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第三章

北の森へ

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 空飛ぶ乗り物の操縦は、美羅ちゃんが担当することになった。

「こういうのは得意なんだ。任せてくれ」

 美羅ちゃんがリュークさんに操縦方法を教わっているあいだ、私はエメルの服の中にいる青野君に話しかけようかと思ったけど、結局やめた。放っておいてくれって、言われたもんね。

 私、何か青野君を怒らせるようなことしたのかな。心当たりがなくても、不安になる。

 しばらくして、リュークさんのレクチャーが終わり、私たちは空飛ぶ乗り物に乗り込んだ。

 操縦席に美羅ちゃん、後部座席に私と青野君、エメルが座った。エメルはろくろ首のお姉さんに押し問答の末、食事と泊った代金を、気持ちとして手渡していた。
 程なくしてエンジンがかかる。

 ろくろ首のお姉さん、のっぺらぼうの男性、逆さ首のおじいさん。それに他の秘境レストランのみんなが、私たちを見送ってくれる。
 リュークさんが美羅ちゃんに向かって「しっかりな」とでも言うように親指を突き出す。
 マルコとマルコより幼い女の子が並んで手を振っている。二つ結びの女の子。きっとハンナちゃんだ、と思う。
 横を見るとエメルの服から青野君がほんの少し顔を出して、二人を見つめていた。

 空飛ぶ乗り物がゆっくりと上昇する。正直ちゃんと飛ぶのか心配だったけれど、機体は安定していた。

 さよなら。秘境レストランのみんな。一日だけだったけど、とっても楽しかった。
 
 次第に小さくなっていくみんなに手を振っていると、エメルがからかうように言った。
「ユノ何泣いてんの、馬鹿だなあ」
「だって、きっともう会えないもの。会えなくなるのはさみしいよ」
 地図にない島。行こうと思って行けるわけじゃないし、島のみんなも隠れて暮らすことを望んでる。
 涙が次々と溢れてきた。嫌だな、泣き虫なのも前の世界からちっとも変わらない。
 エメルはぎょっとして慌てふためいた。
「ちょっと泣きすぎでしょ……」
 すると、青野君がエメルの服からぴょんと勢いよく飛び出して、私の肩にトン、と乗った。そのまま頬に流れる涙をゆっくりと、優しく舐めてくれる。

「青野君、もう大丈夫なの」
(ああ、もう平気だ。心配かけたな)
 そうは言ってもどことなく元気がないみたい。声に、いつもの覇気がない。

(結乃……俺……)

 耳元で、弱弱しくささやく。どうしたの、青野君。

(いや、なんでもない……すまん)

 そのまま私の肩の上で青野君は黙ってしまった。
 

 しばらくすると、目の前に広大な森が見えてきた。美羅ちゃんが声を上げる。

「あれが、ミールの北の森か? よかった、そんなに離れてなかったんだな」
「たしか、北の森の手前に港町があるはずです。王都から出た船はみんなその町に入港する。森に入る前の準備もあるし、そこに降りられるといいんですけど」
 エメルが提案する。

「了解した」

 美羅ちゃんが答える。
 ついに、北の森にやってきたんだ。これからが本番、魔物と戦うと思うとドキドキしてくる。
 覚悟を決めなきゃ。
 魔物を倒して、成人の儀式をクリアする。そしてそのあと、本当のことを話して、お父様とお母様に青野君との婚約を認めてもらうんだ……!
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