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第20話 認識のずれ
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そして数日間、私達は一日に複数のクエストを受けて、それをその日のうちに達成するというのを繰り返していた。
そんな日々を過ごす中で、少しずつ変わっていくことがあった。
それはーー
「はい、これでクエストの達成報告は終わりです。ありがとうございました」
「……なんか注目を集めている気がするのは、気のせいですかね?」
「本当だ。あれ? なんでだろうね」
私達がクエストの達成報告を済ませていると、何やら後方から視線を受けている気がした。
振り返ってみると、そこには複数の冒険者からの視線があった。
嫌な感じの物ではなく、何か興味深いものを覗き込むような視線。
なんでただクエストの達成報告をしているだけで、こんな視線を集めているのだろう。
そんなふうに本気で訳が分からない様子で首を傾げていると、カウンターのお姉さんが少し噴き出すような笑い声を漏らしていた。
どこに笑うポイントがあったのだろう。そう思ってお姉さんの方に視線を向けてみると、お姉さんは子供に何かを教えるような優しい口調で口を開いた。
「それは、目立ちますよ。毎日複数このクエストを達成して、クエスト対象よりも大きな魔物を毎回持って帰ってくれば」
「え? あれ? 複数個の依頼を受けるのって、冒険者の間では普通なんじゃないんですか?」
「ある程度上級になれば話は別ですけど、駆け出しの冒険者でこんなことやってるの、カエデさん達くらいですよ」
「……え?」
まさかの衝撃の事実を突きつけられて、私はしばらく言葉を失ってしまった。
私は依頼を複数個受けるのは普通だと言っていたアリスさんに、ちらりと視線を向けた。
「お、おじいちゃんは普通だって言ってたよ?」
気まずそうにふいっと視線を逸らしながら、アリスさんはそんなことを言っていた。
そんな私達のやり取りを見て、カウンターのお姉さんは笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「他の冒険者たちの間でも話題みたいですよ。とんでもない新人が出てきたって」
多分、私達のことを褒めようとしてそんなことを言ってくれたのだろう。ここは素直に喜ぶか、その功績を誇る場面だ。
それでも、そんな言葉は私達からすると、穏やかでいられない言葉だったりしたのだった。
「緊急事態です」
私達はギルドでクエストの達成報告を終えるなり、泊っている宿に戻ってきた。
その理由は一つ。
「明らかに目立ち過ぎてしまってます。この事態を少し緩和させないと、私とリリさんが実験施設行きになる可能性があります」
冒険者を始めて数日で目立ってしまえば、その強さの秘訣を知ろうと思う人が出てもおかしくない。
そして、過去を探られたら、私達が普通の人ではないことがバレてしまうかもしれない。私は異世界人として、アリスさんはホムンクルスとして実験体になる可能性がある。
そんな未来だけは何とか阻止をせねばならない。そのための作戦会議が宿の一室で行われていた。
「えっと、一日に何個も依頼をやったのがマズかったのかな? でも、少し多くやらないとお金溜まんないよ?」
「そうなんですよね。今後お金が必要になるでしょうし、複数個まとめて依頼を受けるスタイルは変えたくないですね」
G級鵜冒険者が受けるような依頼は、あまり報酬が高くない。今後のことも考えると、依頼の数を一個とかにしたくはないなぁ。
「依頼を受けないでお金を得るためには……あっ、良いこと思いつきました!」
依頼の数を一個に減らしても、収入が変わらない一つの方法。それは案外、すぐ近くにあった。
というか、ずっと私達がしていた方法だった。
「魔物を討伐して、その素材料だけで生活すればいいんじゃないですか? それなら、しばらくは依頼を受けないでもいいから、ほとぼりが冷めるまで待てますよ!」
「それいいね! カエデ、頭いいじゃん!」
「えへへっ、そうですかね?」
こうして、案外簡単にほとぼりを冷ます方法を見つけた私達は、新たなスタイルで普通の冒険者を装うことにしたのだった。
そんな日々を過ごす中で、少しずつ変わっていくことがあった。
それはーー
「はい、これでクエストの達成報告は終わりです。ありがとうございました」
「……なんか注目を集めている気がするのは、気のせいですかね?」
「本当だ。あれ? なんでだろうね」
私達がクエストの達成報告を済ませていると、何やら後方から視線を受けている気がした。
振り返ってみると、そこには複数の冒険者からの視線があった。
嫌な感じの物ではなく、何か興味深いものを覗き込むような視線。
なんでただクエストの達成報告をしているだけで、こんな視線を集めているのだろう。
そんなふうに本気で訳が分からない様子で首を傾げていると、カウンターのお姉さんが少し噴き出すような笑い声を漏らしていた。
どこに笑うポイントがあったのだろう。そう思ってお姉さんの方に視線を向けてみると、お姉さんは子供に何かを教えるような優しい口調で口を開いた。
「それは、目立ちますよ。毎日複数このクエストを達成して、クエスト対象よりも大きな魔物を毎回持って帰ってくれば」
「え? あれ? 複数個の依頼を受けるのって、冒険者の間では普通なんじゃないんですか?」
「ある程度上級になれば話は別ですけど、駆け出しの冒険者でこんなことやってるの、カエデさん達くらいですよ」
「……え?」
まさかの衝撃の事実を突きつけられて、私はしばらく言葉を失ってしまった。
私は依頼を複数個受けるのは普通だと言っていたアリスさんに、ちらりと視線を向けた。
「お、おじいちゃんは普通だって言ってたよ?」
気まずそうにふいっと視線を逸らしながら、アリスさんはそんなことを言っていた。
そんな私達のやり取りを見て、カウンターのお姉さんは笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「他の冒険者たちの間でも話題みたいですよ。とんでもない新人が出てきたって」
多分、私達のことを褒めようとしてそんなことを言ってくれたのだろう。ここは素直に喜ぶか、その功績を誇る場面だ。
それでも、そんな言葉は私達からすると、穏やかでいられない言葉だったりしたのだった。
「緊急事態です」
私達はギルドでクエストの達成報告を終えるなり、泊っている宿に戻ってきた。
その理由は一つ。
「明らかに目立ち過ぎてしまってます。この事態を少し緩和させないと、私とリリさんが実験施設行きになる可能性があります」
冒険者を始めて数日で目立ってしまえば、その強さの秘訣を知ろうと思う人が出てもおかしくない。
そして、過去を探られたら、私達が普通の人ではないことがバレてしまうかもしれない。私は異世界人として、アリスさんはホムンクルスとして実験体になる可能性がある。
そんな未来だけは何とか阻止をせねばならない。そのための作戦会議が宿の一室で行われていた。
「えっと、一日に何個も依頼をやったのがマズかったのかな? でも、少し多くやらないとお金溜まんないよ?」
「そうなんですよね。今後お金が必要になるでしょうし、複数個まとめて依頼を受けるスタイルは変えたくないですね」
G級鵜冒険者が受けるような依頼は、あまり報酬が高くない。今後のことも考えると、依頼の数を一個とかにしたくはないなぁ。
「依頼を受けないでお金を得るためには……あっ、良いこと思いつきました!」
依頼の数を一個に減らしても、収入が変わらない一つの方法。それは案外、すぐ近くにあった。
というか、ずっと私達がしていた方法だった。
「魔物を討伐して、その素材料だけで生活すればいいんじゃないですか? それなら、しばらくは依頼を受けないでもいいから、ほとぼりが冷めるまで待てますよ!」
「それいいね! カエデ、頭いいじゃん!」
「えへへっ、そうですかね?」
こうして、案外簡単にほとぼりを冷ます方法を見つけた私達は、新たなスタイルで普通の冒険者を装うことにしたのだった。
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