【完結】ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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35 パフェ

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「あ、迅くん。僕の桃もどうぞ――」

 自分だけ食べさせてもらったままでは不公平だと思った樹は、桃を持った手を迅の方へと伸ばした。迅は樹の差し出した桃へゆっくりと顔を近づけると、ひと口かじる。
 お互いに赤くなった顔で見合った後、同じタイミングで視線をそらす。手に残った桃を見つめた樹は、何も考えないように勢いよく平らげた。

「ぼ、僕、パフェを頼んでくるね!」

 ドキドキと高鳴る鼓動を一度落ち着かせるためにそう言って席を離れた樹は、ウッドデッキから店内へと小走りで進み、店員を見つけてパフェをお願いした。その後、桃の果汁でベタベタになってしまった手を洗うためにトイレ横の手洗い場へ向かう。
 手を石鹸で洗いながら前にある鏡を見ると、いつもより頬が赤い気がしたので、顔まで洗い深呼吸をしてウッドデッキへと戻る。パフェはまだ到着しておらず、迅は尻尾をピンと立てたまま桃の種を手に持ち、無心に八重歯でかじっていた。

「迅くんも、手を洗ってくれば?」
「――え、ああ」

 樹の言葉に返事をして慌てて種を皿に戻した迅は、立ち上がり店内へと消えていった。

 迅がいなくなってすぐに桃のパフェが到着した。店員が2人分のパフェとドリンクを木のテーブルに置き、代わりに種の入った皿を持っていく。
 丸々1個分の桃を使った贅沢なパフェと桃のジュースを見た樹は、その美味しそうな見た目にテンションが上がる。迅が戻ってくるのを、ウッドデッキと店内の間にあるガラスの扉を見つめながら待った。
 迅がこちらに向かって歩いているのがガラス越しに見えた樹は、手を振って迅に合図を送る。樹に気がついた迅に、テーブルの上のパフェを指さして伝えると、迅は慌てて戻ってきた。

「迅くん、パフェきたよー!」
「ああ、うまそうだ」

 座った迅は、素早くパフェ用の長いスプーンを手に取った。迅がパフェを見て目を輝かせているのが見て取れる。樹もパフェスプーンを手に取り、早速パフェの上に飾られている桃をひとつすくって食べた。

「んーおいしい!」

 先ほど食べた桃も美味しかったが、冷やされている桃も美味しい。生クリームやバニラアイスの下には桃のゼリーまで入っている。甘くて美味しいパフェに、樹はスプーンを止めることなく食べ続けた。
 向かいに座っている迅も、パクパクと美味しそうに食べ進めている。その様子を見て、迅も甘いものが好きに違いないと樹は思った。


「おいしかったねー」
「ああ」

 素直に大きく頷きながら返事をしてきた迅に、樹は微笑みながら自分のお腹を撫でる。大きな桃2つとパフェまで食べてお腹いっぱいだ。パフェと一緒に出してもらった桃のジュースを飲みながら、のんびりとくつろぐ。
 当分桃は食べなくてもよいと思えるほど、桃尽くしだった。

 迅の前にあるパフェグラスも綺麗に完食されている。満足げにため息をついた迅は、パフェグラスをジッと見つめながら唇をぺろりと舐めた。鋭い八重歯が口元から覗いている。

「ふふっ、もっと食べたいの?」
「――え、ああ、まあ」

 樹が声をかけると、ハッとした表情になった迅は視線を逸らして姿勢を正す。

「何か追加で頼む?」

 テーブルの端の方にあるメニュースタンドを迅の方へと向けた。写真はついておらず、文字のみのメニューだ。チラリとそのメニューを見た迅は首を横に振った。

「いや、大丈夫だ」
「そう?」

 物足りなさそうな顔をしているように見えたが、違ったのかと樹は首を傾げる。

 2人が農園に到着した午前中は人が少なかったが、さすがにお昼ごろになると客も増えてきてカフェの店内にも、ちらほらと人が座るようになってきた。

「そろそろ出ようか?」
「ああ」

 持ち帰る2つの桃をリュックへと大切にしまい、脱いでいた麦わら帽子をかぶった樹は席を立つ。迅も樹の後に続いて立ち上がった。
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