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神の使いに殺された司祭
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俺たちの事を敵と言い、レーザー兄妹とも知りつつ、たった一人で余裕で対峙する男は不敵な笑みを浮かべている。その態度から言って、こいつはもしかすると、とんでもなく強いのかも知れない。あかねを守るためにも、俺としてはリスクを冒すわけにはいかない。としたら、先手必勝だ。
「みんな。あいつは俺がこの右手で……」
そこまで言った時、高垣が口を挟んできた。
「待つんだ。颯太くん」
俺が言おうとした言葉。「あいつは俺がこの右手で倒す」は俺たちが新しく作った合言葉だった。あかねソードの光を拡散させ、敵に目つぶしをかける作戦。なずなが人質になった時、みんなに目を瞑るよう言ったが、そんな事言ってなんかいられない。そのために作った合図だ。それを止めたと言う事は、俺に先制攻撃をかけるなと言う事だ。
「しかし」
「この男を殺してはならない」
高垣としては、この男から教会の情報を聞きたいのだろうが、自分たちが殺されてしまえば、元も子もない。
「はっはっは。この私を殺すだと。
これは笑えますなぁ。
私が教会から、ここを任されたコロニー司祭だと知っての事ですかな」
目の前で余裕の男こそが、このコロニーを任された司祭らしい。
この司祭、何か特別な能力を持ているのか?
全神経を司祭の一挙手一投足に集中させた。
「出て来てくれますかな?」
突然、司祭はそう言った。なずながいたコロニーの司祭と同じで、自分で戦う訳じゃなさそうだ。しかし、出て来るのはきっと神の使い。いかにも、教会の司祭が召喚する者って感じだ。
どこから出て来るのか?
辺りに目を配らせていると、司祭が出て来たドアから20代半ばくらいの一人の男が出て来た。
「あれ? 田辺さんは?」
「急用ができたとかで、本部に戻って行きました」
「そうですか。
まあ、いいでしょう。
あいつらをやっちゃってください」
どうやら手違いで一人少ないらしいが、この若い男は神の使いに違いはないはず。
油断できない。
「承知」
そう言って、前に進みだして来た男の動きに反応して、大久保と高垣が俺の前に出て来てかと思うと、その男に向かってトリガーを引いた。
響き渡る銃撃音。
これで男はハチの巣になるのか?
男に目を向けた俺の視界には男の姿はなく、大きな白い布のようなものが映っていた。
なんだ、これは?
その白い布のようなものは、銃弾を受けては波のように揺れている。よく見ると、銃弾はその布のようなものを貫通できず、布のようなものに捕えられていて、銃弾が白い布にごまのような点を増やし続けている。
どうやら、これがあの男の特別な能力らしい。銃弾がその謎の布のようなものを貫通できない以上、銃撃は無駄な行為だと気づいた大久保と高垣が銃撃を止めた。
こいつを相手にするには、やはりあかねソードか。そんな思いで、あかねソードを握りしめた時、あかねの明るい声が俺の耳に届いた。
「お兄ちゃん、終わったよ」
背後にいたはずなのに、その声は背後から聞こえてきたものではなかった。
「えっ? あかね、どこ?」
そんな俺の問いかけに、目の前に張られていた布のようなものが、あかねソードで向こう側からばっさりと切断され、隠されていたその向こうの光景が目に入った。
地面に横たわり、体を二つに切断された男。その指の先からは、糸のような白い物が放たれていて、銃撃を防いでいた布のようなものにつながっている。どうやらこいつが噂に聞く蜘蛛の糸を出す神の使いらしい。その糸はイメージ的に人を捕らえるものかと思っていたが、一瞬の内に布のように張り巡らせる事で、銃弾を防ぐ事に使えるらしい。
あかねが切り裂いた蜘蛛の糸でできた防弾膜の向こうに目を戻すと、あかねソードの切っ先を司祭に向けていた。頼りにしていた蜘蛛の糸を出す神の使いを斬り殺され、自分に向けられたあかねソードの切っ先に、司祭は今にも膝を屈しそうなくらいの怯えた表情で、大きく震えていた。
いや、怯えさせている理由の一つに、あかねの冷たい笑顔もあるかも知れない。抵抗したら、すぐに殺っちゃうよ的なあかねの笑み。
これは小悪魔の笑みじゃない。悪だ、悪の笑みだ。
こんなかわいい女の子のそんなものが自分に向けられたら、ぞくぞくしてしまう。って、それは困るから。それに妹が悪になるのはよくない。
「こら、あかね!」
とりあえずきつい口調で、あかねをたしなめてみた俺に、あかねは天使のような笑みを返して来た。かわいいじゃないか。その表情に思わず俺の頬も緩み、普通の口調に戻ってあかねにたずねた。
「いつの間に、そっちに行ったんだ?」
「みんなが銃撃している隙を突いて」
つまり単独行動で、敵を攻撃したと言う事だ。かわいい妹にそんな危険な事をさせる訳にはいかない。もう一度、きつめの口調で念を押しおくことにした。
「無茶するなって、言っただろう」
「ごめんね、お兄ちゃん」
ちょっとしょんぼり気味の表情で、小さい声でそう言われたら、叱れやしない。少しだけ厳しい顔つきを作って、兄貴らしくもう一度注意しておく。
「これからはだめだぞ」
許してくれたことの嬉しさを目いっぱい顔に浮かべたあかねの笑顔。あかねの表情はころころ変わる。どの表情も、俺的には好きだ。
「我々の質問に答えてもらおうか」
俺とあかねの時間を無視して、高垣が司祭に言った。
「田辺と言うのが向かったと言う教会の本部はどこにある?」
司祭はぷいっと顔を背けた。
「ここを襲った神の使い達はどこに行った?
まだここにいるのか?」
これにも答える気は無いらしく、黙り込んだままだ。
「司祭と言うのは、神の使いの力を使えないのか?」
俺としてはこの質問の方が興味ある。
目の前の司祭もそうだが、なずなのいたコロニーの司祭もそうだった。
「我々は神の使いの上に立つ者。我らが力を使える必要はない。
見たであろう。神の力を。
最早、神の力に抗う事などできぬわ」
「何が神の力だ。
ただの科学技術ではないか!」
高垣の言葉に俺は驚いた。記憶を読んだり、書き換えたりするのは科学技術だったが、この蜘蛛の糸も科学技術だったのか?
話の経緯から言って、この力が何なのか高垣は知っているらしい。崩壊を招いたこの事件に軍が関与したと言う噂があるのだが、もしかするとそれは本当なのかも知れない。そんな思いで、高垣を見つめる。
「これは神の力だと聞いてるけど?」
司祭がきょとんとした顔つきで言った。
「お前、本当に知らんのか?」
疑い全開の口調で高垣がそう言った時、あかねの声がした。
「大久保さん、ちょっと貸してくんないかな?」
そう言って、虚を突いてほぼ無理やり、大久保の手から自動小銃を奪い取った。
「な、な、何をするつもりだ」
「すっ呆けて、答えないなら、こんな口いらないんじゃないかな?
この男の口に銃口突っ込んで吹き飛ばしちゃおうかなって」
あかねに銃口を向けられた司祭は、今にもちびりそうなくらい怯えている。一方のあかねの顔には冷たい笑みが浮かんでいる。
悪だ。それも悪の最上級 極悪だ。妹が極悪の道に入ってしまった。でも、こんなかわいい子が冷たい笑みで脅してくるなんて、ぞくぞくしてしまう。って、俺、変態かよ!!
「いや、それ変だろ」
俺がそう言い終えた時、一発の銃声が轟き、それに引き続いてあかねの自動小銃が火を噴いた。
側頭部を撃ち抜かれ、倒れる司祭。
離れた植栽の枝葉を吹き飛ばすあかねの銃撃。
吹き飛ばされる枝葉の中には、真っ赤な鮮血と肉片が混じっていた。
「何が起きたんだ?」
あかねの銃撃が終わると、あかねにたずねた。
「あそこに、保護色の神の使いがいたんだよね。
しかも、銃を構えた」
「それに気づいていたのか?」
「だから、小銃借りたの。
だって、あかねソードで攻撃するには距離がありすぎたんだもん」
「なるほど。で、司祭にどうして銃弾が当たったんだ? 俺たちではなく」
「狙ったんだろ」
大久保が言った。
「なんで? 味方だろ」
「保護色の神の使いは情報収集と共に、司祭たちの監視が任務なんじゃないかな。
司祭たちが失敗したり、裏切ろうとしたら殺すと言う」
記憶を読み出したり、書き換えたりする装置を操っていた司祭も神の使いに殺されている事を考えれば、ちょっと納得だ。
が、俺は納得していない事がある。
「高垣さん。
神の使いは科学技術だと言ったよね。
それはどう言う事なんだ?」
俺の問いに、高垣は渋い顔をしている。
「やっぱり、この事件に軍が関与していたんだろ」
「仕方ない。水野さんのご子息である君たちには話そう」
そう言って、高垣はこの事件の経緯を話し始めた。
「みんな。あいつは俺がこの右手で……」
そこまで言った時、高垣が口を挟んできた。
「待つんだ。颯太くん」
俺が言おうとした言葉。「あいつは俺がこの右手で倒す」は俺たちが新しく作った合言葉だった。あかねソードの光を拡散させ、敵に目つぶしをかける作戦。なずなが人質になった時、みんなに目を瞑るよう言ったが、そんな事言ってなんかいられない。そのために作った合図だ。それを止めたと言う事は、俺に先制攻撃をかけるなと言う事だ。
「しかし」
「この男を殺してはならない」
高垣としては、この男から教会の情報を聞きたいのだろうが、自分たちが殺されてしまえば、元も子もない。
「はっはっは。この私を殺すだと。
これは笑えますなぁ。
私が教会から、ここを任されたコロニー司祭だと知っての事ですかな」
目の前で余裕の男こそが、このコロニーを任された司祭らしい。
この司祭、何か特別な能力を持ているのか?
全神経を司祭の一挙手一投足に集中させた。
「出て来てくれますかな?」
突然、司祭はそう言った。なずながいたコロニーの司祭と同じで、自分で戦う訳じゃなさそうだ。しかし、出て来るのはきっと神の使い。いかにも、教会の司祭が召喚する者って感じだ。
どこから出て来るのか?
辺りに目を配らせていると、司祭が出て来たドアから20代半ばくらいの一人の男が出て来た。
「あれ? 田辺さんは?」
「急用ができたとかで、本部に戻って行きました」
「そうですか。
まあ、いいでしょう。
あいつらをやっちゃってください」
どうやら手違いで一人少ないらしいが、この若い男は神の使いに違いはないはず。
油断できない。
「承知」
そう言って、前に進みだして来た男の動きに反応して、大久保と高垣が俺の前に出て来てかと思うと、その男に向かってトリガーを引いた。
響き渡る銃撃音。
これで男はハチの巣になるのか?
男に目を向けた俺の視界には男の姿はなく、大きな白い布のようなものが映っていた。
なんだ、これは?
その白い布のようなものは、銃弾を受けては波のように揺れている。よく見ると、銃弾はその布のようなものを貫通できず、布のようなものに捕えられていて、銃弾が白い布にごまのような点を増やし続けている。
どうやら、これがあの男の特別な能力らしい。銃弾がその謎の布のようなものを貫通できない以上、銃撃は無駄な行為だと気づいた大久保と高垣が銃撃を止めた。
こいつを相手にするには、やはりあかねソードか。そんな思いで、あかねソードを握りしめた時、あかねの明るい声が俺の耳に届いた。
「お兄ちゃん、終わったよ」
背後にいたはずなのに、その声は背後から聞こえてきたものではなかった。
「えっ? あかね、どこ?」
そんな俺の問いかけに、目の前に張られていた布のようなものが、あかねソードで向こう側からばっさりと切断され、隠されていたその向こうの光景が目に入った。
地面に横たわり、体を二つに切断された男。その指の先からは、糸のような白い物が放たれていて、銃撃を防いでいた布のようなものにつながっている。どうやらこいつが噂に聞く蜘蛛の糸を出す神の使いらしい。その糸はイメージ的に人を捕らえるものかと思っていたが、一瞬の内に布のように張り巡らせる事で、銃弾を防ぐ事に使えるらしい。
あかねが切り裂いた蜘蛛の糸でできた防弾膜の向こうに目を戻すと、あかねソードの切っ先を司祭に向けていた。頼りにしていた蜘蛛の糸を出す神の使いを斬り殺され、自分に向けられたあかねソードの切っ先に、司祭は今にも膝を屈しそうなくらいの怯えた表情で、大きく震えていた。
いや、怯えさせている理由の一つに、あかねの冷たい笑顔もあるかも知れない。抵抗したら、すぐに殺っちゃうよ的なあかねの笑み。
これは小悪魔の笑みじゃない。悪だ、悪の笑みだ。
こんなかわいい女の子のそんなものが自分に向けられたら、ぞくぞくしてしまう。って、それは困るから。それに妹が悪になるのはよくない。
「こら、あかね!」
とりあえずきつい口調で、あかねをたしなめてみた俺に、あかねは天使のような笑みを返して来た。かわいいじゃないか。その表情に思わず俺の頬も緩み、普通の口調に戻ってあかねにたずねた。
「いつの間に、そっちに行ったんだ?」
「みんなが銃撃している隙を突いて」
つまり単独行動で、敵を攻撃したと言う事だ。かわいい妹にそんな危険な事をさせる訳にはいかない。もう一度、きつめの口調で念を押しおくことにした。
「無茶するなって、言っただろう」
「ごめんね、お兄ちゃん」
ちょっとしょんぼり気味の表情で、小さい声でそう言われたら、叱れやしない。少しだけ厳しい顔つきを作って、兄貴らしくもう一度注意しておく。
「これからはだめだぞ」
許してくれたことの嬉しさを目いっぱい顔に浮かべたあかねの笑顔。あかねの表情はころころ変わる。どの表情も、俺的には好きだ。
「我々の質問に答えてもらおうか」
俺とあかねの時間を無視して、高垣が司祭に言った。
「田辺と言うのが向かったと言う教会の本部はどこにある?」
司祭はぷいっと顔を背けた。
「ここを襲った神の使い達はどこに行った?
まだここにいるのか?」
これにも答える気は無いらしく、黙り込んだままだ。
「司祭と言うのは、神の使いの力を使えないのか?」
俺としてはこの質問の方が興味ある。
目の前の司祭もそうだが、なずなのいたコロニーの司祭もそうだった。
「我々は神の使いの上に立つ者。我らが力を使える必要はない。
見たであろう。神の力を。
最早、神の力に抗う事などできぬわ」
「何が神の力だ。
ただの科学技術ではないか!」
高垣の言葉に俺は驚いた。記憶を読んだり、書き換えたりするのは科学技術だったが、この蜘蛛の糸も科学技術だったのか?
話の経緯から言って、この力が何なのか高垣は知っているらしい。崩壊を招いたこの事件に軍が関与したと言う噂があるのだが、もしかするとそれは本当なのかも知れない。そんな思いで、高垣を見つめる。
「これは神の力だと聞いてるけど?」
司祭がきょとんとした顔つきで言った。
「お前、本当に知らんのか?」
疑い全開の口調で高垣がそう言った時、あかねの声がした。
「大久保さん、ちょっと貸してくんないかな?」
そう言って、虚を突いてほぼ無理やり、大久保の手から自動小銃を奪い取った。
「な、な、何をするつもりだ」
「すっ呆けて、答えないなら、こんな口いらないんじゃないかな?
この男の口に銃口突っ込んで吹き飛ばしちゃおうかなって」
あかねに銃口を向けられた司祭は、今にもちびりそうなくらい怯えている。一方のあかねの顔には冷たい笑みが浮かんでいる。
悪だ。それも悪の最上級 極悪だ。妹が極悪の道に入ってしまった。でも、こんなかわいい子が冷たい笑みで脅してくるなんて、ぞくぞくしてしまう。って、俺、変態かよ!!
「いや、それ変だろ」
俺がそう言い終えた時、一発の銃声が轟き、それに引き続いてあかねの自動小銃が火を噴いた。
側頭部を撃ち抜かれ、倒れる司祭。
離れた植栽の枝葉を吹き飛ばすあかねの銃撃。
吹き飛ばされる枝葉の中には、真っ赤な鮮血と肉片が混じっていた。
「何が起きたんだ?」
あかねの銃撃が終わると、あかねにたずねた。
「あそこに、保護色の神の使いがいたんだよね。
しかも、銃を構えた」
「それに気づいていたのか?」
「だから、小銃借りたの。
だって、あかねソードで攻撃するには距離がありすぎたんだもん」
「なるほど。で、司祭にどうして銃弾が当たったんだ? 俺たちではなく」
「狙ったんだろ」
大久保が言った。
「なんで? 味方だろ」
「保護色の神の使いは情報収集と共に、司祭たちの監視が任務なんじゃないかな。
司祭たちが失敗したり、裏切ろうとしたら殺すと言う」
記憶を読み出したり、書き換えたりする装置を操っていた司祭も神の使いに殺されている事を考えれば、ちょっと納得だ。
が、俺は納得していない事がある。
「高垣さん。
神の使いは科学技術だと言ったよね。
それはどう言う事なんだ?」
俺の問いに、高垣は渋い顔をしている。
「やっぱり、この事件に軍が関与していたんだろ」
「仕方ない。水野さんのご子息である君たちには話そう」
そう言って、高垣はこの事件の経緯を話し始めた。
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