美の基準

にじいろ♪

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寂れた伯爵家

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「スファン、こちらがテラインコ·ンゴ様です。貴方とお会いしたいと熱心なお手紙を下さって……」

「初めまして、テラインコ様。スファン·スキンです。お会い出来て光栄です。僕は今年で19になります」

「まあまあまあまあ!!スファン様のお噂はかねがね!!本当に美しいわね!私のコレクショ……いえ、お近付きになりたくてお手紙を何通も差し上げたのですよ♡オホホ」

知ってる。
悪趣味な夜の茶会への招待状は薪と共に暖炉に焚べた。
このテラインコンゴとかいう未亡人(52)。夫は大きな商会をやっていて羽振りが良かったから、随分派手に遊んでいたらしい。
最近、夫が亡くなって、財産と商会を継いだ。途端に、この蛇女は世の中の全てを手にしようと私財をバラ撒いていると専らの噂だ。

その悪趣味な対象が、美しいと話題の僕になった、と。自分で言うけれど。
母はそんなことも気付かずに、僕宛の手紙を見つけて、親切にも彼女に連絡を取ってしまった。僕が忙しくて気が付かなかったのだろう、と気を回して。
この毒蛇女に。

「すみません……あまり器用な人間では無いものですから。幾人もの相手と手紙のやり取りをするのは難しいのです」

漠然と意中の相手がいると仄めかしておく。母は、パアッと笑顔になって喜んでいる。

「……まあ、誰か手紙のやりとりをするご令嬢でもいらっしゃるのですか?……失礼ですが、この状況で?」

チラ、と天井のシャンデリアが外された跡に視線を動かす蛇女。確かに、我が家は明らかに金が無い。
だから、僕の身体と引き換えに幾ばくかの金を積む、ということなんだろう。クソ喰らえだ。そんなことするくらいなら、大袋担ぐ方がマシだ。

「素敵だわ!スファン!あなたに、そんな方がいたなんて!今度、お茶でもご一緒させて下さいね?」

頭が痛い。どこまでも花畑な母だが、ここでは役立ってもらおう。

「そうなんです、母上。今度、我が家へ招待しようと思っていたんです。こういうタイミングで話すとは思ってもみなかったから……いやあ、恥ずかしいなぁ」

「まあ、ご招待?!新しい茶器を用意しなくっちゃ!!ウフフ」

我ながら痛々しい演技であるし、新しい茶器を買う金なんて無い。
蛇女は苦虫を噛み殺した顔で睨んでいる。

「そうですか……ゴホン。失礼ですが、経済的に困られてはいないのですか?」

随分、ド直球で来た。
ぐぬぬ、と僕は奥歯を歯ぎしりする。
そりゃ、困ってる。
次の返済期限も迫ってるし、今月も薄いシチューだけで暮らしてもギリギリだ。
正直、金は少しでも欲しい。
だが、このギラギラした蛇女に喰われるのも嫌すぎる。

「それは……」

思わず口ごもると、蛇女がニヤリと笑う。

「大丈夫ですわ!!私達、家族の愛の力で乗り越えますから!!スファンの恋人とも手を取り合って、皆で亡き夫の分も幸せにならなくては!!ね?テラインコ様も、そう思われるでしょう?」

普段は弱々しい母が、ペラペラと天啓を受けたように一気に捲し立てた。
なんじゃそりゃ。その亡き夫のせいで、借金まみれなんだろが、我が家は。

流石の蛇女も毒気を抜かれ呆けていたが、ハッと気付いて切り返した。

「そうですね、奥様。でも、その恋人も経済的に支えて下さると良いですがね?」

そもそも恋人がいねぇ。

「それは、大丈夫ですわ!ねぇ?スファンの決めた方なら、きっと我が家の事情も考えて下さるでしょう。そうよね?スファン♡」

会ったことも無ければ、名前も知らない相手のことを、何でそこまで信用出来るのか分からないが、今はそれに乗るしか無い。存在自体していないが。

「……もちろんです。とても、きちんとした方ですし、我が家への援助も検討して頂いてます。それに…瞳がとても綺麗なんです」

焦って出た言葉は、いつか見たあの瞳を胸に思い描いていた。もし、あの人にまた会えたら……

「………左様ですか。では、失礼致しました」

大岩のような人の瞳を思い出していたら、蛇女こと、テラインコは帰っていた。

母は嬉しそうにニコニコと笑って見送っていた。
振り返ると、両肩を掴まれる。
ああ、嫌だ。

「それで?どんな方なの?詳しく教えて?」

ほら、キタ。地獄の時間。
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