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第12話 馬車での移動
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「カエデー、あと何日で着くんだっけ」
「多分、あと三日後くらいですね」
「……なっがい」
「……ですね」
私達は近くの街から馬車に乗って、王都ベルリアに向かっていた。
馬車を乗り継いで揺れること数日。最後の乗り換えを終えたので、後はただ揺れるだけでベルリアに到着するのだけれど、その道のりが長いのは事実だった。
相乗りの馬車ということもあって、プライバシーの空間が確保されている訳でもなく、夜もテントで寝るため体の筋肉が結構硬くなっていた。
「そういえば、カエデの世界にも馬車みたいなのあったんでしょ? こんな感じだったの?」
「馬車……車って言う乗り物が近いですけど、全然違います。速度も乗り心地も車の方が私は好きですね」
私達は馬車の中で多くの話をしていた。長時間馬車に座っているだけなので、できることと言えばおしゃべりくらい。
多分、アリスさんとこんなに長時間おしゃべりだけをしたのは、初めてかもしれない。それだけに、互いに疲れてはいるのだけれど、退屈はしなかった。
アリスさんのことを多く知れたことを考えると、馬車移動というのも悪くないのかもしれない。
「あっ……また馬車止まったね。わっと」
「大丈夫ですか? また魔物ですかね?」
そんなふうに話をしていると、馬車が急ブレーキを踏んだように止まってしまった。
よろけてしまったアリスさんの肩を支えながら、私は足を少しだけ踏ん張っていた。
「ありがと、カエデ。それにしても、こんな急に止まったのは初めてじゃない?」
「そうですよね。今までは、もう少しゆっくり止まってたはずですけど」
何か予想もしないような出来事が起きたのだろうか?
この馬車のすぐ前には、冒険者たちが私達の護衛として別の馬車で走っている。魔物が現れる度に、先頭を走る冒険者たちが倒してくれる手はずになっているのだが、なんだか今回はいつもと違った変な止まり方をした気がする。
馬車の中で緊張が走り、外の様子がやけに騒がしいなと思っていると、急に私達の馬車に血相を変えた男の人が顔を覗かせた。
「まずい! サーベルウルフが出た! 今すぐ引き返してくれ!」
その男はごつい装備をしていて、腰には大きな剣をぶら下げていた。状況的に見ても、冒険者なのかもしれない。
その男の声を聞いて、馬車の中は軽いパニック状態になっていた。
ざわつく馬車の中で、落ち着いているのは私とアリスさんだけ。私はその魔物の強さを知らなくて反応に困っているだけだけど、アリスさんは魔物の名前を聞いても静かに瞬きをしているだけだった。
「サーベルウルフって、そんなに強い魔物なんですか?」
「いや、おじいちゃんから聞いたことあるけど、そんなに強かったって聞いたことないかな」
アリスさんはなんで周囲が騒いでいるのか分からないと言った様子で、小さく首を傾けていた。
あれ? そんなに強い魔物じゃないのかな? それなら、なんでこんなにみんな慌てているんだろ?
「みなさん、落ち着いてください! 冒険者の方たちが引き付けているうちに、すぐに引き返すので問題ありません!」
「「え?」」
馬車の中に響いたのは年配の御者のおじさんの声だった。腹から出したようなその声は、乗客みんなに聞こえたみたいで、乗客の不安が和らいだのか、張りつめていた緊張感が緩んだみたいだった。
「ここまで来て引き返しですか。王都に着くのは、しばらく先になりそうですね……アリスさん?」
私は小さくため息を一つ吐いて、現状を仕方がないといった感じで受け入れた。
せっかく、この馬車に乗っていればつくのだけれど、馬車自体が引き返すというのなら仕方がない。
そう思って、隣に座るアリスさんの方をちらりと見ると、アリスさんは何やら真剣に考えこんでいるようだった。
どうしたのだろうと顔を覗き込んでみると、アリスさんは小さく頷いた後にそっと顔を上げた。
「カエデ、私達でその魔物倒しちゃわない?」
「え?」
そして、唐突にそんな提案をしてきたのだった。
「多分、あと三日後くらいですね」
「……なっがい」
「……ですね」
私達は近くの街から馬車に乗って、王都ベルリアに向かっていた。
馬車を乗り継いで揺れること数日。最後の乗り換えを終えたので、後はただ揺れるだけでベルリアに到着するのだけれど、その道のりが長いのは事実だった。
相乗りの馬車ということもあって、プライバシーの空間が確保されている訳でもなく、夜もテントで寝るため体の筋肉が結構硬くなっていた。
「そういえば、カエデの世界にも馬車みたいなのあったんでしょ? こんな感じだったの?」
「馬車……車って言う乗り物が近いですけど、全然違います。速度も乗り心地も車の方が私は好きですね」
私達は馬車の中で多くの話をしていた。長時間馬車に座っているだけなので、できることと言えばおしゃべりくらい。
多分、アリスさんとこんなに長時間おしゃべりだけをしたのは、初めてかもしれない。それだけに、互いに疲れてはいるのだけれど、退屈はしなかった。
アリスさんのことを多く知れたことを考えると、馬車移動というのも悪くないのかもしれない。
「あっ……また馬車止まったね。わっと」
「大丈夫ですか? また魔物ですかね?」
そんなふうに話をしていると、馬車が急ブレーキを踏んだように止まってしまった。
よろけてしまったアリスさんの肩を支えながら、私は足を少しだけ踏ん張っていた。
「ありがと、カエデ。それにしても、こんな急に止まったのは初めてじゃない?」
「そうですよね。今までは、もう少しゆっくり止まってたはずですけど」
何か予想もしないような出来事が起きたのだろうか?
この馬車のすぐ前には、冒険者たちが私達の護衛として別の馬車で走っている。魔物が現れる度に、先頭を走る冒険者たちが倒してくれる手はずになっているのだが、なんだか今回はいつもと違った変な止まり方をした気がする。
馬車の中で緊張が走り、外の様子がやけに騒がしいなと思っていると、急に私達の馬車に血相を変えた男の人が顔を覗かせた。
「まずい! サーベルウルフが出た! 今すぐ引き返してくれ!」
その男はごつい装備をしていて、腰には大きな剣をぶら下げていた。状況的に見ても、冒険者なのかもしれない。
その男の声を聞いて、馬車の中は軽いパニック状態になっていた。
ざわつく馬車の中で、落ち着いているのは私とアリスさんだけ。私はその魔物の強さを知らなくて反応に困っているだけだけど、アリスさんは魔物の名前を聞いても静かに瞬きをしているだけだった。
「サーベルウルフって、そんなに強い魔物なんですか?」
「いや、おじいちゃんから聞いたことあるけど、そんなに強かったって聞いたことないかな」
アリスさんはなんで周囲が騒いでいるのか分からないと言った様子で、小さく首を傾けていた。
あれ? そんなに強い魔物じゃないのかな? それなら、なんでこんなにみんな慌てているんだろ?
「みなさん、落ち着いてください! 冒険者の方たちが引き付けているうちに、すぐに引き返すので問題ありません!」
「「え?」」
馬車の中に響いたのは年配の御者のおじさんの声だった。腹から出したようなその声は、乗客みんなに聞こえたみたいで、乗客の不安が和らいだのか、張りつめていた緊張感が緩んだみたいだった。
「ここまで来て引き返しですか。王都に着くのは、しばらく先になりそうですね……アリスさん?」
私は小さくため息を一つ吐いて、現状を仕方がないといった感じで受け入れた。
せっかく、この馬車に乗っていればつくのだけれど、馬車自体が引き返すというのなら仕方がない。
そう思って、隣に座るアリスさんの方をちらりと見ると、アリスさんは何やら真剣に考えこんでいるようだった。
どうしたのだろうと顔を覗き込んでみると、アリスさんは小さく頷いた後にそっと顔を上げた。
「カエデ、私達でその魔物倒しちゃわない?」
「え?」
そして、唐突にそんな提案をしてきたのだった。
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