おっさんは異世界で焼肉屋する?ー焼肉GOD

ちょせ

文字の大きさ
7 / 171

王女の決意、国王の憂鬱

しおりを挟む
その貼り紙は、とある人物に天変地異に等しい激震をもたらした。


「従業員募集!三食昼寝露天風呂付き!希望があれば住込みも可!給与相談応」


本来であれば、1週間貼ってもだれもこねぇじゃねえぇか!と、カンザキが叫ぶところであったのだがそうはならなかった。

その理由は至極簡単である


カンザキの店にやってくる執事クナト

彼は、彼のご主人の命により監視の役目を負っていたのだ

「それでクナト、その話は本当なのね?」

ふわりとブロンドをなびかせながら、彼女は言った

その真摯な瞳は真剣そのものであり殺気すら含んでいる、普段の彼女のメイドや部下が見ればきっと怯えたことだろう

「はい、アレクシア様」

執事服に身を包んだ熊のような男、クナトは頭を下げたまま話す

「あの店の主が貼り紙を用意しておりまして、従業員募集の貼り紙でございます。三食昼寝露天風呂付き、住込み可と。」

ありのままを話す。クナト決して情報を捻じ曲げたりなどしない

主人を思えばここで、この報告はしない方がいいのかも知れない

だがそんなことをした所でクナトに益はなく、それどころかバレた時にはとんでもなく避難されるだろうし、それはアレクシアに利にならない

「そう、従業員ね・・住込みも可・・・・うふふふ」

アレクシアはニヤケ顔……自然に笑顔が止まらない


あの店の従業員になれれば、店主カンザキの傍に公然と居ることができる

それは今まで悩んで悩んで、どうしようかと思っていたーまさにそれだ

クナトに視察に行かせ、店のシステムや配置、肉の味・・客の人数・・・
ありとあらゆる情報を仕入れた。
そしてついに、望んでも無かったチャンスがめぐってきたと、彼女は思う

「行かれるので?」

クナトはアレクシアが行くと分かっている。決まっていると、思いながらも聞いた

「それを私に聞くのですか?」

ふふふと、まばゆいばかりの笑顔でアレクシアはクナトに言った



そうと決まれば、ここで話している余裕などはない

アレクシアは準備を始める。その大きな胸を揺らして歩き始める。

彼女は王族であると共に、飛竜部隊の隊長をやっていた

だが、焼肉ゴッドにいくとなればその任は妹にさせよう、そう決めていたので引継ぎに向かう。

幸いにも妹はアレクシアの気持ちを、もの凄く喜んで、協力的であった。
良い妹を持ったと、心から感謝する。

そして彼女は叫ぶように、言った


「レオノール!お願いがございます!」





-------------------------------





「ク、クナトよ、シアが出て行くというのは本当か!?」

シアとはアレクシアのあだ名だ。
呼びやすいよう、親しいものは彼女をそう呼んでいる

「はっ。今は飛竜部隊の引継ぎにレオノール様の所へ行かれているかと」

クナトの報告は素早い、でなければこの王宮で執事など勤まらないだろう

レオノールはアレクシアの妹である

今後はレオノールが隊長として活躍してくれるだろう。

「そうか。それで、その者は強いのか?」

深呼吸をする、一先ずは落ち着こう。そして聞こう。
自分より強いものでなければ、娘をやることなど決して認めはしない。
娘の前では自由にせよとは言うものの、親心はままならないものだ。

「はっ。恐らくは強いかと。少なくともSSS級の腕前はあると思われます。」

なるほど、冒険者のSSS級と言えば最高クラスではある。だが、それはピンからキリまであるのだ

「何層クラスと見る?」

ダンジョンに何処まで潜れるか?それを聞く。40層あればもう、SSSクラスである
所詮は王族ではないのだ。いいところで50層クラスが関の山だ・・・
40層クラスと50層クラスを比べれば、これはもう相当な力の差であるのだが、自身が最高到達80層である自分以上と言う事はあるまいと、そう高を括る

巨大都市ウルグインの「公式」到達地点は65層である。
だが、それはあくまで冒険者が打ち立てている記録であって、王族の持つ記録、それではない

この国の王族は強い。とてつもなく強い。それ故に公表はしてはいないが、80層までは楽に潜れる。
王の娘たちでも、おそらくは70層は軽い。

クナトは予想していた事を聞かれ、用意していた言葉を話す。

「未知数です。ですが、私の予想では100層クラスかと・・・」


先日食べた食材はコカトリスの卵で間違いはないだろう。それを難なく採って来れるなど。
さらには今まで食べたことの無い、美味な食材・・・クナト自身も、王について80層に行った事は何度もあるのに、まったく知らないモンスターの食材をあの店主はいとも簡単に用意する。
それを考えると、本来は100層でも説明がつかないのだが、そもそもの自身の限界、王の限界を知るクナトはカンザキの最高到達層など想像も出来ない。故に、100層、想像力の限界である。


眩暈がした。
クナトの真面目な態度、あわてる様子の無い声を聞くと熟考して言ったと、嘘ではないと分かる

だが100層クラスだと!?

過去の王族最強と謳われた王でようやく100層手前が限界だったはず

だから、100層というのはこの都市に住む冒険者の夢、そしておそらくはこのダンジョンの最下層のはずだ。
それを・・・成している者がいるというのか?
それでは王族よりもはるかに強いではないか!!?

「本当か?」

そう言わずには居られない

「是非も無く」

クナトの声は、国王の耳に無慈悲に突き刺さる

もはや、国王である父にできることは限られている

娘を笑って送り出してやるしかない

その焼肉ゴッドの店主カンザキを、八つ裂きにしてやりたいがそれでは娘が悲しむだろう

ここは100歩譲って・・・いや、100000歩譲ってだ

様子をみるしかないのか・・・

王はもはや、諦めるしかなかった。

その日の夕方、アレクシアは王の下にやってきた

焼肉ゴッドに住み込みで働くという。
王は反対をしない、いや、出来ない

好きにしろと、言った

娘が心配である。しかも住み込みだと・・・これは娘の貞操が心配である。

もう、心配しすぎてどうにかなりそうだ。だがそれでは威厳は保てぬし、王の執務に影響がでてしまう

娘には器の小さい父と思われたくない
葛藤が治まらないが・・・・アレクシアを信じる事にしよう

我が娘を信じない親はいないのだ……


いつか絶対殴ると心に秘める


かくしてーアレクシア・ウル・グインは焼肉ゴッドを訪れる。

彼女はついに一歩踏み出した
確固たる決意と勇気を持って。

そして問題もなく従業員となった
仕事についても問題はない

アレクシアは毎日、毎日、クナトの話を聞いて想像していたから
焼肉ゴッドの事を、カンザキの事を既に信頼している

彼女は今、もう自身を王族とは思っていない

ただの、普通の、恋する乙女なのだから。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...