この大きな空の下で [無知奮闘編]

K.A

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勝ち取ったと思った日常

凶刃

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駅に着いた。

扉が開いたと同時に電車を飛び出し、階段を駆け降りる。
だが改札を出ようとした時に駅員に制止される。


「駅の外で事件が発生しています!非常に危険ですので、しばらくの間改札を閉鎖します!」


駅員が必死にメガホンで叫んでいる。

「急いでるんだよ!早く出せ!」

駅員の制止にも構わず改札に殺到する乗客。

「改札は現在閉鎖中です!外は危険です!」

声が裏返るのも構わずに叫ぶ駅員。


その時


壁を形成する為に総動員していた駅員の隙間から○○の姿が見えた。

刃物らしき物を持って後ろ姿の男と対峙している。
後ろ姿の男は背中に女性を庇っている。
刃物らしき物で刺されたのか左腕からポタポタと血が垂れている、かなりの量だ。


ちょっと待て。

あの男と女の服装に見覚えがある。

Jだ!

じゃあ後ろに庇ってるのはMか?

それを見て私は無意識に駅員を突き飛ばし、Jの隣に並んだ。


M「Kさん?」

私「何回電話すれば出るんだよ、お前らは!」

J「ごめん、気づかなかったんだよ。まさかこんな事になるとは」

腕の傷からの出血のせいか、Jの顔色がかなり悪く、声も弱々しい。

J「実は今日は俺の方から誘ったんだよMさんを」

私「わりぃ.....その話後でいいや」

J「俺が誘ったんだから彼女は俺が守る!」


○○「うるせぇ!うるせぇ!ゴチャゴチャうるせぇぞ!このクソガキ共がぁ!」

完全に我を失ってる。
コイツ、今なら簡単に人を殺しそうだ。


私「何が目的なんだよ」

○○「そこの女こっちに寄越せ!俺が地獄の底に叩き落としてやる!」

その時...

I「待て!○○!お前は完全に包囲されている!大人しく観念しろ!」

警察が周囲を囲んでいる。
若干登場が遅いのは否めないが。

○○「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!このゴミ共が!お前らまとめて地獄に堕ちろや!」

I「無駄な抵抗は止めろ!」

○○「うるせぇって言ってるだろうがぁ!」

と叫ぶと○○は刃物らしき物を振り回し、私とJに向かってきた。

その瞬間、立ってるだけで精一杯だったJがガクッと膝をついた。

一瞬Jに気をとられ姿勢を崩す○○

その瞬間を見逃さず刃物らしき物を持っていた手を目掛けて蹴りを放つ。


バッキーン!


弧を描き飛んでいく刃物、慌てて探そうとする○○に素早く駆け寄る。

そして

私「地獄はお前だけで行け」

怯えた目の○○の顎に掌打を打ち込んだ。

これはプロレスから学んだ知識。
拳で殴ると手首を痛める可能性があるからだ。

私の掌打をモロに食らい、一回転二回転してゴロゴロと転がった○○

「確保しろー!」

I刑事の怒鳴り声を合図に警官が○○に群がる。

「Jくんっ!」

MさんがJに駆け寄る。
さっきは注視してなかったが、思ったより出血が酷い。

携帯を取りだし救急車を要請する。

M「Jくん!Jくん!」
必死に叫ぶMさん。

J「Mさん大丈夫?....ケガしてない?....痛いところない?」

私「J!彼女は大丈夫だから少し黙ってろ!」

J「.....ほんとに?」

私「あぁ、お前が彼女を守ったんだ。彼女は無傷だ!心配するな」

J「あぁ....よかっ....」
気を失うJ


その時に救急車が到着する。

Jをストレッチャーに乗せ、救急車へ運ぶ。

「どなたか身内の方いませんか?」
救急隊員が叫ぶ。

私「俺が付き添います!職場の同僚です。Mさん!一緒に来て!」

M「......」
放心状態のMさん

私「いいから来い!」

半ば無理矢理に救急車に彼女を乗せ、私も乗り込む。

けたたましい赤色灯と共にJは病院に運ばれ緊急手術となった。

椅子に座り込んで両手の震えが止まらないMさん。
看護師が忙しそうに通りすぎるのを捕まえ、状況を聞く。

看護師「命には別状はないと聞いてます、ただ傷の状態が悪くて手術が難航してます」

私「命に別状はないってさ、よかったな」

M「Jくん.....」
祈る様に指を組むMさん。


一時間も経っただろうか、手術中のランプが消えた。

手術室から運ばれるJ

心配そうに寄り添うMさん。

私「彼、地元じゃないんですが、家族に連絡するとかしなくて大丈夫ですか?」

看護師「患者さんが目覚めてからで問題ないかと思います。命には別状ないので」

私「わかりました、ありがとうございました」


M「Jくん.....」

私「会社に連絡してくる」



「えぇ、では明日本人から連絡させます。はい....はい....わかりました、よろしくお願いします」



電話を終え病室に戻るとJは麻酔から覚めていた。


私「どうだ気分は?」

J「なんか気持ち悪い、ムカムカする」

私「まだ麻酔が残ってるんだよ、じきに落ち着く」

J「....Mさんいる?」

M「うん、Jくん、ここにいるよ」

J「ごめんね、こんな怖い目に合わせちゃって....」

M「ううん、元はと言えば自分が蒔いた種だから。私こそこんな大怪我させてしまって....」

私「名誉の勲章だな」

M「名誉の勲章?」

私「あぁ、今回の傷は体張って彼女を守った男の証だ」

J「.....俺だってやる時はやるんだよ」

私「ま、それだけの口が利ければもう大丈夫だな」

M「Jくん....」

私「じゃあ俺帰るわ。後は二人でよろしくやってくれ」

J「K」

私「ん?」

J「サンキュ」

私「ばーか!じゃあな!おやすみ」

M「助けてくれてほんとにありがとう」

私「それはJに言いなよ、じゃあおやすみ」

M「おやすみなさい」




.....病院を後にする。
安全靴を普段から履いていたので刃物に向かって蹴りを出せたけど普通の靴だったらやばかったな。

そんな事を考えながら、ふと大事な事に気付く。






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