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――次の日――。
私は自室のベッドの上にいた。
「失礼します。アルベール殿下、お体の方はどうですか」
年配の侍従が顔を出した。
「もう大丈夫だよ。色々すまなかった」
昨日、私が倒れて大騒ぎになった。だけど、侍従がすばやく私の喉に手を突っ込み、呑み込んだ毒花を吐き出させてくれたから、軽症ですんだ。
私は一番聞きたいことを聞いた。
「マリーはどうしてる?」
侍従の声は冷ややかだった。
「何度も申し上げておりますが、マリー様はお元気でいらっしゃいます。だから、殿下は何もご心配なさらずに、あと一週間は安静にしてください。吐き出したとはいえ、毒花をあれだけ口にしたのですから」
たしかにまだ頭がくらくらするし、腹も少し痛む。だけど……。
「マリーに会いたい。マリーとの婚約は破棄になんてなってないだろうね」
「殿下。勝手にマリー様を試すようなマネをして、挙句の果てに自死しようとするなんて、ご自分の立場をわかっておられるのですか」
幼少のころから仕えてくれている、父親代わりというべき侍従に痛いところをつかれ、私は言葉に詰まった。
「……私が愚かだったよ。ごめん」
間を置いて、そう言うと、侍従は少し微笑んだように見えた。まるで子ども扱いなのに私は面白くない。
「一週間後、殿下がお元気になられたらマリー伯爵令嬢とお会いできますよ」
「もう元気になってるよ」
「一週間後です」
侍従はぴしゃりと言い放って、部屋を出て行った。
そして一週間後、私は愛しいマリーと王宮の中庭で、再会した。マリーは私を見るなり泣き出した。
「ごめんなさいアルベール殿下……。わたくし、殿下が婚約破棄だなんて仰るから、殿下を心配させようとして、つい、死んだフリを……! まさか、殿下がわたくしと共に死のうとするなんて、思わなくって」
私は人目もはばからずにマリーを抱き寄せた。
「いいんだ、マリー。悪いのは私だ。私がなんちゃって婚約破棄なんてしたから」
「いいえ。学園の勉強が忙しくて、アルベール殿下にお手紙を書くのをおろそかにしていた、わたくしが悪いのです」
「いいや。毎日来ていた手紙が二日に一度になったからといって、君が冷たくなったと勘違いした私が愚かだった。まだ学生の君の忙しさも考えずに」
「本当にごめんなさい。もっと早く死んだフリをやめて、なーんて、嘘ですよ、殿下、心配しました? って言うつもりだったんです。だけど、殿下がわたくしへの愛を必死に叫ぶお姿が愛しくて……引っ張ってしまいました」
私は微笑んだ。そしてマリーの額を指でつん、と軽くつついた。
「小悪魔め。まんまとやられたよ」
そうだったのか。私たちは、似た者同士だったというわけか。私もマリーも、相手の愛を確かめたくて、なんちゃってをやらかして、取り返しのつかない事態を招くところだった、というわけだ。ははは、こりゃあまいった!
これからは……大丈夫だ。
私たちは今まで少しだけ、お互いを、信じ切れていなかったかもしれない。
だけど今、私とマリーは固くお互いの愛を信じた! もう何の問題もない。大丈夫だ。
「アルベール殿下、そろそろよろしいですか。申し訳ありませんが、公務のお時間です」
少し離れたところに控えていた父親代わりの侍従が、やれやれと呆れたような口調で言った。欠伸をかみ殺している。
心配しなくても大丈夫だよ。マリーが傍にいてくれれば、私はこの国のために第二王子としてしっかりやっていける。
なんちゃって婚約破棄騒動は、こうして、幕を閉じた――。
(完)
私は自室のベッドの上にいた。
「失礼します。アルベール殿下、お体の方はどうですか」
年配の侍従が顔を出した。
「もう大丈夫だよ。色々すまなかった」
昨日、私が倒れて大騒ぎになった。だけど、侍従がすばやく私の喉に手を突っ込み、呑み込んだ毒花を吐き出させてくれたから、軽症ですんだ。
私は一番聞きたいことを聞いた。
「マリーはどうしてる?」
侍従の声は冷ややかだった。
「何度も申し上げておりますが、マリー様はお元気でいらっしゃいます。だから、殿下は何もご心配なさらずに、あと一週間は安静にしてください。吐き出したとはいえ、毒花をあれだけ口にしたのですから」
たしかにまだ頭がくらくらするし、腹も少し痛む。だけど……。
「マリーに会いたい。マリーとの婚約は破棄になんてなってないだろうね」
「殿下。勝手にマリー様を試すようなマネをして、挙句の果てに自死しようとするなんて、ご自分の立場をわかっておられるのですか」
幼少のころから仕えてくれている、父親代わりというべき侍従に痛いところをつかれ、私は言葉に詰まった。
「……私が愚かだったよ。ごめん」
間を置いて、そう言うと、侍従は少し微笑んだように見えた。まるで子ども扱いなのに私は面白くない。
「一週間後、殿下がお元気になられたらマリー伯爵令嬢とお会いできますよ」
「もう元気になってるよ」
「一週間後です」
侍従はぴしゃりと言い放って、部屋を出て行った。
そして一週間後、私は愛しいマリーと王宮の中庭で、再会した。マリーは私を見るなり泣き出した。
「ごめんなさいアルベール殿下……。わたくし、殿下が婚約破棄だなんて仰るから、殿下を心配させようとして、つい、死んだフリを……! まさか、殿下がわたくしと共に死のうとするなんて、思わなくって」
私は人目もはばからずにマリーを抱き寄せた。
「いいんだ、マリー。悪いのは私だ。私がなんちゃって婚約破棄なんてしたから」
「いいえ。学園の勉強が忙しくて、アルベール殿下にお手紙を書くのをおろそかにしていた、わたくしが悪いのです」
「いいや。毎日来ていた手紙が二日に一度になったからといって、君が冷たくなったと勘違いした私が愚かだった。まだ学生の君の忙しさも考えずに」
「本当にごめんなさい。もっと早く死んだフリをやめて、なーんて、嘘ですよ、殿下、心配しました? って言うつもりだったんです。だけど、殿下がわたくしへの愛を必死に叫ぶお姿が愛しくて……引っ張ってしまいました」
私は微笑んだ。そしてマリーの額を指でつん、と軽くつついた。
「小悪魔め。まんまとやられたよ」
そうだったのか。私たちは、似た者同士だったというわけか。私もマリーも、相手の愛を確かめたくて、なんちゃってをやらかして、取り返しのつかない事態を招くところだった、というわけだ。ははは、こりゃあまいった!
これからは……大丈夫だ。
私たちは今まで少しだけ、お互いを、信じ切れていなかったかもしれない。
だけど今、私とマリーは固くお互いの愛を信じた! もう何の問題もない。大丈夫だ。
「アルベール殿下、そろそろよろしいですか。申し訳ありませんが、公務のお時間です」
少し離れたところに控えていた父親代わりの侍従が、やれやれと呆れたような口調で言った。欠伸をかみ殺している。
心配しなくても大丈夫だよ。マリーが傍にいてくれれば、私はこの国のために第二王子としてしっかりやっていける。
なんちゃって婚約破棄騒動は、こうして、幕を閉じた――。
(完)
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