シングル·ルームシェア

にじいろ♪

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今度の休み、どうする?

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少し薄暗くなったリハビリ室の硬いマットの上で胡座をかく。

「今度の休みは、どうする?」

「あー、この前のキャンプ場は?」

「んー…最近、キャンプ続いてたからなぁ。なんか、室内のが良いなぁ」

「じゃあ、ゲーセン?」

急な路線変更に思わず笑いが溢れる。
手元のタオルを畳む動きは止めない。ピンクのタオルは、患者さんの身体に掛けたり下に敷いたりと、万能だ。
ホットパックという大きなホッカイロみたいな物も包んで温度調整出来る優れもの。

「ふは、青春なセレクトだな」

「俺達、まだまだ青春だろ?27になったばっかりだもん」

リハビリ室には、外が見える大きな窓が付いている。窓枠には、小さな観葉植物が、飾りとして置かれて少し枯れている。乾燥してるからな、この部屋。

「27は、ゲーセン行っちゃダメか?」

明士は、垂れ目をさらに垂れて伺って来る。同い年の北田明士(きただ あかし)。PT(理学療法士)という、リハビリ職だ。ちなみにオレ 南川 乃清(みなみかわ のきよ)はOT(作業療法士)っていうリハビリ職。
よく、この二つの違いを聞かれるけど、面倒くさい。説明すると、ものすごく長いし、めちゃくちゃ真面目な話をするしかないから。まずは、リハビリテーションとは…の話から、ジャンヌ・ダルクまで遡る。
だから、ここでは割愛する。詳しくは、グーグ◯先生に尋ねて欲しい。

「うんにゃ、ゲーセン行こうぜ。ゲーセンで大人の力を見せつけてやろう!」

「なんだよ、大人の力って」

「経済力に決まってんだろ」

こうして、オレ達 二人の今週末の予定は決まった。
オレ達は、地域の小さな整形クリニックのリハビリ担当として働いている。
二人の言う週末とは、日曜のことだ。
土曜は午前中が勤務だから、午後は家事をして過ぎる。
遊ぶのは、日曜と決まっている。
いつ決まったか。二人でルームシェアをし始めて、数カ月経ってからだ。

その頃は、ルームシェアを始めたばかりだったから、平日も週末も、全部一緒に遊んでた。
飲みに行って、ボーリング、ラーメン、キャンプ、釣り、エトセトラ……
そうして数カ月経って気付いた。
家の中、やべぇ………
そうして、二人で話し合って、土曜の午後は家事をまとめてこなして、日曜に遊ぶこととなった。勿論、時には泊りがけで遊びに行くこともある。その時は、平日に家事を分担してこなして挽回するから必然的に飲みや外食は減って自炊になる。
案外、経済的なルーティンだ。


「たでーまぁ」

「おけーりぃ」

二人一緒に玄関の中に入ってるが、一応は挨拶はする。なんとなく、寂しいじゃん?おかえりが無いと。

玄関に入って右手の靴箱は、既に満杯だ。登山靴やら、ステッキやら、ザックやら、乱雑に積み上げられている。靴箱の上にも、郵便物やら貰った土産やら、とにかく適当に置いた物が放置されてる。
仕方無い。今日は金曜日の夜。明日の午後に、この辺りも少し片付ける。
それはさておき、今日は一応、華金である。

「明日、午前中だけだから余裕だな」

「だなー。あー、一週間長ぇー」

玄関から短い廊下を通ってリビングに各々が荷物を放り投げる。ちゃんとキッチンも付いてるファミリータイプの2LDKだ。
だが、そのリビングは、家族団欒とも、オシャレとは程遠い。
あっちこっちに服や靴下が脱ぎ捨てられ、ハンガーに掛けた服もずり落ちている。ちなみにカーテンの端も外れてるが、どちらも直さない。そんなくらいがルームシェアには丁度良いんだと思う。
リビングに向かって右側が北田の部屋、左側が、オレ、南川の部屋。
風呂もトイレも、廊下の扉の向こうだ。
バス・トイレ別を選んで本当に良かった。
オレも北田も腹が弱いから、いざという時にどちらかが使っていた時の絶望感たら無い。

「シャワー、先に使う?」

「うんにゃ、先に飲んでるから、明士どうぞー」

「おっけ。あ、ツマミは冷蔵庫にイカあったぞ」

「それ、そもそもオレのだからな?」

キッと睨むと、へにょ、と笑って北田が風呂場へそそくさと逃げた。
アイツ、時々、オレのツマミを我が物顔で食うんだよな。まあ、オレも人の事言える立場でも無いけど。

テレビを付ければ、お笑い芸人が頭にタライを落とされていた。

「これ、よく頚椎やらないよなー……年取ってから、大丈夫かよ」

ブツブツと独り言を零しながら、イカ燻製を噛り、缶チューハイを流し込む。
んー、至福!
お笑い芸人が、今度は罰ゲームに挑戦して失敗している。顔に何か噴射されている。

「っかーっ!人が頑張ってる姿を見て飲む酒は美味いね!」

我ながら性格は悪い。
でも、華金だから。そこら辺は許して貰おう。
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