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第二章
旅立ち
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出発当日。
私とエメルは王の間でお父様たちにご挨拶をして、成人の儀式へと出発した。王の間を出ると傍に控えていたアドネは私を抱きしめ「どうかご無事で」と声を震わせた。
メンバーは私、猫の青野君、エメルの三人だ。
目立っては困るので、王宮の裏口からこっそり外へ出た。裏口を守る兵士が「お気を付けて」と敬礼しながら見送ってくれた。
さあ、北の森に出発だ。
私はいつものドレスではなくて、目立たないように町の一般的な女性の服を用意してもらった。麻のワンピースに、くるぶしまでのスパッツ。ヒールのないシンプルな靴。
正直ふわふわしたドレスにヒールの高い靴よりも、こっちのほうが落ち着く。高校生に戻ったみたい。
腰には魔法力が注入されていて荷物がたくさん入るウエストポーチをつけている。これは我がミール国が誇る発明品で、今や世界中に広まっている。旅人には必需品のポーチだ。
市井の人々が私に気がつくとは思えないけれど、一応髪もまとめて結い上げて、つばの広い帽子の中に隠してある。エメルはいつも通りのローブ姿で(この姿だけで魔導師! っていう感じだから絡まれにくくなる)「魔法力があまりない今、今まで魔法でテキトーにあしらった奴に会ったら面倒だなあ」とブツブツ言っている。
(どこで恨み買ってんだよ)
エメルの肩にちょこんと乗っているのは青野君だ。私は青野君を抱っこしてあげるって言ったんだけど、青野君は「結乃が重いだろ」と言って、エメルの方を選んだ。
「自分で歩けよ。暑っ苦しいな」
エメルが文句を言っても青野君は知らんぷり。もっとも青野君の言葉は魔法力が低い状態の、今のエメルには通じないのだけれど。
青野君の言葉がわかるのは、今は私だけ。本当に、愛の力ってことなのかなあ。
「ただでさえローブ姿は暑いって言うのに、馬鹿猫め」
(あ~楽ちん楽ちん)
「何言ってんのかわからないから余計腹立つな」
青野君とエメルがじゃれ合ってるのが微笑ましい。
ミール国は南と北で気候が違う。王都がある南……つまりこの辺は温暖で、これから向かう北の大地は寒冷だ。確かに南の気候は、ローブ姿の魔導師にはちょっと辛いのかも。
「! 危ない、ユノレア様」
そんなことを思いながら歩いていると、エメルが私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せた。
直後、スネーク、と呼ばれる、前の世界で言うところのバスが、私のすぐ横を通りすぎて行く。蛇と呼ばれているのは日本のバスと違って、基本三両以上編成で、魔法力によって地面から浮きながらくねくね道を移動するからだ。
「危ない運転だな。全部魔法任せか」
エメルが呟く。
運転士は何かを操る魔法に特性がある人がなる場合が多い。もちろん魔法力がなくても運転士にはなれるけど、そういう場合はスネークではなく、車輪がついている乗り物限定で運転する。
王都にはそれなりに高い魔法力を持っている人が集まるので、運転士は魔法力を持っている場合が多いのが現状だ。私が公用で外出するときに乗る王族専用車の運転士さんも、魔法を使わないで運転するけれど、実際は魔法力を持っている。
(さすが王都だな。魔法力が高い人間が集まるだけのことはある。俺の故郷の村は馬車しかなかった)
青野君が去っていくスネークを目で追いながら言う。
「青野君の故郷って、どんなところなの?」
(何にもない田舎だよ。村の人たちはいい人だったけど、近くに山があって、度々魔物が降りてくるんだ)
「エメル、青野君の故郷は何もないところで魔物が降りてくるんだって!」
「ユノレア様、どうでもいい話を僕のためにいちいち通訳しなくてもいいよ」
「ユノレア……ユノでいいよエメル。これから王女の身分は隠して行動するから」
「それじゃあ、そうさせてもらうよ、ユノ。それより、どういう手段で北の森に行く? やっぱり船かな」
私のお父様であるテラグラス王が治める「クレシェ・ミールランド」通称ミール国は、三日月の形をした島国で、真ん中に丸い海がある。南の大地がある王都から北の大地へ行くには王都から船に乗るか、列車で陸を行くか、飛行船で空を行くかの三択になる。
「とりあえず港に行ってみようよ」
(それがいいな!)
「そうだね。船が手っ取り早い」
私の提案に青野君とエメルが快諾した。
どうやら私たちの旅立ちは船からはじまりそうだ。私は自分の胸元のブローチを見る。深い青色のブローチは光の反射でキラキラと輝いている。
どうかこれを使わずにすべてがうまく行きますように。
私とエメルは王の間でお父様たちにご挨拶をして、成人の儀式へと出発した。王の間を出ると傍に控えていたアドネは私を抱きしめ「どうかご無事で」と声を震わせた。
メンバーは私、猫の青野君、エメルの三人だ。
目立っては困るので、王宮の裏口からこっそり外へ出た。裏口を守る兵士が「お気を付けて」と敬礼しながら見送ってくれた。
さあ、北の森に出発だ。
私はいつものドレスではなくて、目立たないように町の一般的な女性の服を用意してもらった。麻のワンピースに、くるぶしまでのスパッツ。ヒールのないシンプルな靴。
正直ふわふわしたドレスにヒールの高い靴よりも、こっちのほうが落ち着く。高校生に戻ったみたい。
腰には魔法力が注入されていて荷物がたくさん入るウエストポーチをつけている。これは我がミール国が誇る発明品で、今や世界中に広まっている。旅人には必需品のポーチだ。
市井の人々が私に気がつくとは思えないけれど、一応髪もまとめて結い上げて、つばの広い帽子の中に隠してある。エメルはいつも通りのローブ姿で(この姿だけで魔導師! っていう感じだから絡まれにくくなる)「魔法力があまりない今、今まで魔法でテキトーにあしらった奴に会ったら面倒だなあ」とブツブツ言っている。
(どこで恨み買ってんだよ)
エメルの肩にちょこんと乗っているのは青野君だ。私は青野君を抱っこしてあげるって言ったんだけど、青野君は「結乃が重いだろ」と言って、エメルの方を選んだ。
「自分で歩けよ。暑っ苦しいな」
エメルが文句を言っても青野君は知らんぷり。もっとも青野君の言葉は魔法力が低い状態の、今のエメルには通じないのだけれど。
青野君の言葉がわかるのは、今は私だけ。本当に、愛の力ってことなのかなあ。
「ただでさえローブ姿は暑いって言うのに、馬鹿猫め」
(あ~楽ちん楽ちん)
「何言ってんのかわからないから余計腹立つな」
青野君とエメルがじゃれ合ってるのが微笑ましい。
ミール国は南と北で気候が違う。王都がある南……つまりこの辺は温暖で、これから向かう北の大地は寒冷だ。確かに南の気候は、ローブ姿の魔導師にはちょっと辛いのかも。
「! 危ない、ユノレア様」
そんなことを思いながら歩いていると、エメルが私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せた。
直後、スネーク、と呼ばれる、前の世界で言うところのバスが、私のすぐ横を通りすぎて行く。蛇と呼ばれているのは日本のバスと違って、基本三両以上編成で、魔法力によって地面から浮きながらくねくね道を移動するからだ。
「危ない運転だな。全部魔法任せか」
エメルが呟く。
運転士は何かを操る魔法に特性がある人がなる場合が多い。もちろん魔法力がなくても運転士にはなれるけど、そういう場合はスネークではなく、車輪がついている乗り物限定で運転する。
王都にはそれなりに高い魔法力を持っている人が集まるので、運転士は魔法力を持っている場合が多いのが現状だ。私が公用で外出するときに乗る王族専用車の運転士さんも、魔法を使わないで運転するけれど、実際は魔法力を持っている。
(さすが王都だな。魔法力が高い人間が集まるだけのことはある。俺の故郷の村は馬車しかなかった)
青野君が去っていくスネークを目で追いながら言う。
「青野君の故郷って、どんなところなの?」
(何にもない田舎だよ。村の人たちはいい人だったけど、近くに山があって、度々魔物が降りてくるんだ)
「エメル、青野君の故郷は何もないところで魔物が降りてくるんだって!」
「ユノレア様、どうでもいい話を僕のためにいちいち通訳しなくてもいいよ」
「ユノレア……ユノでいいよエメル。これから王女の身分は隠して行動するから」
「それじゃあ、そうさせてもらうよ、ユノ。それより、どういう手段で北の森に行く? やっぱり船かな」
私のお父様であるテラグラス王が治める「クレシェ・ミールランド」通称ミール国は、三日月の形をした島国で、真ん中に丸い海がある。南の大地がある王都から北の大地へ行くには王都から船に乗るか、列車で陸を行くか、飛行船で空を行くかの三択になる。
「とりあえず港に行ってみようよ」
(それがいいな!)
「そうだね。船が手っ取り早い」
私の提案に青野君とエメルが快諾した。
どうやら私たちの旅立ちは船からはじまりそうだ。私は自分の胸元のブローチを見る。深い青色のブローチは光の反射でキラキラと輝いている。
どうかこれを使わずにすべてがうまく行きますように。
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