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ガブリエルの煩悩と憤怒
これは夢だろうか?
窓から差し込む光の中、少年姿のミカエルがこちらを見ている。
それともこれこそ現実で、今まで現実だと思っていたことが夢だったのだろうか?
だとしたら喜ばしいことだ。
ミカエルのあの慟哭も、黒く染まった6枚羽根も夢だったなら。
ミカエルとは幼い頃からずっと一緒に育った。
天使は一般的に欲をあまり感じない種族だが、私はミカエルに関することに限り、とてつもなく強欲だった。
その欲は長じて性的な意味合いが強くなり、気持ちを打ち明けても見事にスルーするミカエルを酒で酔わせて体の関係を結んだ。そんな関係に、初めこそ動揺していたミカエルだったが、体が快感を拾えるようになるとこんな友人関係もありか、とわりとあっさり納得したようだった。
いやそこで納得されるとそれ以上関係を進ませることが出来ないというか。いや匂わせてはみるし、なんなら最中に愛しているとズバリと口にしたのだが。
体だけ、と最初に口にしたのが悪かったのか、ミカエルはわかってるよと言わんばかりに微笑むのだ。最強スルーだ。
だがいい。
それらは全て長い夢だったのだ。
少年のミカエルがここにいる。これが現実だ。
今度こそ早いうちにミカエルの体も心も全て私のものにし、大事に閉じ込めて、誰にも傷付けさせはしない。
堕天など、させはしない。
心残りがあるとすれば、“天使ちゃん”の存在だ。
あの晩、──ミカエルが助けたがって何度か足を運んでいたあの子供が事切れ、そのショックでミカエルが泣き叫んだ、その時。私はそこにいた。
そして、堕天し、みるみるうちに黒く染まったミカエルの羽根を、何故だろう、黒く染まるのを止めようとでもしたのか、とっさの判断で引っこ抜いた、というか引き千切った。もちろん腕力でどうにかなるものではなく、天使としての力を込めたからできた大技だったが。
天使の羽根は、力の源だ。それを引き千切られたミカエルはそこで滅するはずで。そうだ、私はこの手でミカエルを殺したと等しいことをしたのだ。
“主よ!なぜこんなにもミカエルを追い詰めたのですか?なぜ、私にこんなにも酷いことをさせるのですか!?”
混乱の中、どくどくと血の流れるミカエルの背中に、子供の作ったおもちゃの羽根を押し当てた。
押し当てたところから白い光が生まれ、ミカエルの体を包むほど光が大きくなり、そして光がゆっくりと消えると、背中におもちゃの羽根が生えた、幼児のミカエルが現れた。
一週間程こんこんと眠り続けた後に目覚めた、幼児に戻ったミカエルは、記憶を全て失くしていて、私はまず“天使ちゃん”と名前を贈ったのだ。
──天使ちゃんはそうして生まれた。
高位の天使は死ぬことはないと言われているが、堕天使になった場合はどうなるのだろう?だが、“ミカエル”の席は空白のままだ。ということは、天使ちゃんは未だミカエルだ、ということになるのか。
よくわからんし、そんなことは神が考えればいいことだ。
ただただ、天使ちゃんは可愛かった。
“ガブリエル様”と私を呼ぶ声が。ぷくぷくしたほっぺが。小さな紅葉のような手が。とてとてと歩く様が。もう!もう!!
抱っこすると艶のあるほぼ真っ白な巻毛がふわふわと頬をくすぐってきて私を幸せな気持ちにしてくれる。
小さなお手々で私にお土産だと花を渡してくれる愛らしい天使ちゃん。
この子のためなら命を賭けても惜しくはない。
──私の最愛。
そんな天使ちゃんは夢の中の存在だったのか。
「ガブリエル、目が覚めた?」
今はもう白い巻毛ではなく、サラサラとした白銀の、肩までの真っ直ぐな髪を揺らしながら、少年のミカエルが声を掛けてくる。
清らかな柔らかい微笑みだ。
「エンジェル達、ガブリエルが目覚めたと医師に伝えてきておくれ」
きゃわきゃわと嬉しそうにミカエルにまとわりつき浮かんでいるエンジェル達に、お使いを頼んでいる。
「丸一日意識がなかったんだよ。っていうか寝てたのかも。いびきかいてた。ははっ。夜通し私を探して疲れていたんだろう。──ガブリエル?」
黙り込んでいる私にミカエルが怪訝な声を上げる。
「少しだけ起き上がれる?喉が乾いただろう?お水飲も?」
夜通し、私が何をしていたと?探して?探していたのは人間達だが、確かに指示を出すのに徹夜ではあった。
「ガブリエル・・・やはりカメ様の攻撃のダメージが」
「──っ!カメ様っ!ゲホッ」
声を出した途端盛大に咳き込んだ。
水、水、とミカエルがかいがいしく背中を支え水を飲ませてくれる。
「ありがとう、ミカエル」
「ん」
身体を起こした私にミカエルがそっと寄り添う。愛しさマックス!
衝動のままに抱きしめようとした私だったが、気付いてしまった。ミカエルの体が自分よりも一回り以上小さいことに。
「今はテンだよ。ミカエルに戻るのは力がちゃんと戻ってからだと主が仰言ってた」
「・・・テン」
ようやく、目の前の少年のミカエルも記憶の中の天使ちゃんも、魔王のような漆黒の6枚羽根を持った憎らしい悪魔も壊れた壁からでかい顔だけ出してきたカメ様もあれもこれも、全てが現実だと認識できてきた。
あ、ならあのピンクの愛らしい子豚ちゃんはどうしただろう。いやそれよりも。
「一体何が・・・」
訊きたいことがありすぎて逆に言葉が出てこない。
ただミカエルを見つめるだけの私に、ミカエルは優しい眼差しを向け、私が無様に意識を失くしてから何が起こったのかを詳しく説明してくれた。
──主の介入があったと。
カメ様から皆を助け、堕天した自分を許しくれたと。
それどころか自分のこの姿はご褒美なのだと。
主を英雄であるかのようにミカエルは語る。
騙されているぞミカエル。
主はあれでなかなか狡猾なのだ。その証拠に、私のピンチは助けなかったではないか。
「あ、ガブリエルの意識が戻ったら来るようにって、主が。ごめんな。私のせいで何か言われるかもしれない」
「いや、大丈夫だ。気にするな」
そもそも当分顔を出さないつもりだ。お説教などかったるい。
「ミカエル、その。──記憶が戻ったのか?」
私にはそちらのほうが懸案事項だ。
「・・・うん。実は少し前から」
「そうなのか?」
「イーサンに魔界に連れて行かれて、その時から少しずつ思い出してきて。今は全部思い出したよ」
そう言って柔らかく微笑むミカエルを見て、あの悲哀を乗り越えたのだなとホッとした。
「そうか。──ええと、ミカエルの頃の記憶というのは、その、」
私との体の関係に関しての記憶はどうなのか、と聞きたいが少年のミカエルにそんな話をしていいものか悩む。
いや、聞いてどうするということもないんだが。本当にないんだが。
今のミカエルに手を出すなんて外道な真似は絶対にしない。しないのだが、天使ちゃんの頃と違ってぷくぷくの消えた、スラリとした細身のミカエルは、なんというか少年特有の美しさがあって、正直惑う。いや、惑ってなどいない。いないったらいない。
その時、ドアがノックされ、医師のラファエルと共にエンジェル達がきゃわきゃわと入ってきた。
「ガブリエル、古の竜の光線を受けてたった一晩で死の淵から蘇ったか」
ハハハ、と軽快に笑う。
「ラファエル、笑い事じゃないから。ちゃんと診て」
「わかってるよ。赤い光線ならヤバかったが緑だったんだろ?ミスリルの鎧でなんとか命は防げるレベルだ」
「でも頭には何も着けていなかったし」
「ハハハ、なら頭はもうダメかもな」
「ラファエル!そんなこと冗談でも言わないで」
真面目なミカエルはラファエルの軽口をことごとく真正面から受け止めて気が気でない様子だ。
ラファエルは軽口を言いながらも手のひらを少しずつ移動させながら全身にかざし、状態を探っていく。
まあ、一応名医ではある。
「どこにも異常は見当たらないな。ま、2日ほど自宅でのんびりしたらいい」
「そう、良かった」
本気でホッとしてるミカエルが可愛い。
「だが、こいつのあそこを向こう百年ほど使えないようにしてやってもいいぞ、ミカエル」
「え?あそこって?」
「医者にあるまじきことを言うな!」
「ふん、だったら邪な目でミカエル少年を見るんじゃない」
「んなっ!!」
慌ててミカエルを見るが、訳がわからないというように首を傾げてる。可愛い。
見とれてたかもしれないが邪な目などしていない!・・のだが、エンジェル達が私とミカエルの間に入ってきて、私に向かい、んべ、と舌を出した。
「・・・・・」
永く生きているが、きゃわきゃわと笑っていないエンジェル達を初めて見たぞ。
「邪・・・。えと、ガブリエルの体は心配ないってこと?」
・・・そうだ、ミカエルは昔からスルースキルの発達した子だった。
「ああ、なんの心配もいらない。付いていてやる必要も一切ない!」
確かになんの不調も感じないがそこまで断言されるのは面白くない。
「良かった!ガブリエル!」
自分のことのように喜ぶミカエルに目尻が下がる。この子は天使かな?ああ、天使だった。
「じゃあ、私はイーサンのところに行ってくるよ。魔界の湖でピクニックをする約束をしてるんだ」
「は?」
「え?ミカエルは魔界へ行けるのか?」
流石にラファエルも驚いている。私とは違う点でだが。
「うん平気なんだ。一度死んだようなものだからかな?」
「ふうむ。不思議なもんだな」
「あ、私のことは“テン”と呼んで欲しい。これから少しずつ力をつけてミカエルになるから。それまでは」
「そうか・・・。テン、良い名だ。呼びやすい。“天使ちゃん”よりよっぽどいいよ」
ラファエル、私の名付けに何か?
「ミカ、──いや、テン」
「ん、なに?ガブリエル」
「テンは天使なのだから、魔界に行くことができたとしても、行くべきではないと思わないか?悪魔と仲良くするなどあってはならないと!」
「うーん。あんまり思わない、かな」
じゃ、いってきまーす、と軽く手を振り転移の魔法を発動させる。
「うぐ!痛たたた」
咄嗟にお腹を押さえてベッドの上で丸まってみたが、あれだけ元気だと断言された後では何の効果もなかった。
「ラファエルが治してくれるよ」
黄金の6枚羽根で自身の体を包み、軽い一言を残して消えていった。
「・・・黄金の羽根」
「ああ、主が授けたそうだ」
「愛されているな、ミカエル。いや、テン」
「・・・だな」
虚しい気持ちになりベッドに寝転んだ。
“イーサン”
人界でミカエルと一緒にいた、見事な漆黒の6枚羽根を持つ悪魔。
ムクリと起き上がりベッドから降りた。
「どうした?一応まだ休んでいたほうがいいぞ」
「主に呼ばれている」
「といったって目が覚めてすぐじゃなくても良かろうに」
「いや、今だ」
エンジェル達に手伝ってもらい身支度を整える。
ミカエルの羽根が黒く染まったのを目にして以来、私にとって主は全能の神ではなくなった。
一言言ってやらねば気がすまない。
なぜ、カメ様は滅して悪魔は見逃したのか、と!
窓から差し込む光の中、少年姿のミカエルがこちらを見ている。
それともこれこそ現実で、今まで現実だと思っていたことが夢だったのだろうか?
だとしたら喜ばしいことだ。
ミカエルのあの慟哭も、黒く染まった6枚羽根も夢だったなら。
ミカエルとは幼い頃からずっと一緒に育った。
天使は一般的に欲をあまり感じない種族だが、私はミカエルに関することに限り、とてつもなく強欲だった。
その欲は長じて性的な意味合いが強くなり、気持ちを打ち明けても見事にスルーするミカエルを酒で酔わせて体の関係を結んだ。そんな関係に、初めこそ動揺していたミカエルだったが、体が快感を拾えるようになるとこんな友人関係もありか、とわりとあっさり納得したようだった。
いやそこで納得されるとそれ以上関係を進ませることが出来ないというか。いや匂わせてはみるし、なんなら最中に愛しているとズバリと口にしたのだが。
体だけ、と最初に口にしたのが悪かったのか、ミカエルはわかってるよと言わんばかりに微笑むのだ。最強スルーだ。
だがいい。
それらは全て長い夢だったのだ。
少年のミカエルがここにいる。これが現実だ。
今度こそ早いうちにミカエルの体も心も全て私のものにし、大事に閉じ込めて、誰にも傷付けさせはしない。
堕天など、させはしない。
心残りがあるとすれば、“天使ちゃん”の存在だ。
あの晩、──ミカエルが助けたがって何度か足を運んでいたあの子供が事切れ、そのショックでミカエルが泣き叫んだ、その時。私はそこにいた。
そして、堕天し、みるみるうちに黒く染まったミカエルの羽根を、何故だろう、黒く染まるのを止めようとでもしたのか、とっさの判断で引っこ抜いた、というか引き千切った。もちろん腕力でどうにかなるものではなく、天使としての力を込めたからできた大技だったが。
天使の羽根は、力の源だ。それを引き千切られたミカエルはそこで滅するはずで。そうだ、私はこの手でミカエルを殺したと等しいことをしたのだ。
“主よ!なぜこんなにもミカエルを追い詰めたのですか?なぜ、私にこんなにも酷いことをさせるのですか!?”
混乱の中、どくどくと血の流れるミカエルの背中に、子供の作ったおもちゃの羽根を押し当てた。
押し当てたところから白い光が生まれ、ミカエルの体を包むほど光が大きくなり、そして光がゆっくりと消えると、背中におもちゃの羽根が生えた、幼児のミカエルが現れた。
一週間程こんこんと眠り続けた後に目覚めた、幼児に戻ったミカエルは、記憶を全て失くしていて、私はまず“天使ちゃん”と名前を贈ったのだ。
──天使ちゃんはそうして生まれた。
高位の天使は死ぬことはないと言われているが、堕天使になった場合はどうなるのだろう?だが、“ミカエル”の席は空白のままだ。ということは、天使ちゃんは未だミカエルだ、ということになるのか。
よくわからんし、そんなことは神が考えればいいことだ。
ただただ、天使ちゃんは可愛かった。
“ガブリエル様”と私を呼ぶ声が。ぷくぷくしたほっぺが。小さな紅葉のような手が。とてとてと歩く様が。もう!もう!!
抱っこすると艶のあるほぼ真っ白な巻毛がふわふわと頬をくすぐってきて私を幸せな気持ちにしてくれる。
小さなお手々で私にお土産だと花を渡してくれる愛らしい天使ちゃん。
この子のためなら命を賭けても惜しくはない。
──私の最愛。
そんな天使ちゃんは夢の中の存在だったのか。
「ガブリエル、目が覚めた?」
今はもう白い巻毛ではなく、サラサラとした白銀の、肩までの真っ直ぐな髪を揺らしながら、少年のミカエルが声を掛けてくる。
清らかな柔らかい微笑みだ。
「エンジェル達、ガブリエルが目覚めたと医師に伝えてきておくれ」
きゃわきゃわと嬉しそうにミカエルにまとわりつき浮かんでいるエンジェル達に、お使いを頼んでいる。
「丸一日意識がなかったんだよ。っていうか寝てたのかも。いびきかいてた。ははっ。夜通し私を探して疲れていたんだろう。──ガブリエル?」
黙り込んでいる私にミカエルが怪訝な声を上げる。
「少しだけ起き上がれる?喉が乾いただろう?お水飲も?」
夜通し、私が何をしていたと?探して?探していたのは人間達だが、確かに指示を出すのに徹夜ではあった。
「ガブリエル・・・やはりカメ様の攻撃のダメージが」
「──っ!カメ様っ!ゲホッ」
声を出した途端盛大に咳き込んだ。
水、水、とミカエルがかいがいしく背中を支え水を飲ませてくれる。
「ありがとう、ミカエル」
「ん」
身体を起こした私にミカエルがそっと寄り添う。愛しさマックス!
衝動のままに抱きしめようとした私だったが、気付いてしまった。ミカエルの体が自分よりも一回り以上小さいことに。
「今はテンだよ。ミカエルに戻るのは力がちゃんと戻ってからだと主が仰言ってた」
「・・・テン」
ようやく、目の前の少年のミカエルも記憶の中の天使ちゃんも、魔王のような漆黒の6枚羽根を持った憎らしい悪魔も壊れた壁からでかい顔だけ出してきたカメ様もあれもこれも、全てが現実だと認識できてきた。
あ、ならあのピンクの愛らしい子豚ちゃんはどうしただろう。いやそれよりも。
「一体何が・・・」
訊きたいことがありすぎて逆に言葉が出てこない。
ただミカエルを見つめるだけの私に、ミカエルは優しい眼差しを向け、私が無様に意識を失くしてから何が起こったのかを詳しく説明してくれた。
──主の介入があったと。
カメ様から皆を助け、堕天した自分を許しくれたと。
それどころか自分のこの姿はご褒美なのだと。
主を英雄であるかのようにミカエルは語る。
騙されているぞミカエル。
主はあれでなかなか狡猾なのだ。その証拠に、私のピンチは助けなかったではないか。
「あ、ガブリエルの意識が戻ったら来るようにって、主が。ごめんな。私のせいで何か言われるかもしれない」
「いや、大丈夫だ。気にするな」
そもそも当分顔を出さないつもりだ。お説教などかったるい。
「ミカエル、その。──記憶が戻ったのか?」
私にはそちらのほうが懸案事項だ。
「・・・うん。実は少し前から」
「そうなのか?」
「イーサンに魔界に連れて行かれて、その時から少しずつ思い出してきて。今は全部思い出したよ」
そう言って柔らかく微笑むミカエルを見て、あの悲哀を乗り越えたのだなとホッとした。
「そうか。──ええと、ミカエルの頃の記憶というのは、その、」
私との体の関係に関しての記憶はどうなのか、と聞きたいが少年のミカエルにそんな話をしていいものか悩む。
いや、聞いてどうするということもないんだが。本当にないんだが。
今のミカエルに手を出すなんて外道な真似は絶対にしない。しないのだが、天使ちゃんの頃と違ってぷくぷくの消えた、スラリとした細身のミカエルは、なんというか少年特有の美しさがあって、正直惑う。いや、惑ってなどいない。いないったらいない。
その時、ドアがノックされ、医師のラファエルと共にエンジェル達がきゃわきゃわと入ってきた。
「ガブリエル、古の竜の光線を受けてたった一晩で死の淵から蘇ったか」
ハハハ、と軽快に笑う。
「ラファエル、笑い事じゃないから。ちゃんと診て」
「わかってるよ。赤い光線ならヤバかったが緑だったんだろ?ミスリルの鎧でなんとか命は防げるレベルだ」
「でも頭には何も着けていなかったし」
「ハハハ、なら頭はもうダメかもな」
「ラファエル!そんなこと冗談でも言わないで」
真面目なミカエルはラファエルの軽口をことごとく真正面から受け止めて気が気でない様子だ。
ラファエルは軽口を言いながらも手のひらを少しずつ移動させながら全身にかざし、状態を探っていく。
まあ、一応名医ではある。
「どこにも異常は見当たらないな。ま、2日ほど自宅でのんびりしたらいい」
「そう、良かった」
本気でホッとしてるミカエルが可愛い。
「だが、こいつのあそこを向こう百年ほど使えないようにしてやってもいいぞ、ミカエル」
「え?あそこって?」
「医者にあるまじきことを言うな!」
「ふん、だったら邪な目でミカエル少年を見るんじゃない」
「んなっ!!」
慌ててミカエルを見るが、訳がわからないというように首を傾げてる。可愛い。
見とれてたかもしれないが邪な目などしていない!・・のだが、エンジェル達が私とミカエルの間に入ってきて、私に向かい、んべ、と舌を出した。
「・・・・・」
永く生きているが、きゃわきゃわと笑っていないエンジェル達を初めて見たぞ。
「邪・・・。えと、ガブリエルの体は心配ないってこと?」
・・・そうだ、ミカエルは昔からスルースキルの発達した子だった。
「ああ、なんの心配もいらない。付いていてやる必要も一切ない!」
確かになんの不調も感じないがそこまで断言されるのは面白くない。
「良かった!ガブリエル!」
自分のことのように喜ぶミカエルに目尻が下がる。この子は天使かな?ああ、天使だった。
「じゃあ、私はイーサンのところに行ってくるよ。魔界の湖でピクニックをする約束をしてるんだ」
「は?」
「え?ミカエルは魔界へ行けるのか?」
流石にラファエルも驚いている。私とは違う点でだが。
「うん平気なんだ。一度死んだようなものだからかな?」
「ふうむ。不思議なもんだな」
「あ、私のことは“テン”と呼んで欲しい。これから少しずつ力をつけてミカエルになるから。それまでは」
「そうか・・・。テン、良い名だ。呼びやすい。“天使ちゃん”よりよっぽどいいよ」
ラファエル、私の名付けに何か?
「ミカ、──いや、テン」
「ん、なに?ガブリエル」
「テンは天使なのだから、魔界に行くことができたとしても、行くべきではないと思わないか?悪魔と仲良くするなどあってはならないと!」
「うーん。あんまり思わない、かな」
じゃ、いってきまーす、と軽く手を振り転移の魔法を発動させる。
「うぐ!痛たたた」
咄嗟にお腹を押さえてベッドの上で丸まってみたが、あれだけ元気だと断言された後では何の効果もなかった。
「ラファエルが治してくれるよ」
黄金の6枚羽根で自身の体を包み、軽い一言を残して消えていった。
「・・・黄金の羽根」
「ああ、主が授けたそうだ」
「愛されているな、ミカエル。いや、テン」
「・・・だな」
虚しい気持ちになりベッドに寝転んだ。
“イーサン”
人界でミカエルと一緒にいた、見事な漆黒の6枚羽根を持つ悪魔。
ムクリと起き上がりベッドから降りた。
「どうした?一応まだ休んでいたほうがいいぞ」
「主に呼ばれている」
「といったって目が覚めてすぐじゃなくても良かろうに」
「いや、今だ」
エンジェル達に手伝ってもらい身支度を整える。
ミカエルの羽根が黒く染まったのを目にして以来、私にとって主は全能の神ではなくなった。
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