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しおりを挟む「だって、胸毛もじゃもじゃのハゲは女の敵なのよ?!」
なんてひどい風評被害だ。
ノルデンは確かにハ・・・いえ、頭髪がかなり薄い、というかなんにもないけど。胸毛は知らない。
「ココ様ったらノルデンと仲良くなり過ぎじゃない?私を差し置いて肥料の共同開発、ってなんなの!愛の共同作業はアタシとだけにしてっ!」
「え・・と。共同開発だなんて、私もどうかと思ってはいたの。だって、私は教わっている立場なのに。ノルデン、こんなことになってしまって、ごめんなさい」
頭を下げると、ノルデンは何でもないと言うように首を振り、いたずらっぽく微笑んだ。
「ちょっと~!何そのお互い通じ合ってます、的な感じ!さぁ、ココ様、アタシのいない間に何があったのか、まるっと白状してちょうだい!」
「うーん・・」
ガレスのいない間、今思えば、それは私にとって特別で大切な期間だった。
私は私なりに小さな一歩を踏み出し、自分自身に小さな奇跡を起こしたのだ。
簡単に話せるような気もするけど、ガレスにちゃんとわかってもらいたいから言葉にするのがなかなか難しい。
「まぁ、おいおいと」
曖昧に言うと、ガレスはムキーっと怒りノルデンを睨んだ。
「・・・お嬢様、ガレスがなんかとてもめんどくさいのですが・・・」
「た、確かに」
ノルデンには町で花屋を営んでいる同性の連れ合いさんがいるのだ。ガレスから理由のわからない嫉妬を向けられれば、そりゃ困惑するよね。
「私、ガレスがいなくて寂しくて・・」
「寂しくてっ!?」
「自分にも自信を持てなくて・・・」
「え、・・・」
「私には何もない、って思ってしまって。・・・けどそれは違った、──ってことに気付けたの。前は一途にガレスを想っていたけど」
「え、・・・」
「今は、たくさんの愛おしいものに囲まれているから、前よりもっとガレスを想っているの。
わかる?私もよくわからないこと言ってるな、って思うけど・・・」
自分でも苦笑してしまった。
ガレスの胸に縋り、背伸びをして小さな口づけを贈る。
「つまり、ガレスは誰にも焼きもちを焼かなくていいんだよ、ってことなの。私はガレスが大好きなの」
できる庭師ノルデンは、そっとこの場から立ち去っていた。
「──もう、寂しい思いはさせません」
ガレスがオネエではない、騎士様の表情で私を抱き寄せた。
薔薇の濃厚な香りが二人を包む。
ガレスが好きで自分が好きで、私たちのいるこの世界が大好きなの。
「貴女は強くなられた。──もう、あの小さな女の子ではないのですね」
時々、ガレスは今みたいに昔を懐かしむ。幼い頃の私を暴漢から助け出してくれたガレス。
残念ながら、私の記憶ではガレスはオネエの護衛として初登場していて、その前にガレスと会った記憶はない。
──でも、とても安心するのだ。誰の目にも留まりたくないと俯いていた私を、見守っていてくれた存在に。
「うほん、うほん」
わざとらしい空咳が聞こえてピタリとくっついていたガレスから身を起こすと、コレットがお茶が冷めてしまうと、すぐ近くの四阿に案内した。
ガレスと向かい合って席につくと、コレットが給仕をしてくれる。そしてお茶を淹れ終わったコレットが下がると、ガレスが優しく手を握ってきた。
「ココ様、改めて、私なんかと婚約して頂き、ありがとうございます」
「私の方こそ、選んで頂き光栄ですわ、勇者様」
おどけてニッコリすると、ガレスの顔が赤らんだ。
「あ、あの、実はそれに関してご褒美を頂きたく・・・」
「あ!私ったらもらうばかりで・・・!勇者の称号を得たお祝いをしていなかったわね」
なんてことかしら!
ガレスからは王都土産だと宝石や皮靴、バッグ等の小物、手の込んだ刺繍の入ったドレスやコート。
大王イカ討伐で立ち寄った港土産だと変わった文具や置物。
帰って来る道中で仕留めた獣の毛皮(肉は自分で食べたり、近くの村に買い取ってもらったらしい)だのと、とにかくたくさんのお土産を贈られているのだ。
それなのに!
「自分で出奔したのにご褒美っておかしくありません?」
下がっていたはずのコレットが口を挟む。
「それに、領をあげての“お帰りなさい&勇者おめでとう”パーティーは七晩も続きましたが」
コレットの言葉にガレスがぐぬぬ、と唸るがそれとこれとは別だと思う。
「私がお祝いしたいの。何か欲しいものはある?何でも言って!」
握られた手に、もう片方の手を重ねた。
「ココ様は、ただ頷いてくれるだけで良いのです。・・・はぁ、はぁ」
「・・・ん?」
「私はっ!別荘が欲しいのです!」
「別荘、・・・」
「もちろん報奨金で建てるつもりです。ココ様がその許可を出してくれれば!」
私の自由になるお金で別荘が買えるだろうか、という思いが顔に出てしまったのか、ガレスが慌てたように早口で言い足した。けど、土地の問題で許可が必要なら、父か母に取るのが良いのではないだろうか。
「ココ様との楽しい思い出のある場所に、ココ様と二人で過ごせる別荘が欲しいのです!」
「思い出のある場所?」
「はい!学園に入学する前、二人で色々なところに行きましたよね。ココ様は殊の外、山の中腹にある湖の畔で散歩したりピクニックをしたりするのがお気に入りでした」
「懐かしいわ。あそこはとても美しい場所よね」
「私もお供してましたけどね・・・」
コレットがすかさず口を挟む。
「そうね、あの頃は二人に色々な場所に連れて行ってもらえて、・・・嬉しかったわ」
「では!建てちゃっていいでしょうか?」
「許可は両親に取るのが筋だと思うけど、私自身はとても嬉しいわ」
「──くうっ!滾る!」
・・・タギル、ってどういう意味だったかしら。
聞き慣れない単語に戸惑っていると、ガレスが一瞬で紅茶を飲み干し立ち上がった。
「では、これで失礼します。二人の為に!お義父様に早速話しに行きます!二人の為に!」
「え!もう行くの?」
思わず私も立ち上がり、引き留めるようにガレスの服の裾を摘んでしまった。
そんな私をガレスがびっくりした顔で見る。
「あ、ごめんなさい、はしたないことを・・・」
「「ココ様(お嬢様)!危険です!!」」
ガレスとコレットが叫んだ。
「ぐおおおおっっ!!」
ガレスが雄叫びを上げ、走り去って行った。
「───・・・刺客でもいた?」
その後、折につけコレットから、「あいつの愛は重すぎですから気をつけて下さい!」と注意喚起されたが、私が身を以てその言葉の意味を深く知るのは、別荘が完成してからのことになる。
***完結です!
今までお付き合い、ありがとうございました♡
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