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決着
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あかねが倒したなずなは異様な速さと、異様な力を持つ神の使いのはずだ。そんななずなをどうやって、あかねは倒したと言うんだ?
恐るべき運動能力も、戦意喪失を装ったあかねの演技の前に敗れたと言うのか?
頭を抱えている場合じゃない。
「あかね! なずなは異様な速さの神の使いじゃなかったのか?」
「だって、お兄ちゃんが目立つ大技繰り出しちゃうから、みんなそれに気を取られてたんだよ」
辺りを見渡すしと、加藤も戦場に目を戻さず、いまだに俺たちの方を見て、ちょっと唖然気味だ。みんな、あの技に気を取られ、度肝を抜かれたらしい。
「なるほど」
「なずなちゃんには関わらない方がいいって言ってたでしょ。
当たっちゃった!
女の勘だね」
あかねが、ふふふん! 的な意味深な笑みを浮かべている。
その裏には俺の知らないものがあるんだぞ! と言っているかのようだ。
「ええっ!
もしかして、あかねは……」
「そうだよ。
一突きされた事あるんだよ。
ううん、正確には何突きも」
「だ、だ、誰に?」
妹の衝撃の告白に、戸惑う俺。やっぱ、妹はかわいくて、あんな事やこんな事をしたりされたりしていない方がいい。
俺の問いかけに、あかねが俺を指さした。
えぇぇっ!
そんな覚えは無いぞ!
て言うか、残念なことに妄想の中はともかく、リアルな世界では俺はまだどの女の子にもそんな事をしたことがない。
「子供のころ、竹刀で私の事突いたよね!」
「それかぁ」
なんだかホッとした気分。
ホッとした時、すっかり忘れていた事を思い出した。
まだ戦闘は終わっていなかったし、ひなたと服部の無事の確認だ。
「ひなたに服部、無事なのか?」
「私は無事」
そう答えた服部は立ち上がって、右腕をぐるぐると回していた。
「もうだめとか言ってなかったか?」
「半分は本当、半分は嘘なのっ!。
あいつにナイフを奪われた時に肩の関節外れたの!
でも、あいつとんでもない奴だったから、油断させようとしたの!
まあ、水野が倒してくれたから、よかったんだけどね」
「なるほど、とりあえずは無事な訳だ」
ツンツンしながら自分は無事だと主張する服部から、ひなたに視線を向けた。
見たところ怪我は無さそうだが、体が大きく震えていて、顔も真っ青だ。
いや、それだけじゃなかった。ただの刃物より、血は出ないあかねソードとは言え、全く出ない訳じゃない。血しぶきがひなたの頬と服を赤く染めていた。
「ひっ!」
頬を伝う温かい液体を感じたのか、ひなたがそんな声を上げて、手で顔をぬぐったかと思うと、拭った事でなずなの血で真っ赤に染まった自分の手を見て、ひなたの顔が引き攣った。
ひなたはあの時、鉄パイプであの生き物たちを排除して来ただろうが、きっとそれ以降はその剣の腕と妖刀 村雨で、人に大怪我をさせることなく、やってこれていたのだろう。
人の死にまだ慣れていない上に、あかねソードが切りさいたむごたらしい人体と、自分に降り注いだなずなの血が、人の死に対する恐怖を倍増させているに違いない。
「大丈夫。落ち着いて」
そう言って、走り寄って、ひなたの手を取り俺のハンカチでなずなの血を拭いとる。固くなって震えているひなたを落ち着かせるため、ぎゅっと抱きしめてあげたい気になった時、俺の視界にあかねの背中が飛び込んできた。俺とひなたの間に割り込み、俺を排除するとあかねは言った。
「大丈夫だよ。ひなたちゃん」
そして、俺の代わりにあかねがひなたを抱きしめた。
俺がしたかった事を……。
「私がひなたちゃんの事は守るから」
「いや、ひなたちゃんは強いから」
「私がひなたちゃんを守るのはお兄ちゃんからだよ。
きっと、今抱きしめたいと思ってたもん。顔に書いてあったよ。
ひなたちゃんがお兄ちゃんに一突きされたら、かわいそうだもん」
「はっ、はっ、ははははは」
笑ってごまかすしかない。
あの下ネタで、俺はいじめられっぱなしだ。
軽い気持ちで言った一言が、ずっと引きずられてしまう。口は禍の元。
「高垣を奪還したぞ」
これまた意識から外れていた戦況が俺の耳に届いた。
視線を向けた戦場では、防弾膜は戦車部隊に踏みつぶされて無くなっていた。そして、戦場に立っている軍人以外の人影はもう見えなくなっていて、磔にされていた高垣の前に軍服姿の兵たちが群がっていた。
戦車部隊はさらに進撃を続けて、公園の入り口付近まで立ち往生している教会側の戦車部隊の迎撃に向かっている。教会側の戦車部隊がビルの残骸に進路を邪魔され公園に入れずにいると言う事は、こちらも公園を出ていく事ができない。
戦闘に参加できずにいた教会側の戦車部隊が撤退を始めると、この戦いは終了した。
「勝ったぞ。君たち」
加藤は今にも駆け出しそうなくらいの勢いと、うれしそうな表情で言った。
この勝利の意味はそれだけ重いのだろう。
今まで連敗で、こちらの世界の中では軍よりも教会の方が強いと思われていて、それが人々を教会に走らせる要因の一つになっていたとも言えるのだから、それを取り除けたのは大きい。
「それもこれも、君たちの貢献が大きい。
君たちがいなければ、背後を突かれていたかも知れないし、ここまでやって来たあの女の子に皆殺しにされていただろうからな」
加藤は俺たちの前に歩み寄って来て、手を差し出した。
「いえ」
加藤が差し出した手を握りしめた。
「高垣は無事なようだが、多くの兵たちを犠牲にしてしまった。
いくら相手が強敵だとしても」
加藤の表情は少し曇り気味だ。
味方の損耗を最小限にしながら、勝つ。
それが将の仕事。今までの敗北を考えれば、ある程度の損耗は仕方ないところだと思わざるを得ない。
でも、戦死した人にとってはある程度の損耗ではなく、100%の死な訳で、それを思えば加藤の気持ちも分かる気がする。
この人はいい人と思わずにいられない。
戦いの後、なんとか落ち着いたひなたと一緒に、ひなたの父親が来るのを待っている間に、やって来たのは教会の使者だった。
それも、停戦交渉の申し入れにだった。
恐るべき運動能力も、戦意喪失を装ったあかねの演技の前に敗れたと言うのか?
頭を抱えている場合じゃない。
「あかね! なずなは異様な速さの神の使いじゃなかったのか?」
「だって、お兄ちゃんが目立つ大技繰り出しちゃうから、みんなそれに気を取られてたんだよ」
辺りを見渡すしと、加藤も戦場に目を戻さず、いまだに俺たちの方を見て、ちょっと唖然気味だ。みんな、あの技に気を取られ、度肝を抜かれたらしい。
「なるほど」
「なずなちゃんには関わらない方がいいって言ってたでしょ。
当たっちゃった!
女の勘だね」
あかねが、ふふふん! 的な意味深な笑みを浮かべている。
その裏には俺の知らないものがあるんだぞ! と言っているかのようだ。
「ええっ!
もしかして、あかねは……」
「そうだよ。
一突きされた事あるんだよ。
ううん、正確には何突きも」
「だ、だ、誰に?」
妹の衝撃の告白に、戸惑う俺。やっぱ、妹はかわいくて、あんな事やこんな事をしたりされたりしていない方がいい。
俺の問いかけに、あかねが俺を指さした。
えぇぇっ!
そんな覚えは無いぞ!
て言うか、残念なことに妄想の中はともかく、リアルな世界では俺はまだどの女の子にもそんな事をしたことがない。
「子供のころ、竹刀で私の事突いたよね!」
「それかぁ」
なんだかホッとした気分。
ホッとした時、すっかり忘れていた事を思い出した。
まだ戦闘は終わっていなかったし、ひなたと服部の無事の確認だ。
「ひなたに服部、無事なのか?」
「私は無事」
そう答えた服部は立ち上がって、右腕をぐるぐると回していた。
「もうだめとか言ってなかったか?」
「半分は本当、半分は嘘なのっ!。
あいつにナイフを奪われた時に肩の関節外れたの!
でも、あいつとんでもない奴だったから、油断させようとしたの!
まあ、水野が倒してくれたから、よかったんだけどね」
「なるほど、とりあえずは無事な訳だ」
ツンツンしながら自分は無事だと主張する服部から、ひなたに視線を向けた。
見たところ怪我は無さそうだが、体が大きく震えていて、顔も真っ青だ。
いや、それだけじゃなかった。ただの刃物より、血は出ないあかねソードとは言え、全く出ない訳じゃない。血しぶきがひなたの頬と服を赤く染めていた。
「ひっ!」
頬を伝う温かい液体を感じたのか、ひなたがそんな声を上げて、手で顔をぬぐったかと思うと、拭った事でなずなの血で真っ赤に染まった自分の手を見て、ひなたの顔が引き攣った。
ひなたはあの時、鉄パイプであの生き物たちを排除して来ただろうが、きっとそれ以降はその剣の腕と妖刀 村雨で、人に大怪我をさせることなく、やってこれていたのだろう。
人の死にまだ慣れていない上に、あかねソードが切りさいたむごたらしい人体と、自分に降り注いだなずなの血が、人の死に対する恐怖を倍増させているに違いない。
「大丈夫。落ち着いて」
そう言って、走り寄って、ひなたの手を取り俺のハンカチでなずなの血を拭いとる。固くなって震えているひなたを落ち着かせるため、ぎゅっと抱きしめてあげたい気になった時、俺の視界にあかねの背中が飛び込んできた。俺とひなたの間に割り込み、俺を排除するとあかねは言った。
「大丈夫だよ。ひなたちゃん」
そして、俺の代わりにあかねがひなたを抱きしめた。
俺がしたかった事を……。
「私がひなたちゃんの事は守るから」
「いや、ひなたちゃんは強いから」
「私がひなたちゃんを守るのはお兄ちゃんからだよ。
きっと、今抱きしめたいと思ってたもん。顔に書いてあったよ。
ひなたちゃんがお兄ちゃんに一突きされたら、かわいそうだもん」
「はっ、はっ、ははははは」
笑ってごまかすしかない。
あの下ネタで、俺はいじめられっぱなしだ。
軽い気持ちで言った一言が、ずっと引きずられてしまう。口は禍の元。
「高垣を奪還したぞ」
これまた意識から外れていた戦況が俺の耳に届いた。
視線を向けた戦場では、防弾膜は戦車部隊に踏みつぶされて無くなっていた。そして、戦場に立っている軍人以外の人影はもう見えなくなっていて、磔にされていた高垣の前に軍服姿の兵たちが群がっていた。
戦車部隊はさらに進撃を続けて、公園の入り口付近まで立ち往生している教会側の戦車部隊の迎撃に向かっている。教会側の戦車部隊がビルの残骸に進路を邪魔され公園に入れずにいると言う事は、こちらも公園を出ていく事ができない。
戦闘に参加できずにいた教会側の戦車部隊が撤退を始めると、この戦いは終了した。
「勝ったぞ。君たち」
加藤は今にも駆け出しそうなくらいの勢いと、うれしそうな表情で言った。
この勝利の意味はそれだけ重いのだろう。
今まで連敗で、こちらの世界の中では軍よりも教会の方が強いと思われていて、それが人々を教会に走らせる要因の一つになっていたとも言えるのだから、それを取り除けたのは大きい。
「それもこれも、君たちの貢献が大きい。
君たちがいなければ、背後を突かれていたかも知れないし、ここまでやって来たあの女の子に皆殺しにされていただろうからな」
加藤は俺たちの前に歩み寄って来て、手を差し出した。
「いえ」
加藤が差し出した手を握りしめた。
「高垣は無事なようだが、多くの兵たちを犠牲にしてしまった。
いくら相手が強敵だとしても」
加藤の表情は少し曇り気味だ。
味方の損耗を最小限にしながら、勝つ。
それが将の仕事。今までの敗北を考えれば、ある程度の損耗は仕方ないところだと思わざるを得ない。
でも、戦死した人にとってはある程度の損耗ではなく、100%の死な訳で、それを思えば加藤の気持ちも分かる気がする。
この人はいい人と思わずにいられない。
戦いの後、なんとか落ち着いたひなたと一緒に、ひなたの父親が来るのを待っている間に、やって来たのは教会の使者だった。
それも、停戦交渉の申し入れにだった。
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