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第一章

彼を元に戻して

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 きゃあああああああ!
 
 私は何度も転びながら長い廊下を走り抜けて、自分の部屋にたどり着くなりベッドに顔からダイブした。
 枕を抱きしめ、足をジタバタさせる。

 恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!

 シロが青野君だってことは、ってことは……、つまり、全部見られてたってことじゃないの! 寝起きの姿も、だらしなくお菓子を摘まんでる姿も、着替えながらこれとこれどっちが似合う? とかシロに聞いちゃったし、寝相が悪くてシロを潰しかけたことだってあるし、それから、お、お風呂も一緒に……!

(風呂は俺、目つぶってたぜ!)

「わー! シロ!! じゃなかった青野君!」

 振り返るとそこにはシロ……もとい、青野君がいた。私を追いかけてきてくれたんだ。だけど今はもう恥ずかしくて彼の顔をまともに見られないよ。
 私は青野君から目を背ける。

(傷だらけだな、結乃)

 背中から労わるような声がする。

 そ、それは、ここまで来る途中たくさん転んだから……。

(お前はどこでもよく転ぶなあ)

「あ、青野君、今笑った!」
 私は青野君の方へ向き直る。
 すると青野君は私の膝の傷をそっと舐めた。
「ひゃ」
 くすぐったくて、体がぴくんと跳ねる。
 ぺろぺろと、優しく丁寧に、でもどこかぎこちなく、舐めてくれる。
 私は動けずにされるがまま、青野君に舐められていた。

「お取込み中のところ悪いんだけど、ちょっといいかな」

「え、エメル!!」

 エメルが寝室の前に立っていた。どうやって入ったの……と思ったけど、私、部屋に鍵かけてなかったんだった。
 
「今後のことを話し合いたくてね」

「今後のこと?」

 聞いてから私ははっとした。私ってば、恥ずかしくてジタバタしていて肝心なことを忘れていた。
「エメル、貴方が魔法で青野君とシロを一体化したんでしょう? だったら今すぐその魔法をといて。私はこの世界で青野君と一緒になりたいの」
 そこまで言って、はたと思った。エメルはなんで青野君のフリをしていたんだろう。
 私はその疑問をエメルにぶつけた。
 エメルはああそれね、と軽い口調で説明した。

「僕は王女の誰かと結婚して逆玉の輿に乗りたかったのさ。この国はメガロスと違って女性にも王位継承権がある。王女の元に婿に入れば、王族になれる」

 王女の誰か……私じゃなくてもよかったのか。
 いやいや、何ちょっとがっかりしてるの私。ばかばか、青野君がいるのに!

「ユノレア王女大丈夫? そんなに首振ると首がもげるよ? ……話を続けるとね、三か月前、人間の姿をした青野白夜と出会って、この国の第八王女に転生したという君のことを聞いているうちに、この計画を思いついたってわけ。手っ取り早く王族入りしようと思っただけだよ」

 エメルほどの魔導師でも王族に入りたいって思うんだ。一級魔導師の実力があれば仕事に困ることなんてないと思うけど。
 青野君のふりをやめたエメルはどうも掴みどころがない。
 話していることが本当なのか、嘘なのかわからない。彼がずっと私を騙していたから、そう感じるのかもしれないけど、今だって、なんだかわざと開き直って悪ぶっているように見える。
 ……本当は、悪い人じゃないと思うんだよね。なんとなく、そんな風に思う。「ムサシ」に似てるぐらいだし。

「話を元に戻そう。今後のことについてだよ」

 そうだった。青野君を人間に戻してもらわなきゃ。

「残念ながら青野白夜は人間に戻れない」

 ええ? それは残念……って

「えーー!? ど、どうして? 貴方がかけた魔法でしょ?」

 私は思わず叫んだ。
 当のエメルは平然と、
「僕の魔法力がないからだよ」
 と答えた。
どうりで最近調子が悪かったわけだ」

 エメルは一人納得している。

 そんな。私の恋人は猫のままなの?
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