10 / 14
第一章
危機
しおりを挟むフワが、魔王様の魔力を俺のココから強く感じると言っていた。
あれは、どういうことなんだろう。
ぼんやりと考えながら広い廊下を歩く。
舐められると、魔王様の魔力が俺に移るのか?
考えても分からない上に、想像するとまた膨らんでしまうから、ええい、とやめた。
「人間!なぜこんなところにいる!」
バッタリと廊下で出会った大きなガーゴイルが、大声で叫びながら俺の方へ突進してくる。まずい。
非常にまずい。
俺は猛ダッシュで逃げるが、これは分が悪い。
「俺は、魔王様のところでっ」
「待てぃっ!この魔王城で見逃す訳には!」
追いつかれる!と思った瞬間、ドオンっという轟音が鳴り響いた。
ガーゴイルの足元に大穴が空いている。
「この人間は、我のもの。何人たりとも触れることは許さん」
そう冷たく言い放つ威圧の塊は、魔王様。
「──っこれは、魔王様!しかし、にん」
「次にこの者に手を出せば、消滅させるぞ」
魔王様は、バサッとマントを翻して俺を連れてその場を後にする。
ガーゴイルから離れて角を曲がり、姿が見えなくなると、抱き締められた。
「すまない…危ない目に合わせた」
「…ごめんなさい。行くところがなくて、歩いていたら」
魔王様が、悲しげに俺を見つめる。
「我の部屋は不快だったか」
「それは、フワが…あ、いや、シーツを交換する仕事の邪魔になるから、部屋を出ておりました。申し訳ありません」
恥ずかしさで俯いて答えると、魔王様も何か気づいたようで。
「ああ、それで…う、あの、シーツ…」
「は、はい…その、シーツで…えーっと」
はあーーっと再びの溜息が隣で聞こえる。
「もう、いい加減くっつけよ、こいつら。全然仕事進まないわ」
何か宰相殿が小声でブツブツ言っている。
気の所為だろうか。
「はい、撤収。とりあえず魔王様の部屋へ戻ります」
三人で廊下を進む。
ちなみに俺は魔王様に抱きかかえられているが、全然こちらを見てくれない。
迷惑をかけて、あんなコトまでさせて…面倒な奴だと呆れられたのだろうか。
俺は、魔王様の役に立っているのだろうか。
こんな役立たず、好きになんて、なってもらえないよな…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さっさと終わらせて下さいね、私も忙しいのですから!」
ドミルには、自分の部屋で待ってもらうことにした。
また、誰かと鉢合わせたりしないように。
全く、ドミルに攻撃しようなんて、あの者は後で懲らしめよう。
それにしても…部屋を冷気がびゅうびゅう吹き荒れて寒いし書類が巻き上がる。
ドミルが居た時は暑かった部屋が、今や北部の氷に閉ざされた領地のようになっている。
我が何も言わずに急に転移してドミルのところへ助けに行ったから、メリアの目が釣り上がってる。
しかし、それどこりではない。
何よりも、さっきのドミルの言葉…我を、我を、好き…
思い出すと顔と下半身がカッと熱くなる。
ブリザードが吹き荒れていても、そこが熱いと案外寒さに強いらしい。
我は夢中で書類をさばいていく。
もしかして、もしかして…我の気持ちが通じたのか?
指先が震えて上手く紙をめくれず、手首から先を入れ替えた。
「…少しよろしいですか、魔王様」
メリアに声を掛けられて、恐る恐るメリアを見る。
「先程の件ですが…あのガーゴイルの罪を問うことは出来ません。なぜなら、魔王様は、他の高位魔族にすら何も知らせずにドミル殿を城内に住まわせました。城内のほとんどの者が、人間が住んでいることすら知りません。ですから、ドミル殿を見れば手をかけようとするのも当然の反応。これまでドミル殿のことを周知しなかった魔王様の無責任さが、今回のドミル殿の危機を招いたと言っても過言ではありません」
我は声も出なかった。
我がドミルのことを知らせなかった為に、ドミルの命が狙われた?
そんなことが。
「大切な方であれば、すぐにでも全魔族へ知らせるべきでしょう。魔王様の気持ちが本当であるなら…ですが」
我の気持ちは、紛れもなく本当だ。
これは、すぐにでも周知しなければ!
我は、椅子に座り直すと全魔族への通信を開始した。
『我は魔王フィガル。皆の者、よく聞け。魔王城にはドミルという人間が住んでおる。その者は我が最愛の伴侶である。万が一、その者に指1本でも触れてみろ。我への反逆とみなし消滅させるのは勿論、ドミルに危害を加えれば、この魔国全てが塵と化す』
ふぅ、言い切った。
これでドミルの身は守られるだろう。
全く、我が最愛の伴侶に手をかけようとするなど万死に値…ん?
今、なんて言った?最愛の、伴侶って言った?
「ああああああああああ!!!!どうしよう!勢いで伴侶って言っちゃった!どうしよう!ねえメリア、ドミルに聞かれちゃった?!」
メリアが肩を震わせて俯いている。
「魔王様、先程の通信は魔族のみに対してしか聞こえません。人間のドミル殿には聞こえておりませんから、御安心を。しかし、これでドミル殿を間違いなく伴侶にしなくてはならなくなりましたね。よろしいのですか?魔王様の伴侶になりたい者など塵芥程もおりますが」
我は顔を赤くしながらも、大きく頷く。
「も、もちろんだ、ひゃ、100年かかってもドミルを我が伴侶としてみひぇる!」
噛んだ。
舌がちぎれた。
急いで生やす。
「魔王様、人間はそんなに長く生きません。長くてもあと80年程で死にます」
「なにっ?!なぜだ!ドミルも死ぬというのか?!」
考えられない。
そんなに早くドミルが我の前から消えるなど。
「魔王様、人間と魔族は違うのです。人間はすぐに死ぬ。共に居られる時間など、魔族からすれば、ほんの一瞬でしょう。まあ、魔王様の魔力を大量に注ぎ続ければ、あるいは…」
「あるいは?!あるいは、なんだ!ドミルが生きる方法があるのか?!」
必死にメリアに食い下がる。
なんでもいいから、ドミルを生かしていたい。
「魔王様の強力な魔力をもってすれば、人間を魔族に近い状態にすることも可能かと…」
「なに?!やろう、それやろう。今すぐやろう。どうすればいい?」
我は立ち上がる。
ドミルを失うなど、考えられない。
「…ですから、ドミル殿に魔力を注ぎこむのです。魔王様の魔力の塊を」
「ほう、それはどこからだ?」
スっとメリアは手を後ろに回す。
「ドミル殿の後孔です」
「………え?」
「そこから、魔王様の陰茎で魔力を注ぎこむのです」
我は天を仰いだ。神よ、我に勇気を。
メリアに恥じらいを。
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防
藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。
追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。
きっと追放されるのはオレだろう。
ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。
仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。
って、アレ?
なんか雲行きが怪しいんですけど……?
短編BLラブコメ。
俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
陽七 葵
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる