この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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やっとわかった真相

裸の写真 1

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次の日。

気乗りのしない妻を連れ、待ち合わせの駅に着いた。

時計の針は十二時五十分
指定した時刻まであと十分だ。

私「タバコ吸ってくる」
喫煙所のベンチに腰掛け、タバコに火を点ける。

タバコを一本吸い終わったところで時計を見ると十三時になった。

妻「来ないね」
私「今回に限り呼び出したのは俺だ。もう少し待とう」

妻が私の隣にちょこんと座る。

妻「ねぇ?」
私「なに?」
妻「パチンコ屋で仕事してた方が楽だったね」
私「そうだね。最近、仕事以外で忙しすぎだ」
妻「そうね、落ち着かないよね」
私「そろそろ何とかしないとね」
妻「でも、同期のみんな楽しい人ばかりだね」
私「現場でも変わらずあんな感じ、笑っちゃうだろ?」
妻「よく怪我しないね」
私「それだけはほんとに不思議に思うよ」
妻「気を付けてよ」
私「はいはい」

二本目のタバコに火を点ける。

気付いたら十三時半を回っていた。

私「遅いな」
妻「遅いね」

十三時半が十四時になり、十四時半になった。

妻「こんなに遅いってある?普通?」
私「だよな、いくらなんでも遅すぎだな。十五時まで待って来なかったら帰ろっか」
妻「うん」

これで何本目のタバコだろうか。

「....お待たせしてすいませんでした」

背後から声がした。
Mさんだった。

私「来ないかと思いましたよ。まぁ座ってください」
M「ここではちょっと...あそこの喫茶店じゃダメですか?」
私「いいですよ。じゃ行くか」
妻を連れ喫茶店に入る。
日曜日の昼下がりの田舎の喫茶店。
客は年配の男性が一人、コーヒーを飲みながらスポーツ新聞を広げていた。

わざわざ喫茶店で話すという事は内容が内容だからだろう、窓側の隅のテーブルに座る。

いらっしゃいませ
アルバイトの学生だろうか、セーラー服にお店のロゴがプリントされたエプロンをした店員がお冷やを運んできた。

「ご....御注文は?」
アルバイトを始めてまだ日が浅いのか、流暢さは感じられない。
でも初々しさが何となく懐かしく感じた。

私「アイスコーヒーください、あと灰皿お願いします」
妻「私はアイスティー」
M「私もアイスティーください」

「かしこまりました。少々お待ちください」

タバコに火を点ける。

私「話は飲み物来てからにしましょうか」


「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」

注文した飲み物が運ばれてきた。

私「さて、まずお聞きしますが」
M「はい」
私「ある時を境に、急に私に拘るのようになりましたね?それはなぜですか?」
M「それはリーダー職として責任を感じたからです、私が何とかしなきゃという一心です」
私「責任?挨拶もほとんど交わした事もなかったのにですか?」
M「いえ、自分の担当の工程のメンバーは把握してますから」
私「把握するだけで十分だと思ったんですか?」
M「今考えてみたら、その部分は本当にリーダーとしての意識、認識に欠けていたと反省しています」
私「わかりました」

妻はじっと黙って私と彼女のやりとりを聞いている。

私「それと、担当とタッグ組んで私に何を企んでるですか?」
M「いや、あの....」
急にMさんの顔が曇り始める。

私「特に昨日は端から見たら明らかに変ですよ。朝っぱら二人で一緒にいて、その夜にまた一緒にいるんだから、偶然かもしれないけど変ですよね」
M「.....」
私「あなたが担当とお付き合いしてるなら不自然さは感じませんけどね」
私の言葉のどれがトリガーになったかはわからないが、突然Mさんが泣き出した。

妻「また女泣かした」
私「違うって!話聞いてたろ!しかもまたって、何だよ!」


怒鳴ってはいないが、アルバイトの女学生が厨房の陰からこっちを凝視している。
一瞬私と目が合い、慌てて目線を外し忙しそうにコップを片付けている....ふりをしている。

お子さまにはまだ刺激が強いかな。


Mさんの嗚咽が小さくなり、ボソッと言った。
M「奥さん、私の話を聞いてくれませんか?嘘や隠し事なく全て話します」


は?妻?

私「私じゃなくて?」
M「はい、お願いします。私の将来がダメになる前に!」

意味がわからなかった。
将来?ダメになる?
その若さでリーダー職なんだから、よっぽどのヘマをしない限りは降格はないだろうし、契約社員と違って給料もわずかながら上がっていくだろう。
そう考えるとデメリットは見当たらない。

なのに、何がダメになるんだ?
泣く程の事なのか?

何なんだ?
全く訳がわからない。


M「どうかお願いします」
泣きながら妻との会話を懇願し続けるM

さすがに根負けしたのか
妻「五分だけなら話を聞きます」
私「俺は?」
M「席を外してくれませんか?」

はぁ?席を外せ?
何言ってるんだ?
と思ったが

M「お願いです。奥さんと二人だけで話をさせてください、お願いします」
妻「ここまで言ってるんだからさ」
私「わかりましたよ、でもさっき妻が言った通り五分だけだよ」
M「ありがとうございます」
テーブルにぶつかりそうな勢いで頭を下げるMさん

私「じゃ、五分経ったら電話くれ」
と一言告げて店の外に出た。


俺を締め出してまで妻と話がしたいって何なんだ?
タバコに火を点け、あれこれ頭の中でいろんな考えがぐるぐる回っている。
回ってはいるが、そもそもがわかってないのて結論は出そうにない。


携帯が鳴った。
[思ったより早いな]と思い、着信画面を見るとJだった。

私「もしもし、どうしたの?」
J「今忙しい?」
私「忙しくはないんだけど動けない、ごめん」
J「何だよそりゃ」
私「まだ話し合いしてるんだよ」
J「あ、なるほど。状況はどう?」
私「よくわからない、なぜか妻と話してる」
J「そうなんだ。じゃあ明日教えてね、じゃ!」

そういって電話が切れた。
あれ?Jの用事ってなんだったんだろう?

なんて考えてると、また携帯が鳴った。
今度は妻からだった。

妻「.....もしもし.....話終わったよ」
様子がへんだ。

私「お前、なんで泣いてるの?」

繋がったままの携帯を握り締め店内に戻る。
小走りにMの元へ行き、肩をぐいっと掴み

私「何しやがった!おい!」

すると妻が

「違う!違うの!」

と私を制止した。

私「じゃあ何なんだ!」

妻「取り敢えず座って!」

妻の隣に座る。
何とか落ち着こうとアイスコーヒーのお代わりを注文した。

私「とにかく!状況がわからなきゃ話にならない!」

すると妻がMに
「下半分は手で隠すから見せていい?それじゃないと話が始まらないから」

M「わかりました、下を隠すなら」

私「?」

妻がMさんの携帯をいじり始め、画面の下半分を隠しながら
「これ見て」
と携帯の画面を私に見せる。

 私「これって!」


......私に見せられた画面にはMさんの裸が写っていた。
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