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教会あるところに灯りあり

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 俺たちが向かう教祖が今いるそのコロニーは、なずなの話ではまだ完全に教会の支配下にある訳じゃないらしい。そこを教会の支配下とするため、教祖自身が布教に来ていると言うのだ。
 鬼潰会のコロニーで銃器を仕入れた高垣たちと共に歩くコロニーの外の世界は、当然、あの生き物たちのテリトリーである。お約束のように、俺たちを見かけると、涎を垂らしながら襲ってくる者もいる。銃器を仕入れたんだから、戦力になれよ! と言いたいところだが、高垣は全く戦闘に加わろうとはしない。全くもって、考えている事が読みやすい。
 その銃器を向ける相手は教祖。
 そう態度が物語っている。
 俺的には、教祖が俺の知っている人でなければ、高垣がその教祖をどうしようと関係はない。いや、正確には興味はある。神の力を吹聴する教会の力が試されることになるのだから。

 高垣は戦力外と諦め、俺たちに向かってくるあの生き物たちをあかねソードで、ばっさりと切り捨てながら歩んで行くその先に人の一団を発見した。
 時々、コロニーの間を移動する人々を見かける事はあるが、この一団は移動もせず、固まっている。徐々に近づいていくと、それは銃器で武装した者たちである事に気づいた。

 何をしてるんだ?
 敵か?
 そんな思いで、あかねソードの柄をポケットの中で握りしめながら、近づいていく。向こうも、近づく俺たちに気づいているようだが、銃口を向けたりはしないところから言って、とりあえず敵意は持ってはいないらしい。
 かなり近づくと、地面に開いた穴、正確に言えばマンホールのふたを取り除いた地下に通じる穴を、銃器を持った男たちがぐるりと取り囲んでいる警護している事が分かった。おそらく、銃口を向ける相手はあの生き物たち。そんな感じだ。
 一人の男が少し警戒感ある視線を俺たちに向けて来たので、横にいるあかねに目配せをした。

「何してるんですかぁ?」

 にこりとした笑顔であかねが言った。俺のような男より女の子の方が相手も警戒しないと言うものだ。
 しかも、はっきり言って、あかねはかわいい。そんな女の子がにこやかな笑顔で言うのだから、相手もムッとしたりなんかしない。あかねの問いかけに、男は自分たちがやっている仕事をつまらいものと思っているのか、ちょっと肩をすくめながら言った。

「工事の警備さ」
「何の工事なんですかぁ?」
「この先のコロニーにつながっている地下の電線をつなぎ変えて、供給能力を増強するんだ」
「と言う事は、あなたたち教会の人?」
「そうだよ」

 地下に張り巡らされた電気配線。それに手を加えると言うのだから、その作業を行っているのはただの一般人ではなく、おそらく元々電力会社で働いていた信者さん。まあ信者が増えればそう言う確率も上がる訳だが、教会札もそうだ。一般人にできる事なんかじゃない。
 教会は色んな業界の人を従えている。それだけ勢力のすそ野が広いんだろう。

「この先のコロニーに行くのかい?」
「うん。そう」
「今は教会の施設だけだが、明日くらいからコロニーの中で工事を始めて、コロニーの中全てに電気を供給できるようにしていくよ。
 楽しみにしておいてくれ」

 教会あるところに灯りあり。鬼潰会のコロニーでは気づかなかったが、もしかすると、教会が完全支配下においたコロニーは電気が完全に供給されるのだろうか?
 この先のコロニーは今はまだ教会の支配下には入っていないはずだが、一国のトップが外交で向かった先に、よく何かお土産的なものを用意していくように、教祖が布教に行っていると言う事だから、電気はお土産と言うところなんだろう。

「その話、言っておくね」

 なずながにこりと言った。

「よろしくなぁ」

 最初のつまらなさそうな表情とは打って変わった崩れんばかりの笑みでそう言って、軽く手を振った。この男も、あかねとなずなのかわいさに陥落してしまったらしい。
 俺の周りには、全国区レベルのかわいさを持つ二人の女の子がいる。
 ちょっと幸せな気分を感じ、立ち止まったまま、視線を少し先に向けた。

 バリケードはもうそこにあって、その中に教祖がいる。
 そいつは全然見知らぬ奴なのか? 
 それとも、マジで俺の父親なのか?

 いずれにしても、教祖に対する結論は出る。
 さっきまでの幸せ気分から、緊張モードに移った俺は両拳に力を込めて、ぎゅっと握りしめた。

「行こう、お兄ちゃん!」

 歩きだしていたあかねがふり返り、俺ににこりとした笑みで言った。再び膨らませた幸せ気分で、緊張感を包み込みながら、俺はそのコロニー目指し始めた。
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