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決戦2/目の前に迫る神の使い

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 服部が気づき、あかねが斬り捨てた保護色の神の使いたち。
 背後から密かに迫っていた危機を回避した俺たちに加藤が礼を言った。

「お手柄だ。
 感謝するよ」
「いえ。
 それよりも、戦闘はまだ始まったばかりですし」
「そうだったな」

 加藤は視線を戦場に戻した。

「しかし、服部はどうして気づいたんだ?
 やっぱ、ぶらぶらしているものに気づいたのか?」
「はい?
 ぶらぶらって、何が?」
「そ、そ、それはだな」
「お兄ちゃんって、いやらしいぃぃぃ。
 男の人のぶらぶらしているもの見て気づいたのかって、女の子に言うなんて」
「はい?」

 いつも言っているのはお前じゃないか! と言いたいところだ。

「い、い、い、いやらしいわね!
 水野って、そんな奴だったんだ」

 服部も意味が分かったらしい。顔を赤らめて、非難気味に俺に向かって言った。

「いや、そうじゃなくて。
 じゃあ、どうして気づいたんだよ」
「わ、わ、私、そう言うの得意だからよ」
「ぶらぶらが?」
「ばか!」

 そう言ったかと思うと、服部のビンタが俺の頬に飛んできた。どうやら、俺はマジで嫌われているらしい。

「痴話げんかは止めてくんないかな」

 ひなたが割って入って来た。

「ち、ち、痴話げんかな訳ないでしょ!」

 服部がひなたに言った。確かに痴話げんかじゃない。が、何にしてもこのもめ事を終わらせるいい機会になるので、ひなたに感謝だ。

「今は戦い中だ」

 服部がどうしてあの保護色の神の使いに気づいたのか?
 得意とはどう言う意味なのか?
 そして、マジで自分で奴らを葬るつもりだったのか?

 聞きたいことはあるが、服部とのもめ事から逃げる事を優先させるため、そう言って視線を戦場に戻した。

 公園に出てきていた戦車は軍の砲撃ですでに破壊されたようだったし、公園に通じる道路の最前線は教会の戦車の墓場になっていた。
 道路の奥にも戦車はいるはずだが、その前進を妨げる事と破壊を目的としたなんだろう、軍は道路に沿って建つビルに攻撃を加えている。
 道路に落下するビルの残骸が、きっと戦車にダメージを与えているはずだ。
 どうやら、戦車の戦いは軍の勝ちらしい。
 隙を突いて背後を襲うなどと言う作戦をとったのが失敗なんだと思わざるを得ない。

 あとは神の使いとの戦いだが、生身の人間にとっては、こっちの方が脅威だ。何しろ敵は一瞬の内に大量殺戮する能力を持っているのだから。

 蜘蛛の糸でできた防弾膜はゆっくりと前進してきている。
 こいつを殲滅しなければ、今は優位だと言っても、一気に逆転、こちら側が殲滅させられかねない。

 くっ!

 力を込めて、睨み付けてみた時、動きがあった。

 今度は防弾膜が張られていない右側面の地面から多くの兵が湧き出した。こっちも塹壕を掘って、カムフラージュして、隠れていたらしい。

 一斉に始まった銃撃。
 正確には防弾膜に守られている神の使いたちの斜め後ろからの銃撃だ。
 俺たちのところからでは、その戦果を視認することはできないが、それなりのダメージを与えられたはず。

 だが、そこにもすぐに防弾膜が張られた。
 おそらく加藤が仕組んだわなも、これが最後の一手なんじゃないだろうか。
 これで、戦況は硬直かと思った時、敵に動きがあった。

 左側面にできていた防弾膜が横方向に移動し始め、正面の防弾膜がそれにつられて、幅を広げている。
 左側面の兵たちを襲うつもりに違いない。
 一方の右側面の兵士たちを襲うような動きはない。
 もしかすると、戦力的に右側面に回せる主戦力の神の使いが、いないのかも知れない。
 だとしたら、俺たちにとってはうれしい事だが、決して油断はできやしない。
 敵は一人だったとしても、容易に勝てる相手じゃない。

 そんな時、軍の戦車部隊が前進を始めた。
 爆音と排気ガスをまき散らしながら、防弾膜に向かって進んでいく。
 そのまま防弾膜ごと、踏みつぶす気らしい。

 勝てる!
 そんな気がしてしまう。

 もう少しで戦車部隊と防弾膜が接触すると言う頃、左側面に伸びていた防弾膜が軍の兵たちが潜んでいた塹壕に達した。
 と、思った瞬間だった。

 塹壕から血しぶきが上がった。
 それも、あっと言う間にこちらに向かって血しぶきが上がる地点が進んできている。
 ここからでは聞き取れないが、きっと肉体が破壊される嫌な音と、血が噴き出す嫌な音がその塹壕の中で響いているに違いない。

 遠目だが、瞬く間に兵たちを殺しているのはたった一人の神の使いの女の子。
 やはり恐ろしいほどの異能の持ち主だ。

 その異能の持ち主は左側面から銃撃を加えていた兵たちを殲滅すると、猛スピードで俺たちのいる場所に向かってきた。
 加藤の近くに残っていた兵たちが銃撃を開始したが、弾幕が薄すぎて、かわされ続けている。
 俺たちのところにやって来るのは時間の問題だ。

 俺もあかねもあかねソードを構えた。

 俺たちの目の前で銃撃を加えていた兵たちが、血しぶきと骨を砕かれる音を立てて、地面に崩れ去っていく。

「くっ!」

 とてもじゃないが、打って出て勝てる相手じゃない。
 俺にできるのは待ち伏せだ。
 全神経を集中させて、その子の襲撃に備える。

「あれ?」

 兵たちを襲っていた神の使いの女の子がそんな言葉を口にして、殺戮を止めて立ち止まった。
 大きな瞳をさらに大きく見開いていて、その神の使いは何かに驚いている風に見えた。
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