この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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正義の在処

以外な所にあった正義

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タバコ休憩が終わり、待機という静寂。

カチャッ

扉が開き、総務の方が入ってきた。

「さて、これで研修は終了で配属になります。皆さん慣れない座学お疲れさまでした。配属されるにあたって各々不安があるかと思いますが、ひとつひとつ仕事を覚えて一日も早く戦力となれるように頑張ってください。最後に私の名刺をお渡ししておきます。何か困った事が出来たら遠慮なく相談に来てください。総務課はこの会議室を出て右の突き当たりの部屋になります」

アフターケアまでしっかりしてる、これなら訊けるかな。

「では、はいぞく.....」

私「すいません、最後にお訊きしたい事があります。よろしいでしょうか」
言葉を遮り、意を決して挙手した。

「どうぞ、何ですか?」

私「御存知かとは思いますが、私は前の現場で.....」
前の現場での出来事を事細かく説明した。

少し考え込む総務の方、そして
「それは当工場では一切許しません!その現場の職長の名前は覚えてますか?Kさんのお話しか聞いていませんが、それが事実ならその職長の行為は役職関係なく当社の社員として審議の対象になります!社員、派遣関係なく働きやすい職場作りを率先して行うのが社員の務め、役職者の務めです!」

期待していた回答がここにあった、聞いてよかった。
少し報われた気がした。

私「それが聞けただけで充分です、ありがとうございました」

ところが、
「話を聞いてしまった以上、総務課として見逃す訳にはいきません!今件は充分審議会の対象案件になります!これは会社の規律に則って審議会を開催します。そうでなければここで働く皆さんに示しがつきませんし、ここで働く皆さんが安心して働く事が出来ません!」
表情を強張らせ、激しくそう回答された。

.....ここにあった。
工場の正義がここにあった。
一瞬、総務の方がテレビに出てくるようなヒーローに見えた。

同期三人は黙って総務の方と私のやり取りを聞いている、総務の方のあまりの表情の変貌ぶりに若干驚きながら。

「申し訳ないですが、他のお三方はここで待機していてください。Kさんは私と一緒に来てください」

J、F、Y「Kさん....」
私「大丈夫だよ、すぐ戻ってくるから」

会議室を後にし案内されたのは総務課。

「どうぞ、そこに座ってください」
また優しい表情に戻っていた。

「まずはこれに目を通してください」

一枚の紙を渡される。

[上申書(審議会用)]
という紙であった。
上部四分の一のスペースに記入の際の注意が書いてあって真ん中のスペースに[上申内容]というスペースがあり、下段に審議会の結果記入欄(コメント欄)と役職名がズラッと並び、押印スペースが設けられていた、その数九名分。

「そこの上申内容という欄にあなたが受けた内容を記入してください。出来るだけ細かくね。もしスペースが足りなかったら言ってください、別紙を用意しますから」

私「わかりました、少々お時間頂きます」
思い出しながら記入を始めた。
私「すいません、別紙をお願いします」
A4半分程度のスペースじゃ全然足らなかった。

二十分くらいで書き終わっただろうか、内容のチェックをお願いした。

「これはあなたが受けた内容で間違いありませんか?少しでも嘘がわかった場合は、即解雇も覚悟してもらわなきゃいけなくなりますが」

解雇を賭けた事に若干怯みもしたが、さっきの会議室での私への言葉を思いだし、完全決着を決意し
私「一片の嘘もありません!」
ツツツーッとひと筋涙がこぼれた。
やっと報われる、その気持ちからの涙だったのかもしれない。

「わかりました、ではここに名前を記入してください。」
名前を記入し終わると、
「この書類はこの時点で社内機密と同じ扱いとなり厳正に取り扱われます。各課の役職に回覧され、その後に審議会開催日程を取り決めます。原則はこの書類を総務課が受理してから二週間以内に開催します。開催日が決定したら上申者にもご連絡します、と共に出席をお願いします。意見陳述の場があると思いますから。現場の職長にはこちらから連絡しますのでご心配なく。それと会社の規律でこの書類は審議会の結果が決定した日から二年間、厳重に総務課で保管します、丸二年経過後に粉砕破棄、つまりシュレッダーで再現不可能な状態にして破棄します、いいですか?」

私「わかりました、よろしくお願いします」
「わかりました、ではこの上申書は正式に受理しました。開催日は後程ご連絡しますね。では戻りましょう」

総務の方に促され会議室へ戻る。
手に一枚の紙を持ってるのが気になるが。

J、F、Y「どうだったの?」
私「大丈夫だよ、総務課まで行ったけど広々してたよ」
軽く笑いながら答えた。

総務の方が
「皆さん、この紙に注目してください」
みんなに提示したのは、さっき書いた上申書の原紙だった。

「工場内で明らかな不正、不利益を受けたら、迷わずまずは総務課に相談に来てください。内容によってはこの上申書という紙を書いて頂き、審議会を開催して全てを公平にジャッジするというシステムも当工場にはあります。ですから皆さんは安心して仕事に従事してください」

J「今、Kさんはこれを書いていたんですか?」

「機密上それは答えられません。ごめんね」

その回答では書いてきたのがバレバレである。

私「その答え方じゃバレバレですよ。こうなった以上、私含めた五人だけの秘密という事にすればいいですよね」

「ま、それならいいでしょ、ただし!規律上口外は一切禁止です。これだけは守ってくださいね」

仕方ないなぁという表情の総務の方。

「さて、遅くなってすいません。配属先に案内しますね。配属先に着いたら必ず職長に明日の事を聞いてください、これ忘れずにお願いします」

時間は既に四時半ちょっと前。

結局、配属先は私とFとYが同じ課に配属でJが違う課に配属となった。

「じゃあ、Jさんの方から先に行きましょうか」
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