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16 温もり
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「ボロボロでしょ。ごめん狭くて」
「いや、獣狼族の家とは作りが全く違うんだなと思って」
「そうなの?」
「ああ」
薬草を取り出し、木のお椀に入れてすり潰していく。
顔を上げればそこにはルーカスが座っている。自宅に獣狼族のルーカスがいるという状況に違和感があるが、それよりも家に一緒にいる安心感があった。
火の近くに行き、服を脱いでいく。傷口の血はもう止まっているようだ。水瓶から汲んできた水に布を浸し、傷口の周りの汚れや血を拭いていく。
届かないところはルーカスに頼みながら、薬草まで塗り終えた。
痛みはあるが、数日で治るだろう。歩けないわけでもない。森の中で歩けなかったのは、ただ単に腰が抜けていただけだろう。
「ルーカスの怪我は?」
「問題ない」
「本当に?」
あれほどの掴み合いをしていて、本当に怪我はないのだろうか。ルーカスの体の周りを一周しながら観察するが、服から出ている場所は毛に覆われていて全然分からない。少し服が裂けているところもあるが、そこからは中の毛が出ているだけで、血は出ていないようだ。
「この程度なら、食って一晩寝れば治る」
「そうなんだ。あ、ごめん、今この家には肉がないんだよね……木の実は食べれる?」
「――少しなら」
獣狼族は体が丈夫なようだ。鳥人族だったら、あれほどの攻撃をされたら、暫くは起き上がることさえできないだろう。助けてくれたルーカスには肉を食べて早く治して欲しかったが、生憎今この家には肉がない。鳥肉も、先日奪われてしまった後に交換へと行っていないので手に入っていない。
「これしかないけど、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
木の実を少しと、沸かしたお湯を器に入れて差し出す。アレスもルーカスの隣に腰を下ろし、ゆっくりとお湯を飲み、木の実を食べる。全身が温まって、ようやく息がつけた。
ルーカスは木の実を全て一口で食べてしまったようで、もう一度見た時には手には何も持っていなかった。
「最近忙しかったの?」
「ああ、俺たちの村も移動することになってな。バタバタしてた。来れなくてすまなかったな」
「ううん、約束してたわけじゃないし」
「さっきの獣狼は俺の兄で、最近何かと監視されてて行けなかったのもある。あいつと会ったの大岩のところだろ?」
「うん、俺が早とちりして声かけちゃったんだ。やっちゃった……」
「こんなとこまでくるやつは普通いないからな。仕方ない。俺がこの辺りまで来ていたのがバレて、何かあるのかと見に来ていたんだろう」
「なんでそんなに探られていたの?」
外は日が落ちて暗くなってきた。雪が降り始めたようで、火を焚いていても部屋の中まで寒くなってくる。壊されかけたアレスの家は少し補強はしたものの、隙間が空いて冷たい空気が中まで入り込んできた。お湯の入った器を両手で握りしめる。
「食料が不足しているだろう。それで、鳥人族の村を襲って食料を確保しようと言い出すものがいてな。兄も大賛成で計画を立てていたんだ。けど、俺が反対してたから、鳥人族を逃すと思って探っていたんじゃないか?」
「……そうだったんだ、みんな早く出発して良かった」
「ああ、まだ計画を立ててる段階だったからな。止められず実行されることが決定したら、アレスに伝えようとしていた」
「でも、ルーカスが伝えてくれていても、オレの言うことは村のみんなは信じてくれなかったかもしれない……」
ルーカスがいなければ、鳥人族の村の襲撃はもっと早かったのではないだろうか。それこそ村の皆が旅立つ前だったかもしれない。早めに気づいて空に逃げ出せば助かるが、アレスは飛べないし、森に1番近い場所に住んでいるので逃げられなかっただろう。
森でルーンに追われたことを思い出す。全く逃げきれる気がしなかった。一度見つかってしまえば簡単にやられる。
あの時の恐怖を思い出したのか、寒さなのかアレスの体は小刻みに震えた。
そんな様子に気がついたルーカスがアレスを抱えて胡座をかいた足の上に乗せ、後ろから両腕で包み込んでくる。
「――え」
「毛がないから寒いんだろう。ここにいればいい」
確かに、ルーカスの毛に包まれて温かい。ルーカス自身の体温も感じる。
「ありがとう」
包まれて暫くするとだんだんと眠たくなってきて、アレスは大きな欠伸をした。
「もう寝るか」
「そうだね」
ルーカスの足から降りて、端にしまっていた布団を敷くが、どう見てもルーカスの体は布団に入らない。敷いた布団の横で考え込んだアレスに、ルーカスが声をかけた。
「俺は別に布団はいらないから、アレスが使えばいい」
「うーん、そうだ! ルーカスここに横になって!」
「ああ」
よく分からないまま言われた通りに横になったルーカスの上から、敷き布団と掛け布団の両方を横にして縦に並べてかける。
そして、アレスはルーカスと布団の間に入り込んだ。
「重い? これじゃ寝にくい?」
「いや、全然気にならない」
うつ伏せになり、怪我をした部分に気をつけながら少しだけ体の位置を調整して寝る体勢になる。前側にはルーカスの暖かな体。冬でも薄着なルーカスの温もりが服越しに伝わってくる。背中側には布団があり、アレスの体は温かさに包まれた。
「これ、いいな。とても温かい」
「あ、本当? オレも、とってもあったかいよ」
アレスはルーカスに返事をしながら、大きな欠伸をして目を閉じる。
2人はお互いの温もりを感じながら、その日は深く眠った。
「いや、獣狼族の家とは作りが全く違うんだなと思って」
「そうなの?」
「ああ」
薬草を取り出し、木のお椀に入れてすり潰していく。
顔を上げればそこにはルーカスが座っている。自宅に獣狼族のルーカスがいるという状況に違和感があるが、それよりも家に一緒にいる安心感があった。
火の近くに行き、服を脱いでいく。傷口の血はもう止まっているようだ。水瓶から汲んできた水に布を浸し、傷口の周りの汚れや血を拭いていく。
届かないところはルーカスに頼みながら、薬草まで塗り終えた。
痛みはあるが、数日で治るだろう。歩けないわけでもない。森の中で歩けなかったのは、ただ単に腰が抜けていただけだろう。
「ルーカスの怪我は?」
「問題ない」
「本当に?」
あれほどの掴み合いをしていて、本当に怪我はないのだろうか。ルーカスの体の周りを一周しながら観察するが、服から出ている場所は毛に覆われていて全然分からない。少し服が裂けているところもあるが、そこからは中の毛が出ているだけで、血は出ていないようだ。
「この程度なら、食って一晩寝れば治る」
「そうなんだ。あ、ごめん、今この家には肉がないんだよね……木の実は食べれる?」
「――少しなら」
獣狼族は体が丈夫なようだ。鳥人族だったら、あれほどの攻撃をされたら、暫くは起き上がることさえできないだろう。助けてくれたルーカスには肉を食べて早く治して欲しかったが、生憎今この家には肉がない。鳥肉も、先日奪われてしまった後に交換へと行っていないので手に入っていない。
「これしかないけど、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
木の実を少しと、沸かしたお湯を器に入れて差し出す。アレスもルーカスの隣に腰を下ろし、ゆっくりとお湯を飲み、木の実を食べる。全身が温まって、ようやく息がつけた。
ルーカスは木の実を全て一口で食べてしまったようで、もう一度見た時には手には何も持っていなかった。
「最近忙しかったの?」
「ああ、俺たちの村も移動することになってな。バタバタしてた。来れなくてすまなかったな」
「ううん、約束してたわけじゃないし」
「さっきの獣狼は俺の兄で、最近何かと監視されてて行けなかったのもある。あいつと会ったの大岩のところだろ?」
「うん、俺が早とちりして声かけちゃったんだ。やっちゃった……」
「こんなとこまでくるやつは普通いないからな。仕方ない。俺がこの辺りまで来ていたのがバレて、何かあるのかと見に来ていたんだろう」
「なんでそんなに探られていたの?」
外は日が落ちて暗くなってきた。雪が降り始めたようで、火を焚いていても部屋の中まで寒くなってくる。壊されかけたアレスの家は少し補強はしたものの、隙間が空いて冷たい空気が中まで入り込んできた。お湯の入った器を両手で握りしめる。
「食料が不足しているだろう。それで、鳥人族の村を襲って食料を確保しようと言い出すものがいてな。兄も大賛成で計画を立てていたんだ。けど、俺が反対してたから、鳥人族を逃すと思って探っていたんじゃないか?」
「……そうだったんだ、みんな早く出発して良かった」
「ああ、まだ計画を立ててる段階だったからな。止められず実行されることが決定したら、アレスに伝えようとしていた」
「でも、ルーカスが伝えてくれていても、オレの言うことは村のみんなは信じてくれなかったかもしれない……」
ルーカスがいなければ、鳥人族の村の襲撃はもっと早かったのではないだろうか。それこそ村の皆が旅立つ前だったかもしれない。早めに気づいて空に逃げ出せば助かるが、アレスは飛べないし、森に1番近い場所に住んでいるので逃げられなかっただろう。
森でルーンに追われたことを思い出す。全く逃げきれる気がしなかった。一度見つかってしまえば簡単にやられる。
あの時の恐怖を思い出したのか、寒さなのかアレスの体は小刻みに震えた。
そんな様子に気がついたルーカスがアレスを抱えて胡座をかいた足の上に乗せ、後ろから両腕で包み込んでくる。
「――え」
「毛がないから寒いんだろう。ここにいればいい」
確かに、ルーカスの毛に包まれて温かい。ルーカス自身の体温も感じる。
「ありがとう」
包まれて暫くするとだんだんと眠たくなってきて、アレスは大きな欠伸をした。
「もう寝るか」
「そうだね」
ルーカスの足から降りて、端にしまっていた布団を敷くが、どう見てもルーカスの体は布団に入らない。敷いた布団の横で考え込んだアレスに、ルーカスが声をかけた。
「俺は別に布団はいらないから、アレスが使えばいい」
「うーん、そうだ! ルーカスここに横になって!」
「ああ」
よく分からないまま言われた通りに横になったルーカスの上から、敷き布団と掛け布団の両方を横にして縦に並べてかける。
そして、アレスはルーカスと布団の間に入り込んだ。
「重い? これじゃ寝にくい?」
「いや、全然気にならない」
うつ伏せになり、怪我をした部分に気をつけながら少しだけ体の位置を調整して寝る体勢になる。前側にはルーカスの暖かな体。冬でも薄着なルーカスの温もりが服越しに伝わってくる。背中側には布団があり、アレスの体は温かさに包まれた。
「これ、いいな。とても温かい」
「あ、本当? オレも、とってもあったかいよ」
アレスはルーカスに返事をしながら、大きな欠伸をして目を閉じる。
2人はお互いの温もりを感じながら、その日は深く眠った。
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