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第一章 悪役令嬢は動き出す

18.悪役令嬢は裏技を理解する

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「本来、防御は魔法もしくは魔術を使ったほうが効果が高いのはお嬢様はご理解されていると思いますが、防御の魔道具は超高速術式の名手であった魔導師ハイデゼルドの超高速術式が使用されている為に展開が速いのが特徴です」
「確かに瞬時に展開されたみたいだけど、魔法としての防御魔法の方が速いよね?」
「はい、しかし、使用魔力量が全く違います。特に魔力量の少ない貴族などはおいそれと魔法を使う事は出来ません」
「やっぱり魔力量の問題が大きいのね」
「ですね。で、ここからが大事なところです。盾を張っている状態で魔法や魔術は防御対象となります」

 それは当たり前だよね。問題は魔法や魔術全てに反応するらしいから、強化などと相性が悪いハズで防御魔法であれば、その問題も関係ないんだけどね。

「魔法や魔術は弾きますが、魔力自体は弾く事はありません」
「なるほどね。だから魔力同調なのね」
「お気付きになりましたか?」
「考えたら、どんな魔道具も無効化出来ちゃうんじゃない?」
「相当量の魔力量が必要になる場合があるので効率的ではないと思いますよ」

 魔力同調というのは魔法や魔術……特に魔道具を使用する時に基礎として学ぶのだけど、魔力というのは個人固有のモノで他人の魔法や魔術、魔力に干渉する時に感じる反発を魔力の反作用という。なんだか弾かれるような抵抗感がある。

 魔力を同調させる事で自身の魔力で扱う事が出来るようにする技術だ。そして、もう一つ特性があって、それは同調した魔力を使って発動した魔法や魔術を乗取る事だ。

「術式として防御術式は複雑さがあまりないのでコツさえ掴めば一瞬で上書きする事が出来ます」
「上書き?」
「はい、乗っ取る方法ですと、それを利用してこちらの魔力を無駄に消費させられる場合がありますので、術式を乗取って効果の無い術式に変えます」

 効果の無い術式に上書きする――と、いうことは魔術では無く魔法かな。

「ではお嬢様。さっそくやってみましょう。はじめはゆっくりでいいので、この展開している防御魔術に向かって魔力で満たしていきましょう。一気に強い魔力量を叩き込んだら魔道具が壊れるので気を付けて下さい」

 実践して覚えろってことね。まずは魔力を放出して防御魔術に魔力を満たしていく……うーん、出力調整が難しい。無理にやったら確実に破壊しちゃいそうだ。

「そのまま、別のイメージに変える感じで魔法へと昇華させて下さい」
「なるほど……こうね!」

 次の瞬間、防御魔術で展開されていた盾がサラサラと崩れていく。

「塩――ですか?」
「そうよ。魔力量に応じて塩を出す効果にしてみたわ。一応、確認の為に使ってみて貰える? 魔法陣を書き写すから」
「そちらが目的ですか……」
「当然!」

 魔石に魔法を刻印した時、魔術的な魔法陣として刻印される。新しいイメージで書き換えた防御魔術は今、塩を生み出す魔術へと変換された。当然、魔力を込めれば刻印された魔法陣が浮かぶ……ハズなのだ。

「ふんふふーん♪ これで塩使い放題よ」
「お嬢様が楽しそうで何よりです。そういえば、これはまだ奥様から広めるなと言われている技術ですが……」
「お母様が?」
「はい、先ほどの魔力同調からの上書きの応用技術になります」

 ナニそれ、超興味深い。でも、応用技術って言ったよね。
 と、いうことは相手の魔法や魔術に対して何かする……ってことなのかな?

「お嬢様が解明した術式分解を利用して――」
「ああっ、そういうことぉ! 魔力同調を利用して術式の一部を上書きして術式を発動させないってことね。魔法の場合も同様の理論で無効化するってことね」
「さすがお嬢様です。しかも、この方法は防御しずらいのが特徴となります」

 確かに魔力の干渉なんて微量であれば気にも留めない人も多いくらいだけど――欠点とすれば、近くにいないと魔力を飛ばすのがかなり負担になるし、タイムロスも洒落にならないから、持ってるほど実用的ではないかもしれない。でも、まだこれから色々と研究出来そうな内容よね。

「そういえば、アンネマリー様とのお話合いは如何されますか?」
「その件なんだけど、『二人きり』は難しいけど、私の部屋でお茶会であればある程度のプライバシーは確保出来るんじゃない? 向こうが納得してくれるかは別の話だけどね」
「それはアンネマリー様もご理解されているのではないでしょうか?」
「だったら、いいんだけどね……」

 ま、エルーサから色々とヒントを貰ったし、なんとかなるでしょ。と、私は思いつつ彼女の手紙へ返事をしたためるのであった。
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