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最後の戦い2/それはまるで悪魔

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 あかねソードを振り下ろす俺の攻撃を前に、避けようとすらしない偽物 凛。
 いける!
 そんな思いを抱いた俺だったが、振り下ろしたあかねソードは空を斬っただけだった。

 あかねソードの斬撃を避ける姿すら視認できない速度での回避。
 偽物 凛の運動能力はなずなや田辺のような神の使いの力をはるかに上回っている。
 慌てて振り返ると、かなり離れた場所で、にやりとした笑みを浮かべていた。

 圧倒的な力と冷酷さ。
 偽物 凛、それはまるで悪魔だ!
 その瞬間、俺の脳裏にあかねの顔が浮かんできた。
 それは過去のイメージ。

「たとえ、私が悪魔みたいでも?」
「ああ。小悪魔でも、天使でも」

 小悪魔 あかね。でも、あの時、あかねは悪魔と言った。
 言い間違いや、比喩の相違。そうとらえていた俺は全く気にしていなかった。
 が、あかねがこれまで倒して来た神の使いたち。
 ずっと押し込めていた仮説は俺の想像以上の答えにたどり着いてしまったのかも知れない。

「その力はなんだ?
 神の使いたち以上なのか?」
「もう少し頭がいいと思ってたんだけどぅ。
 自分と互角の者たちではぁぁ、いくら洗脳してもいつどうなるか分からないじゃないぃぃ」

 偽物 凛がうそぶいた。
 さっき、俺の父親は言った。

「凛にはあかねだって、勝てるかどうかだ」

 最強の遺伝子操作を施されたiPS細胞で二人が作られていると言う事なんだろう。
 俺では勝てないかも知れない。だからと言って、引き下がりあかねを戦わすなんて事はできやしない。

 ふぅぅぅ。

 深呼吸して集中力を高め、偽物 凛の動きに全神経を集中させる。

「颯太ぁぁぁ。できれば、佐々木さんのデータと細胞片の在り処を教えてもらいたかったんだけど、力づくしかなさそうだねぇぇ。
 生きて捕まえれば、記憶なんて自由に読み出せるんだからぁ
 きゃはははは」

 言い終えた偽物 凛の顔が引き締まったのを感じた。

 来る!
 集中を途切れさせない。
 が、偽物 凛の力はとんでもなかった。

 全く視覚ではとらえられない。ひなたの父親なら、別の感覚である程度は追えたかも知れないが、俺では何かを感じた時、敵は目の前だった。
 余裕あり。と言う事なのか、攻撃もせず、ただ俺の目の前で立ち止まり、にやりとした笑みを浮かべている。

 くっ!

 完敗。あかねソードを振りぬく力も消え去ってしまった。
 そんな俺の視界を一瞬かすめたあかね色の光。

 あかねが偽物 凛に向かって、あかねソードを振りぬいていた。

 が、偽物 凛はそれをかわしたらしい。
 そう、その動きを視覚に捉えられない以上、結果から推測するしかない。

「でも、あなたじゃ勝てないわよぅぅ」

 視線をあかねに向け、そう言った偽物 凛は次の瞬間には姿を消していた。

 時折、ストロボ画像のように姿を現す偽物 凛とあかね。
 二人の動きは目で連続して視認できやしない。
 動きを止めたほんの瞬間しか、俺の視覚は捉えられない。

「どう言う事だ?」

 俺の父親に向けて言った言葉。その意味を俺の父親は理解したらしい。

「動きの基本能力はほぼ互角。
 あかねにはあかねソードがある分有利だから、普通なら勝てる。
 が、あかねは素人。特別な運動能力を有する人たちの運動神経の結合もコピーされているあの子との戦いは、素手だが格闘技の達人を相手に、剣を持った素人が戦っているようなものだ。
 だから、あの子があかねの能力に気づいていない状態での、最初の一撃に期待したんだ」

 そう言う事だったのか。あかねに戦いを控えさせた理由も分かった。
 としたら、この戦い、あかねが敗れる可能性だってある。
 そんな事はさせやしない。

 今、俺は、目に見えない二人の戦いに参戦する事はできないが、いつかその時が訪れるはず。
 気合を込めて、ストロボ画像のような二人の戦いを注視する。

 あかねソードを振りぬいたあかねを偽物 凛が蹴り飛ばすと、まるでアクションアニメか何かのように、あかねが吹き飛ばされた。
 衝撃であかねソードを握る手の力が緩んだのか、あかねソードあかねの手から離れて、地面を転がっていく。

 余裕を感じたのか、偽物 凛がにやりとした笑みで立ち止まっていた。
 今が俺の出番。

「こいつらは俺がこの右手で」

 偽物 凛に目くらましをかけようと、そう言った俺の目の前に突然、偽物 凛の顔が現れた。

 俺の両手は偽物 凛にきつく握られ、身動き一つとれなくなってしまった。

「その合言葉、聞いてるわよぅぅ。
 ざぁぁぁんねぇぇぇん!」

 偽物 凛が言った。

「本当に馬鹿なんだからぁぁ。
 私に盾突くなんてぇぇぇ。
 でも、大丈夫ぅ。すぐに楽にしてあげるわぁぁ」

 俺は殺されるのか?
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