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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

134.悪役令嬢は魔導洞窟で徘徊者を討伐する

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 私とクーベルト辺境伯は何度か徘徊者を適当にあしらいながら『アンダンテール大洞窟』下層38階層まで降りて来て、時間を掛けて38階層を調べて歩いた。

「何度か来ているが、やはりここより下へ向かう道は無いのだ」
魔導洞窟核ダンジョンコアも見当たらない――と、いうことは此処が最下層では無い。と、いうことですね」
「そうだ。どこかに隠し部屋があるのなら……アレだが、普通魔導洞窟ダンジョンの最下層というのは強力な魔物が守護者として存在する。そして、魔導洞窟核ダンジョンコアを破壊すれば、魔導洞窟ダンジョンは崩壊する」
「崩壊ですか……最下層でもし魔導洞窟核ダンジョンコアを破壊した場合、どうやって崩壊現象から生き残るのでしょう?」

 私がそう訊くとクーベルト辺境伯は苦い顔をして、いつもの痺れるような渋い声をもっと低くして言った。

「無理だ」

 少し予想はしていたのだけど、やはり無理なのですね。歴史書などからも魔導洞窟ダンジョンの記述や魔導洞窟核ダンジョンコアの情報はあった。当然、破壊方法もあったので知ってはいた。けれども、そうすれば破壊出来るという事が伝わっているのであれば、生き残った人がいるのだと思っていた。

「やはり、崩れ去る魔導洞窟ダンジョンと共に――」
「ああ、だからこそ、魔導洞窟ダンジョンは危険なのだ。しかし、魔導洞窟ダンジョンを放置しておくのも危険で、定期的に魔物を狩って魔導洞窟ダンジョンの力を削がねばならぬ。昔、英雄と呼ばれる者を贄とした時代もあったらしいが、現在ではそのようなバカな事をするよりも、冒険者や騎士団を使って定期的に狩りをして管理した方が良い」
「そうですね。でも、魔導洞窟ダンジョンが増え続けると困りますよね」

 私がそう言うとクーベルト辺境伯は小さく微笑んだ。

「記録の中では新しい魔導洞窟ダンジョンが見つかったのは千年以上前らしいからな。そこまで頻繁に増えるモノでは無いと思う」
「そうなのですね……あら? あそこの岩――なんでしょう?」

 妙な岩を私は発見し、指を差す。

 魔力は感じないけれど、妙な気配がある――と、いうか違和感がある。クーベルト辺境伯もそれを見て不思議そうな表情をする。

「確かに妙だ――何も感じないというのはおかしいな、確かに」
「はい、普通は魔導洞窟ダンジョン内であれば微弱に魔力反応があるのですが、全く感じないのはおかしいです」
「試してみるか……」

 そう言って彼は魔銃を構えて、超々高速魔術式で光の矢を放つ――

 衝撃波と共に私の魔力探知にしっかりと魔力の動きが検知され、私はその魔力を別方向へ掻き消すけれど、何かに弾かれるように閣下の放った光の矢が撃ち落される。

「……もしかして、アレが本体か?」
「分かりません。見た感じは徘徊者のように見えますけど」

 現れたのは蠢く触手の集合体であり、ただ徘徊者と少し違うのはその大きさだった。

「デカいな。徘徊者より倍くらいあるか?」
「いえ、周囲からどんどんと触手のような黒いモノが吸い込まれているようにも見えます」
「確かに――魔力の流れが妙なのは変わらないが、今までより遥かに濃くハッキリと分かる!」

 と、言った瞬間にクーベルト辺境伯は動く。魔銃で光の矢を連続で放ちながら魔物へ向かって行く、私はそれを確認しながら魔銃で束縛の鎖を撃ち込み相手の動きを制限していく――が、触手はばらける様に動きながら、ムチを撓らせるように触手がこちらに向かってくる。

「させん!」

 クーベルト閣下は素早く剣気を飛ばし触手を撃ち落し、さらに魔銃で魔法を撃ち込む。それに反応するように触手が複数彼に向かって行くのを私は魔銃で撃ち落し、素早く武器を変更して、私も前に突進する。

「後ろより閣下の側の方が安全のようです!」
「まったく……お転婆な!」

 そう言いながらも、私に合わせるように彼は触手を斬り刻みながら進む。当然、私も魔導剣を振り回しながら触手を斬り刻み、素早く魔銃に切り替え魔法を撃ち込む。

 魔物は攻撃を喰らった反動で大きく仰け反るが、私は魔力の動きを感じて防御魔法を展開する。次の瞬間、黒い触手が横殴りに飛んでくるが防御結界に弾かれて砕け散る。が、再びどこからか触手が増え、元通りになっていく。まぁ、なんとも気持ち悪い光景である。

「全く、美しさがありませんね」
「それは激しく同意するっ!」

 と、閣下は言って私が作った間に合わせるように魔力を溜めた魔剣で一気に薙ぎ払う。一瞬、時間が止まったように魔物の動きが止まり、ずるりとズレて弾け飛ぶ。私は再び防御魔法を展開して自分達に降りかかるのを防御する。

「ふむ……これでもダメか」
「全く面倒ですね――ですが、狙いは見えてきました!」

 私は武器を魔銃に切り替えて術式を素早く込めて、射出する。

 展開された魔法が狙い通りに敵に当たるけれど、敵の撃破には至らない――けれども、それで問題無い。ダメージは低いけど、マーキングするのが目的だからね!

「魔力探知で敵の中にある私の魔力がある場所が敵の本体です!」
「なるほど、逃げようとしてるアイツか!」

 と、彼は魔銃を連射し、小さな触手の集合体に向けて光の矢を大量に撃ち込む。当然、奴はそれをさせまいと大量の触手を私達に向けて放ってくるが、私は防御結界と多重魔術光の網を展開して触手をコマ切れにする。

「なんとも派手だね――ったく、なんともしぶとい!」

 まだ倒せていなかったようで、彼は降り注ぐ触手だった汚物の中に突進して私の魔力を帯びた触手に魔剣を突き立てた。

 次の瞬間、触手達がすべて弾け飛びどす黒い染みを地面に大量発生させた。いやー、ばっちいです。と、いうか閣下……べっちょりです。

「悪いがあからさまに汚物を見るような目はやめて貰いたいのだが」
「あ、し、失礼しましたわ」

 私ってば、閣下をそんな目で見てたなんて、悪い子だわ。でも、今は嬉しくても絶対に抱き付いたりはしたくないわ。

 とりあえず、浄化魔法を掛けておきましょう。あれ? 何だか彼がポカンとしちゃったけど?

「リア嬢、一体何を……」
「ただの浄化魔法ですけど?」

 彼は不思議そうな顔をしていたので私自身にも浄化の魔法を掛ける。因みにイメージは汚い汚れを落とすイメージだ。この魔法は明確なイメージが無いと余分なモノまで浄化してしまうので結構上手く使えるようになるまで訓練が必要なんだけど、公爵家のメイド達って大体使えるから、もっと一般的な魔法かと思ってたんだけど?

「浄化魔法とは不死属性の魔物に有効なあの浄化魔法で間違いないかい?」

 あー、そんな使い方があるのね。んー、で、考えたら先程まで戦っていた徘徊者にも有効だったのでは? あ、でも闇属性? んー、検証したいわね。

「そういう使い方があるとは思っていませんでした。我が家では多くのメイドや執事達も普通に使って掃除したりしますから」
「そうなのか?」
「ええ、そうですよ?」

 そんなに不思議そうな顔をするなんて、なんだか分からないわ。もしかして、我が家が変わっている? うーん、それはないと思うのだけど。
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