女の体が闇に解けて雲散していく。
謎の人物にもこれを止めるすべはない。
「ここまで来て下さったご褒美に、1つ助言してあげますねぇ。今年の武闘祭は荒れますよぉ。それと、女の子が舌打ちばかりしてるとはしたないですよぉ」
気持ち悪い笑みを最後に、女の影は跡形もなく消え去った。
部屋に残されたのは謎の人物ただ1人。
「それぐらい分かってるわよ。それに助言は2つだったし……ってか、この生首どうすればいいわけ……?」
薄暗い部屋にその声だけがこだました。
女は静かに、それでもハッキリと聞こえる声で告げた。
「……なぜ、分かった?」
第一席と呼ばれる男は、黒いフードを脱いだ。
そこには美しい金髪の男性。青年といってもいいほどの若い男が立っていた。
ただ、頬は痩せこけ、額には積年の皺が刻み込まれている。
「わぁっ、やっぱりそうだったんですねぇ」
「カマをかけたのか?」
「まさか!決闘代理人に刺客を忍ばせるなんて芸当、そもそも出来る人は限られますしぃ、実のことを言うと、結社の金の流れから、99パーセントの確信はありましたよぉ?ただ、残りの1パーセントが今埋まったって感じですかねぇ」
相変わらず、おちゃらけたような調子を崩すことの無い女に、男は少しイラついた。
確かに、決闘代理人に刺客を忍ばせるのは、出来る人が限られるだろうし、この男が結社に金を送っていたのも事実だ。
しかし、それは細心の注意を払って行われていたもので、そう易々と看破できるものではないはずだ。
なぜ自分だと分かったのか。疑問は尽きないがこれ以上は答えてくれそうもないので、質問を変えた。
「それで、私に何の用だ?」
「うーん、用と言いましてもそんなに大した用事では無くてですねぇ。ただ、あなたがやつらに情報を渡す前に片付けにきただけなのですがぁ。一足遅かったようですねぇ」
「なんだと?」
当主が聞き返すと、女が親指で自身の後ろを指さした。
「なっ、誰だ?お前は?」
女に言われるまで全く気づくことが出来なかった。
彼女の後ろには、その女以上の実力者であろう人物が結社のローブに身を包んで立っている。
ただ、確実に言えることは、これ程の実力者は結社に存在しない、ということだけだ。
「さっきから、殺気がビンビンだったんですよぉ。恐らく、やつら──覇王の部下でしょうねぇ」
謎の人物の威圧に臆することなく、女は言った。
「部下……だと?」
驚きを声に出さずにはいられなかった。
『覇王』とは部下に至ってもこのレベル。
つまりは、最初から相手にならないというレベルですら無かった。
我々結社が相手にしようとしていたのは、もはや人間ではない。バケモノだ。
「サーヴィス家、当主に聞くわ。あなたの息子が友人を決闘の替え玉に立てたのは、あなたの差し金、つまり、息子を今回の騒動の犠牲にしないために用意したあなたの策であり、息子はあなたの甘言に騙されただけということでいいのよね?」
謎の人物が透き通るような綺麗な声色で、しかし、その中に明確な殺意を込めて問いかける。
当主はその声で初めてその人物が女性であることに気付いた。
だが、質問の意図は理解出来ない。理解できるのは、もし回答を誤れば、今この場で殺されるであろう、ということ。
「それは……」
当主が答えを模索する数秒の間に、ピンク髪の女が先に口を開いた。
「ふむ、なるほどぉ?つまり覇王の正体はやはりぃ……」
「ちっ、それ以上口を開くなら殺すわよ。──で?ご当主サマの答えは?」
「あぁ。そうだ。私の策だとも。息子から決闘の話を聞いたとき、私はこれは使えると思った。あの学園は外部からの侵入には厳しいが、決闘の代理人であれば入れるし、代理人が内側から手引きすれば、他の者の侵入も容易い。息子には『決闘で殺されることはない』と伝えた上で、友人に替え玉してもらうようそれとなく誘導した。息子はなにも悪くない。どうか息子だけは──」
血だらけで、脇腹に風穴が状態にもかかわらず当主は土下座してみせた。
「今更息子だけは~って?いくらなんでも虫が良すぎるんじゃない?さんざん悪事を働いておいて」
謎の人物がそう言い放つ。
しかし、ピンク髪の女はその様子をみてなぜかニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「どうせ殺す気なんて無いんですしぃ、無駄な会話はやめませんかぁ?」
「……へ?」
驚く当主を前に謎の人物はやれやれとため息をつく。
「まぁ、こちらには大きな被害もなかったし、魔王を復活させようとした目的が奥さんを生き返らせるためとあってはねぇ。マスターは慈悲深い方だから、あなたを簡単に殺すと私が怒られちゃうわ」
「そ、そこまでご存知だとは……」
当主は土下座の体勢のまま呟いた。
「なるほどぉ。それじゃあ、その慈悲深い覇王様はきーっと私も殺すなとおっしゃるでしょうねぇ」
ピンク髪の女が笑みを顔に貼り付けてそう言うと、謎の人物も笑顔で返した。
「うん、あんたはもちろん殺すわよ?あんたらの隠蔽工作のせいで、この場所を見つけるのにも苦労したんだから。女神はあぁ言ってたけど、結社というよりも、あんたら魔人が元凶みたいだしね。魔王の力で人が生き返るなんて嘘で人を操るなんて、ホントに悪趣味」
「え、そんな、うそ?」
「当たり前でしょ?そもそも、そんな話どこで聞いたのよ」
「どこ、で?それは……」
「大方、あなたも軽い洗脳魔法をかけられていたんでしょうね」
「ちょっとぉ、ネタバラシはやめてもらえますかぁ」
「いや、そんな、そんなはずは!!」
しかし、ピンク髪の女のニマニマ笑いが、どこまでもその言葉に真実味をもたせていた。
「私はなんてことを……」
謎の人物がパチンと指を鳴らした。
すると、当主はその場から消え失せる。
「あぁ……おもちゃが逃げた」
「私たちの戦いに巻き込まれると困るしね」
女を睨みつけるが、彼女はわざとらしくブルブルと身震いする。
「『覇王』君の部下は怖い人が多いですねぇ」
「お褒めの言葉、どうも」
「あっはは、本当に怖いので、私は退散しますねぇ」
「逃がすと思って?」
謎の人物が目にも止まらぬ早さで電撃を飛ばす。
が、その電撃はピンク髪の女の体を貫通した。
「流石に生身でこの場に来るほど馬鹿じゃありませんよぉ」
「チッ、投影魔法か」
「そうですぅ」
そう言ってる間に、女の体が闇に解けて雲散していく。
謎の人物にもこれを止めるすべはない。
「ここまで来て下さったご褒美に、1つ助言してあげますねぇ。今年の武闘祭は荒れますよぉ。それと、女の子が舌打ちばかりしてるとはしたないですよぉ」
気持ち悪い笑みを最後に、女の影は跡形もなく消え去った。
部屋に残されたのは謎の人物ただ1人。
「それぐらい分かってるわよ。それに助言は2つだったし……ってか、この生首どうすればいいわけ……?」
薄暗い部屋にその声だけがこだました。
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