正義の味方は仕事です

ひこ

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ヒーローサボる裏

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赤屋さんを連れて基地に向かう。ここからは遠くないはずだ。赤屋さんは先ほどのことを立ち直ったのか、引っ張られる状態から横に歩くようになっている。「大丈夫ですか?」と聞くと、赤屋さんは苦笑で「ネガティブからポジティブに切り替えるのは早いから」と言った。赤屋さんの落ち込んでも明るくなるのが早いのは好きなところだ。落ち込んでいる人の空気が鬱陶しいからね。たどたどしい足並みで歩いている赤屋さんは、俺をじっくり見てため息を出していた。

「どうしたんですか?」

「い……いや。レッドなのに、無職のニートヒーローなのはどうかなぁと思って」

あ、気にしていたのか。ポジティブになるのも早いけど、ネガティブになるのも早いという面倒くさい人だな。赤屋さんはCMで出そうな爽やかな男子ではあるが、いくつもの問題を起こすトラブルメーカーであり、仕事を見つけることが出来ないようだ。下を向いている赤屋さんにフォローを入れる。

「赤屋さんはヒーローしてます。ニートは働きたくない人のことであり、赤屋さんはヒーローの仕事をしたくてやっているじゃないですか」

「……ニートじゃないなら、何なんだ」

「………フリーター?」

「はぁ、フリーターか。現実味が増した気分だ。引っ張らなくても大丈夫だよ」

「あー、そうですね」と言って引っ張っている意味がなくなった手を離すと、赤屋さんは先程のことで悲しいそうの顔をしたが、すぐに無理矢理明るい顔をして、俺の背中を押した。「よし!悩みを消すため走ることにする。俺より早く基地に着いたらアイス奢ってやる」と赤崎は言った後、元気よく走り出した。本当、早いな立ち上がるの。俺はいきなりのことに立ち止まってしまったが、奢りの言葉を聞いてすぐさま走り出した。






近代化が進んだビルを通り過ぎながら、俺達は目的の場所に辿り着いた。窓が多く、外から眺めただけで部屋の狭さが想像できるアパートが目の前にある。そう、このアパートこそがヒーローが集う秘密基地なのだ。走ったことで上がった息を静めながら、レッドのもとに行く。「よし、俺の勝ち!!」と門の前で叫んでいる赤屋さんを放っといて、アパートの中に入る。

「おーい、遅いじゃないか」

「何を言っているんですか?アパートの中に先に入ったのは俺ですよ?ハーゲンダッツで良いですよ」

我ながら小賢しい言い訳をしているな。赤屋さんは慌てながら「それはズルくねぇ!?てか、ハーゲンダッツは高い!!」と後ろから大声で言っているが、それを無視して社長の所に行く。アパートの中に入り、地下に行くエレベータを使って、廊下を歩いた先に社長は住んでいる。正直、暮らしているなら地下に部屋を作らなくてもと思うが、社長が気に入っているので何も言えない。先ほどのことについて後ろから議論している赤屋さんをスルーして、地下に向かった。

「あ…黒崎」

エレベータが開くと、親友の青葉清二が目の前にいた。男前のクールな性格で文武両刀。女子に告白される数は多く、家庭全般も出来る完璧な男性が俺の幼馴染みである。優しい笑みで「どうしたんだ?社長に用事でもあるのか」と聞いてくる。

「あぁ、赤屋と一緒にカニの怪人を倒したからその報告に来たんだよ」

俺が説明をした後、青葉も部活帰りに怪人を倒したから報告に来たことがわかった。同時に怪人は出るのは珍しくないケースだ。怪人なんて何処にでもいるしな。青葉と長く話していると、赤屋が後ろから苦笑で「報告しにいかないのか」と呟いていたので青葉に別れを告げて社長の元に行く。エレベータから降り、無駄に長い廊下を歩いて奥の扉の前に立ち止まりノックをする。

「開いてるわよ~」

のんびりとした声が扉の中に聞こえてきた。扉を開くと美女が椅子に座りながらだらけている。金髪で魅力的なボディを持った美女は俺にヒーローの仕事を紹介した人である。煙草を吸いながら背中掻いているその人は残念な美女と言えるだろう。

「うーん、どうかしたのかな?私、今忙しいんだけど~」

「どう見ても暇だろうか!?」

赤屋は美女【ナナ・アルフォス】に突っ込みを入れている。ナナさんは笑いながら持っている煙草を消した。

「それで、今日は何の怪人を倒したのかな」

「カニの怪人」と答える。「うまそうな怪人ね」とナナは言いながら、場所や時間などを聞いてパソコンに書き込んでいる。町中にあるカメラから映像を確認して、少しパソコンを触ってからまた椅子でだらける。

「ほい、報告したよー。ということで寝るわ。」

「はぁ、この人のやる気がある姿をもう一度みたいよ」

赤屋さんはナナさんを見て呆れているようだ。ヒーローに誘う時のナナさんはエリートみたいな女性だったのに、今はただのダメ人間。見た目に騙されたら駄目だね。ガッカリしている俺たちにナナさんは思い出したように話しかけてきた。

「あ、そういえば、黒崎くんと赤屋くん、給料引いておくね」

「「え!?」」

「黒崎くんは赤屋くんが来るまでに民間人を放置したよね」

「うぅ、それは」

「言い訳しないでね。どうせ、怪人も弱かったし、一人で倒すのがめんどくさかったからでしょう。貴方、平凡顔しながら不真面目なのよねー」

「平凡顔は余計です」と言い返す。ナナさんは反論を気にしないで、赤屋さんの方を向く。赤屋さんはひきつった顔で焦りを見せている。赤屋さん…親父に叱られるもんな。ナナさんは焦りを見せている赤屋さんを気にしないで理由を述べる。

「…貴方の能力を使って壊れた物が酷いのよね。地面に5mぐらい壊れた跡、壁の破損の多さ。ヒーロー協会から資金貰っていてもやり過ぎよ。給料は……ないかもね」

「え、あ、ちょっと待ってくださいよ!?」

赤屋さんのほうが悲劇的で自分のほうがましだと思ってきた。赤屋さんは能力のせいで、物をよく壊すのだ。必ず壊す人を雇ってくれる仕事など存在しないので、赤屋さんはヒーローになるまで無職であった。本人がいい人だから可哀想でもある。力を制御できないのも悪いので自業自得でもあるけど 。その後、赤屋さんとナナさんは一時間話をして、疲れたナナさんが急に寝たことで話が終わったのである。家に帰ることを拒否続けている赤屋さんを馴染めるのは凄く疲れた。赤屋さんは俺を優しい人間とか言って泣いていたが、そもそも俺が怪人倒せば早かった話なのを気づかさせないようにしているだけだ。後から面倒になるのは嫌だからね。こんな感じで俺達の今回の仕事は終わるのである。






















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