自称女神様の側近は今日も行く

Mr.アマゾネス

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プロローグ

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 長く闇に支配された世界。魔王が軍を率いて世界を征服する世界。
 人々は悲しみ、苦しみ、嘆くばかり、後に暗黒期と呼ばれることとなる時代。
 そんな時代に、そんな世界に、一筋の光が指した。
 異世界から召喚された青年は女神の加護を得てこの世界に降り立った。
 青年は女神との約束を胸に魔王を倒すべく、旅に出る。
 人々はその青年を勇者と呼び、世界の命運を、希望を、一人の青年――。
 女神の加護を受けた勇者に託したのだ。
 
 過酷で命を落としかねない危険な旅。勇者の一人の孤独な旅。
 しかし、そんな危険で過酷な旅に供(とも)をすると名乗り上げる者たちがいた。
 志を共にする仲間が。
 
 ――仲間の身を守り、正しき事ことに剣を振るう男 『戦士』
 ――人々を癒し、正しき道へと導く心優しき女 『僧侶』
 ――意地っ張りで口が悪いが、弱い者いじめが嫌いで寂しがり屋な女 『魔法使い』

 三人と出会い、時に喧嘩をして時に助け合いながら絆を深め旅をした。
 斬られ、殴られ、病に苦しむ時もあった。それでも勇者たちは諦らめずにその足を進めるのであった。
 世界を脅かす存在の元へ。魔王の元へと・・・。

 そして――。

「難き勇者とその仲間達よ。よくぞ辿り着いた。そして、ここが貴様らの墓場となろう。」

 魔王との最後の戦いが始まる。
 その戦いは、まさに死闘と呼べるべき戦いだった。
 血肉が飛び散り、骨が折れ、魔王の部屋はたちまちに紅(あか)の一色に染まり上がる。
 
 戦いが始まってどれくらいの時(とき)が経っただろうか・・・

 片腕を失いながらもまだ残っているもう片方の腕で盾を握る戦士。
 口から血を出し地面に横たわる魔法使い。
 あらぬ方向に曲がった足を引きずりながら仲間を癒す僧侶。

 誰しもが限界だった。いや、限界など既に超えていた。
 しかし、そんな状況でもここに立っていられるのは・・・希望を捨てないでいられるのは、彼がまだ諦らめていないからだ。
 仲間たちを守るように立ち。今だ瞳に闘志を宿し魔王と戦っている勇者がいるからだ。
 
 片腕はだらしなく垂れ下がり片目は閉じられている。
 まだ動くもう片方の手で剣を握りその切っ先を魔王に向けている。
 
 魔王も既にボロボロになっていた。
 魔法使いの魔法で皮膚や着ていた服を焦がされ、戦士の斬撃で肉や服が斬り刻まれ、勇者の攻撃で骨や武器は折れてしまった。

「魔王。あんたは強いよ。本当に強い・・・俺たちは4人でやっとあんたを追い詰めることが出来た。」
「っふ。ここまで我を追い詰めたのは貴様らが初めてだ。しかし、我は魔王。世界に抗い己の欲のために生きる者。誰にも負けはせん。最後に勝利するのは我だ。」
「・・・そろそろ決着をつけよう。魔王。俺はもうアンタを倒すだけの力しか残っていないみたいだ。」
「どこまでも小賢しい勇者だ。捻り潰してくれる。」

 魔王の体は何倍にも膨れ上がらせて勇者に向かってくる。
 対する勇者も雄叫びを上げて剣を振りかざして魔王に向かっていく。

 勇者の手に握られた剣が光を帯びる始める。その光は徐々に増していき、決戦の場を眩いばかりに包み込む。 

 刹那。魔王と勇者の二つの影がぶつかり合う。

 眩いばかりの光が徐々に失われて、視界が戻ったとき時。
 その瞳に飛び込んできた映像に、光景に、三人の感情を高ぶらせた。
 
 ――自分たちが、この世界の人々が、夢見てやまなかった光景。 
 ――自分たちがここまでしてきた過酷な旅の、最後にして最大の目的。 

 戦士、僧侶、魔法使いの目からは涙がゆっくりとこぼれ落ちる。
 三人はその涙を拭おうとはせず、そのまま目の前の光景をただ見つめた。

 魔王の体は縦に半分になりドス黒い血を流している。
 その屍の上に未だ輝きを失わない剣を掲げて勇者が立っている。

 この世界の誰もが知っているおとぎ話の光景がそこにはあった。
 この世界の誰もが知っている神話の光景が目の前にあった。
 おとぎ話は、神話は、今現実となって確かに目の前に存在した。

 ――勇者が魔王に勝ったのだ。

 剣から光無くなると役目を終えたかのように「パキン」と音を立てて折れた。
 剣の欠片が地面に辺り決戦の場に金属をんを響かせ、それが合図であるかのように力尽きた勇者もまたその場に崩れる様に倒れた。
 そんな勇者の体を近づいて来た戦士が、優しく抱きとめる。

「勇者」
「戦士か・・。俺・・疲れたよ。」
「よくやった。本当に、よくやった。・・・帰ろう、国へ。」

 その言葉に勇者は申し訳無さそうに首を横に降った。
 そして、体に力を入れて立ち上がり、勇者はゆっくりと口を開いた。

「すまないが、俺がこの世界でしてやれることはここまでだ。」

 その言葉に仲間達が大きく目を見開く。
 三人を代表するかのように魔法使いが声を上げる。

「ど、どういうことよ!?」

 勇者は仲間達一人一人に目線を送りゆっくりと口を開く。

「俺には魔王を倒した後、目的があると皆んなにいっていたいな。」
「あぁ。魔王を倒したらおしえてくれるんだろ?酒場でそう話したじゃないか。」
「あぁ。その約束を今果たそう。」

 勇者は振り返り天に向かってにざまずいた。

「約束は果たしました!!女神様!!俺の約束を守ってください!!」

 勇者がそう叫ぶと、辺りが再び光に包まれてその人・・いやその神は現れた。

 麦が熟れたような黄色(おうしょく)をした髪は風になびき、光が反射して黄金の輝きを放つ。純白の衣の隙間から見える白肌は透き通るように美しく。整いすぎた目鼻立ちが神々しい印象を与えるほどの美貌。
 
 見る者の呼吸を忘れさせる美しい神が・・・女神が目の前に現れた。
 そんな女神を見て勇者を除いた三人はなにも言えずにその場に立っていた。

「勇者とその仲間達よ。よくぞ魔王を打ち取りました。」

 女神の声はまるで鈴を鳴らしたように耳に心地良い。

「まずは功績者の傷を癒やしましょう。そうでなければ話も出来ません。」

 女神が手を翳すと今までの傷が嘘のように一瞬で治ってしまった。
 魔法使いの壊れた内蔵も、僧侶のあらぬ方向に曲がった足も、戦士の亡くなった腕も勇者の目や腕も全てが元通りに戻ったのだ。

「あなた達が魔王を倒してくれたおかげでこの世界に介入することが可能になりました。よくぞ辛い試練を乗り越えました。本当にみなさんご苦労様でした。」
「女神様のためなら例えこの身が滅びようと使命を全う致します。」

 傅く勇者を見て女神はため息を漏らす。

「全く、あなたという人は・・・」
「あ、あのぉ」

 悩ましそうに額に手を当てている女神に恐る恐る声を掛けたのは僧侶だ。

「なんでしょうか?」
「あなたは?」
「あぁ、そうでしたね。勇者とは面識が有りましたがあなたたちとはまだでしたね。私はこの世界ではコーネと呼ばれている神です。」

 その答えにに再び三人は目を丸くする。
 コーネといえばこの世界で一番崇拝されている神の一人だ。
 それが目の前に降臨したら誰でも驚くであろう。

「女神様。説明は俺からします。」
「そうですか?」

 立ち上がり仲間達の方に向き直り勇者は口を開いた。

「前に話したが俺はこの世界の人間じゃない。元々は異世界の日本って国からやって来た異世界人だ。それで、異世界でまぁ死んじゃってこの世界がやばいからちょっと救ってくれって言われて俺が女神様の加護を受けてこの世界に来たわけだ。ここまでいいかな?」

 三人は無言でゆっくりと頷いて見せる。

「それでだ。異世界に来る時に約束したんだ。魔王を倒せたら女神の眷属にしてくれるって。だからごめん。俺は国には帰れない!今までありがとな!!お前たち本当にいい仲間だったよ!!」

 堂々と胸を張ってそう高らかに勇者は宣言した。

「「「は?・・・ええぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 なにを言っているんだという顔をした後に理解したのか勇者の仲間達は驚きの顔を見せて大きく仰け反ったのだった。

「じゃぁ、戦士!良き友のためにこれからも剣を振るってくれ。僧侶!迷えるものをこれからもその優しさで導いてくれ。魔法使い!これからも弱き者のためにその力を使ってくれ!!お前の力は今後のこの世界に必要な力だ!!最後に!!お前たちは俺の最高の仲間だったよ!じゃあな!!」

 そう言い終わると三人の思考が追いつく前に勇者は三人の前から消えていった。本当に嬉しそうな顔をして女神と共に・・。
 部屋に残るのは戦士、魔法使い、僧侶、そして半分になった魔王。

「か、帰るか・・・」

 戦士がポツリと言った。

「そ、そうね。まだ、気が動転しているみたい。どこかでゆっくり休みたいわ。」
「そうですね。なんか夢を見ている感じです。」

 誰からでもなく三人はゆっくりと帰路に付くのであった。
 その後この世界がどうなったか、それはまた別のお話。
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