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「鉄肩のハーガン」編
03:砕け散る鉄肩と、プライド
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季節は巡り、王都に乾いた冬の風が吹き荒れるようになった。
ハーガンの心もまた、その風のように荒みきっていた。あの日、酒場でアレンに憐れみの目を向けられて以来、彼の執着は憎悪へと変質し、その憎悪は彼の魂を内側からじわじわと蝕んでいた。
日雇いの仕事は、もはやどうでもよくなっていた。稼いだわずかな金もほとんどを安酒につぎ込み、酔ってはアレンへの呪詛を吐き散らす。彼の周りからは急速に人が離れていき、かつて同情的な視線を向けていた者さえ、今では汚物でも見るかのように避けて通るようになった。
ハーガンは完全に孤立していた。
だがその孤独が、彼の妄執をさらに燃え上がらせる薪となった。
そんな中、王都を揺るがすほどの大きなニュースが駆け巡る。
『新星』アレン率いるパーティー『蒼き翼』が、前人未到とされた高難易度ダンジョン『深淵の迷宮』の最下層に到達し、そこに巣食っていた伝説級の魔物を討伐したというのだ。
その報はたちまち、号外として街中に配られた。
街の人々は興奮を隠さぬまま話題にして盛り上がり。
吟遊詩人たちは即興で彼らの武勇を称える詩を歌い始めた。
さらに、王宮はアレンたちを正式に召喚し、王国への多大な貢献を讃えて爵位を授与する意向である、との噂まで流れている。
王都全体が、まるで祝祭のような熱気に包まれていた。
ハーガンは、その熱狂の渦の中心で、独り凍てついていた。
酒場の壁に張り出された、アレンの凛々しい似顔絵が描かれた号外。それを、彼は血走って焦点の合わない目で見つめていた。周囲の客たちは、誰もが興奮した面持ちでアレンの偉業を語り合っている。
「信じられるか!あの『深淵の迷宮』を攻略するなんて!」
「迷宮の一番奥に居座る伝説の魔物……。神話の中の存在だと思っていたぜ」
「アレン様はこの国の英雄だ!」
「まさに生ける伝説だな!」
英雄。伝説。
その言葉が、鋭いガラスの破片のようにハーガンの鼓膜に突き刺さる。
なぜだ。なぜ、あんなひよっこが。
俺が、俺こそが、本当の英雄になるはずだった。
俺が、あの忌まわしいドラゴンの前で恐怖に震えさえしなければ……。
封印していたはずの、忌まわしい記憶が蘇る。
炎に巻かれ、助けを求めていた仲間の顔。
背を向けて逃げ出した、自分の情けない姿。
「う……ああ……」
ハーガンは頭を抱え、呻いた。
違う。あれは違う。俺は仲間を庇ったんだ。
そうだ、俺は英雄的な犠牲を払ったのだ。間違っているのは世界の方だ。
俺の真価を認めず、あんな若造をもてはやす、この世界が狂ってる!
嫉妬と焦燥が、ハーガンの理性を焼き切った。
彼は壊れた人形のようにガタリと立ち上がると、震える手で銅貨を数枚テーブルに叩きつけた。酒場の主人が訝しげな視線を送るが、もはやどうでもいい。
「あんなひよっこが……! 俺が、俺こそが本物の盾役だということを、思い知らせてやらねば……!」
誰に言うともなく、そう呟きながら酒場を飛び出す。
冷たい風が、酔いで火照った顔を撫でた。しかし、ハーガンの頭を冷ますには至らない。千々に乱れる彼の思考は、ただひとつの目的へと収束していた。
衆人環視の中、アレンを叩き潰す。
あの若造の鼻っ柱を、その栄光の絶頂でへし折る。
そして、この王都の愚かな民に、真の強者が誰であるかを思い知らせるのだ。
ハーガンは何かに導かれるように、王宮へと続く大通りへと足を向けた。
大通りは、英雄の凱旋を一目見ようとする人々で埋め尽くされている。それこそ身動きが取れないほどに。
彼はその人波を、まるで幻影をかき分けるように強引に進んでいった。肘で人を突き、肩で人を弾き飛ばす。非難の声が飛ぶが、彼の耳には届かない。
やがて、前方でひときわ大きな歓声が上がった。
そこには、民衆の歓呼に迎えられ、胸を張って大通りを歩いてくる一団。
アレンとその仲間たちだ。
彼らは王宮での叙勲式に向かう途中なのだろう。その姿は自信に満ち溢れ、英雄の名にふさわしい威厳をまとっていた。特にアレンは、以前より増して、その存在感が際立っているように見えた。ダンジョンでの死闘が、彼を少年から真の戦士へと変貌させたのだろう。
あれだ。あれが、俺のすべてを奪った男だ。
ハーガンは、人垣の隙間からアレンの姿を睨みつけた。
これが最後の機会だ。ここで奴を屈服させられなければ、俺は永遠に、ただの惨めな『ぶつかりおじさん』のままだ。彼はそう思い詰める。
ハーガンは深く、深く息を吸い込んだ。
肺がはち切れんばかりに空気を溜め込む。
そして、ゆっくりと腰を落とした。
膝を曲げ、体重を前足にかける。
それは、彼が若い頃、パーティーの仲間たちをあらゆる脅威から守るために幾度となく繰り出した突進スキルの構えだった。
【フォートレス・チャージ】
かつては岩壁のごとき堅牢さで、仲間が進む道を切り拓いた、ハーガンの代名詞とも言える技。もちろん、今の彼に、往年の力を再現することなどできはしない。だが、彼の全存在、残りかすのプライド、アレンへの憎悪、そのすべてを、この一撃に注ぎ込む。
タイミングを見計らう。
アレンが民衆の歓声に笑顔で応え、一瞬、仲間の方を向いた。
無防備な背中。
今だ!
「うおおおおおおっ!!」
獣のような雄叫びが、ハーガンの喉からほとばしった。
彼は人垣を突き破り、弾丸のように飛び出す。
周囲の人々が驚いて道を開けた。
ハーガンの目には、アレンの背中しか映っていない。
石畳を蹴る足に、全身の力を込める。
左肩の鉄の塊が、彼の憎悪を乗せて、破滅への衝角と化す。
すべてがスローモーションに見えた。
アレンの仲間たちが驚愕に目を見開く顔。
民衆の呆気にとられた表情。
そして、無防備なままの、英雄の背中。
勝った。
この一撃で、すべてが終わる。
ハーガンの鉄肩が、アレンの背中に激突する――はずだった。
ゴッ!!!
響いたのは、岩盤と鉄槌がぶつかったかのような、硬く、鈍い衝撃音。
それは、ハーガンの想像していた音とはまったく違っていた。
「が……っ!?」
ハーガンの口から、蛙が潰れたような声が漏れた。
衝撃が、ない。相手を弾き飛ばした感触が、まるでない。
そこにあったのは、揺らぐことのない、絶対的な壁。
逆に、全力で突進したハーガンの身体に、凄まじい反作用が襲いかかった。
まるで巨大な城壁に正面から突っ込んだかのように、彼はあっけなく弾き飛ばされる。数メートル後方まで宙を舞い、石畳の上を無様に転がった。
何が起きたのか、理解できなかった。ハーガンは受け身も取れず、全身を強かに打ち付けた痛みで、視界が明滅する。
朦朧とする意識の中、パリン、と乾いた、何かが砕ける音が響いた。
はっとして、彼は自身の左肩に視線をやる。
そこに、信じられない光景が広がっていた。
彼の唯一の誇り。彼のアイデンティティそのものであったはずの、古びた鉄の肩当てが。蜘蛛の巣状に亀裂が入り、無残に砕け散っていたのだ。
嘘だ。
ありえない。
この肩当ては、オーガの棍棒にも、ミノタウロスの戦斧にも、そしてドラゴンの爪撃にすら耐えた(と彼が信じていた)代物だ。それが、ただ人の背中にぶつかっただけで、こんなにもあっさりと……?
大通りの喧騒が、嘘のように静まり返っていた。
数千、数万の視線が、地面に転がる哀れな老人に突き刺さる。
好奇。驚愕。やがてそれらは、剥き出しの嘲笑へと変わっていく。
ゆっくりと、アレンが振り返った。
その目に、ハーガンは最後の希望を託した。
怒りでもいい。驚きでもいい。
せめて、自分という存在を認識してくれ。
だが、アレンの目に宿っていたのは、そのどちらでもなかった。
怒りも、驚きも、同情も、憐れみすらも、そこには無かった。
ただ、道端に転がっている、邪魔な石ころを見るかのような。
冷たく、感情の欠片もない、完全なる『無関心』。
アレンは、地面に這いつくばるハーガンを一瞥すると。
ただ一言、ぽつりとつぶやく。
「……邪魔だ」
その声は、決して大きくはなかった。だが、静寂の中、それはハーガンの心の最も深い部分にまで、鋭く突き刺さった。
アレンは、それ以上ハーガンに関心を示すことなく、仲間たちに「行こう」と声をかけた。そして、再び民衆の歓声に迎えられながら、王宮へと歩き始める。まるで、ハーガンなどという人間は、最初から世界に存在していなかったかのように。
英雄の背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。
ハーガンの心は、砕け散った肩当てと共に、粉々に砕け散った。
彼にとって最強の武器であり、最後のプライドだった鉄肩。それが、赤子の手をひねるように、何の感慨もなく打ち砕かれた。
そして何より堪えたのは、アレンの無関心。
アレンは、ハーガンを敵としてすら認識していなかったのだ。ハーガンの存在そのものが、彼の世界には、もはやノイズとしてすら映っていなかった。
「あ……あ……」
声にならない声が、ハーガンの喉から漏れる。
立ち上がることすらできない。指一本、動かす気力も湧いてこない。
ハーガンの世界から、色が、音が、意味が、すべてが消え失せていく。
残されたのは、ただ、砕け散った鉄の欠片と、全身を貫く絶望だけだった。
-つづく-
ハーガンの心もまた、その風のように荒みきっていた。あの日、酒場でアレンに憐れみの目を向けられて以来、彼の執着は憎悪へと変質し、その憎悪は彼の魂を内側からじわじわと蝕んでいた。
日雇いの仕事は、もはやどうでもよくなっていた。稼いだわずかな金もほとんどを安酒につぎ込み、酔ってはアレンへの呪詛を吐き散らす。彼の周りからは急速に人が離れていき、かつて同情的な視線を向けていた者さえ、今では汚物でも見るかのように避けて通るようになった。
ハーガンは完全に孤立していた。
だがその孤独が、彼の妄執をさらに燃え上がらせる薪となった。
そんな中、王都を揺るがすほどの大きなニュースが駆け巡る。
『新星』アレン率いるパーティー『蒼き翼』が、前人未到とされた高難易度ダンジョン『深淵の迷宮』の最下層に到達し、そこに巣食っていた伝説級の魔物を討伐したというのだ。
その報はたちまち、号外として街中に配られた。
街の人々は興奮を隠さぬまま話題にして盛り上がり。
吟遊詩人たちは即興で彼らの武勇を称える詩を歌い始めた。
さらに、王宮はアレンたちを正式に召喚し、王国への多大な貢献を讃えて爵位を授与する意向である、との噂まで流れている。
王都全体が、まるで祝祭のような熱気に包まれていた。
ハーガンは、その熱狂の渦の中心で、独り凍てついていた。
酒場の壁に張り出された、アレンの凛々しい似顔絵が描かれた号外。それを、彼は血走って焦点の合わない目で見つめていた。周囲の客たちは、誰もが興奮した面持ちでアレンの偉業を語り合っている。
「信じられるか!あの『深淵の迷宮』を攻略するなんて!」
「迷宮の一番奥に居座る伝説の魔物……。神話の中の存在だと思っていたぜ」
「アレン様はこの国の英雄だ!」
「まさに生ける伝説だな!」
英雄。伝説。
その言葉が、鋭いガラスの破片のようにハーガンの鼓膜に突き刺さる。
なぜだ。なぜ、あんなひよっこが。
俺が、俺こそが、本当の英雄になるはずだった。
俺が、あの忌まわしいドラゴンの前で恐怖に震えさえしなければ……。
封印していたはずの、忌まわしい記憶が蘇る。
炎に巻かれ、助けを求めていた仲間の顔。
背を向けて逃げ出した、自分の情けない姿。
「う……ああ……」
ハーガンは頭を抱え、呻いた。
違う。あれは違う。俺は仲間を庇ったんだ。
そうだ、俺は英雄的な犠牲を払ったのだ。間違っているのは世界の方だ。
俺の真価を認めず、あんな若造をもてはやす、この世界が狂ってる!
嫉妬と焦燥が、ハーガンの理性を焼き切った。
彼は壊れた人形のようにガタリと立ち上がると、震える手で銅貨を数枚テーブルに叩きつけた。酒場の主人が訝しげな視線を送るが、もはやどうでもいい。
「あんなひよっこが……! 俺が、俺こそが本物の盾役だということを、思い知らせてやらねば……!」
誰に言うともなく、そう呟きながら酒場を飛び出す。
冷たい風が、酔いで火照った顔を撫でた。しかし、ハーガンの頭を冷ますには至らない。千々に乱れる彼の思考は、ただひとつの目的へと収束していた。
衆人環視の中、アレンを叩き潰す。
あの若造の鼻っ柱を、その栄光の絶頂でへし折る。
そして、この王都の愚かな民に、真の強者が誰であるかを思い知らせるのだ。
ハーガンは何かに導かれるように、王宮へと続く大通りへと足を向けた。
大通りは、英雄の凱旋を一目見ようとする人々で埋め尽くされている。それこそ身動きが取れないほどに。
彼はその人波を、まるで幻影をかき分けるように強引に進んでいった。肘で人を突き、肩で人を弾き飛ばす。非難の声が飛ぶが、彼の耳には届かない。
やがて、前方でひときわ大きな歓声が上がった。
そこには、民衆の歓呼に迎えられ、胸を張って大通りを歩いてくる一団。
アレンとその仲間たちだ。
彼らは王宮での叙勲式に向かう途中なのだろう。その姿は自信に満ち溢れ、英雄の名にふさわしい威厳をまとっていた。特にアレンは、以前より増して、その存在感が際立っているように見えた。ダンジョンでの死闘が、彼を少年から真の戦士へと変貌させたのだろう。
あれだ。あれが、俺のすべてを奪った男だ。
ハーガンは、人垣の隙間からアレンの姿を睨みつけた。
これが最後の機会だ。ここで奴を屈服させられなければ、俺は永遠に、ただの惨めな『ぶつかりおじさん』のままだ。彼はそう思い詰める。
ハーガンは深く、深く息を吸い込んだ。
肺がはち切れんばかりに空気を溜め込む。
そして、ゆっくりと腰を落とした。
膝を曲げ、体重を前足にかける。
それは、彼が若い頃、パーティーの仲間たちをあらゆる脅威から守るために幾度となく繰り出した突進スキルの構えだった。
【フォートレス・チャージ】
かつては岩壁のごとき堅牢さで、仲間が進む道を切り拓いた、ハーガンの代名詞とも言える技。もちろん、今の彼に、往年の力を再現することなどできはしない。だが、彼の全存在、残りかすのプライド、アレンへの憎悪、そのすべてを、この一撃に注ぎ込む。
タイミングを見計らう。
アレンが民衆の歓声に笑顔で応え、一瞬、仲間の方を向いた。
無防備な背中。
今だ!
「うおおおおおおっ!!」
獣のような雄叫びが、ハーガンの喉からほとばしった。
彼は人垣を突き破り、弾丸のように飛び出す。
周囲の人々が驚いて道を開けた。
ハーガンの目には、アレンの背中しか映っていない。
石畳を蹴る足に、全身の力を込める。
左肩の鉄の塊が、彼の憎悪を乗せて、破滅への衝角と化す。
すべてがスローモーションに見えた。
アレンの仲間たちが驚愕に目を見開く顔。
民衆の呆気にとられた表情。
そして、無防備なままの、英雄の背中。
勝った。
この一撃で、すべてが終わる。
ハーガンの鉄肩が、アレンの背中に激突する――はずだった。
ゴッ!!!
響いたのは、岩盤と鉄槌がぶつかったかのような、硬く、鈍い衝撃音。
それは、ハーガンの想像していた音とはまったく違っていた。
「が……っ!?」
ハーガンの口から、蛙が潰れたような声が漏れた。
衝撃が、ない。相手を弾き飛ばした感触が、まるでない。
そこにあったのは、揺らぐことのない、絶対的な壁。
逆に、全力で突進したハーガンの身体に、凄まじい反作用が襲いかかった。
まるで巨大な城壁に正面から突っ込んだかのように、彼はあっけなく弾き飛ばされる。数メートル後方まで宙を舞い、石畳の上を無様に転がった。
何が起きたのか、理解できなかった。ハーガンは受け身も取れず、全身を強かに打ち付けた痛みで、視界が明滅する。
朦朧とする意識の中、パリン、と乾いた、何かが砕ける音が響いた。
はっとして、彼は自身の左肩に視線をやる。
そこに、信じられない光景が広がっていた。
彼の唯一の誇り。彼のアイデンティティそのものであったはずの、古びた鉄の肩当てが。蜘蛛の巣状に亀裂が入り、無残に砕け散っていたのだ。
嘘だ。
ありえない。
この肩当ては、オーガの棍棒にも、ミノタウロスの戦斧にも、そしてドラゴンの爪撃にすら耐えた(と彼が信じていた)代物だ。それが、ただ人の背中にぶつかっただけで、こんなにもあっさりと……?
大通りの喧騒が、嘘のように静まり返っていた。
数千、数万の視線が、地面に転がる哀れな老人に突き刺さる。
好奇。驚愕。やがてそれらは、剥き出しの嘲笑へと変わっていく。
ゆっくりと、アレンが振り返った。
その目に、ハーガンは最後の希望を託した。
怒りでもいい。驚きでもいい。
せめて、自分という存在を認識してくれ。
だが、アレンの目に宿っていたのは、そのどちらでもなかった。
怒りも、驚きも、同情も、憐れみすらも、そこには無かった。
ただ、道端に転がっている、邪魔な石ころを見るかのような。
冷たく、感情の欠片もない、完全なる『無関心』。
アレンは、地面に這いつくばるハーガンを一瞥すると。
ただ一言、ぽつりとつぶやく。
「……邪魔だ」
その声は、決して大きくはなかった。だが、静寂の中、それはハーガンの心の最も深い部分にまで、鋭く突き刺さった。
アレンは、それ以上ハーガンに関心を示すことなく、仲間たちに「行こう」と声をかけた。そして、再び民衆の歓声に迎えられながら、王宮へと歩き始める。まるで、ハーガンなどという人間は、最初から世界に存在していなかったかのように。
英雄の背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。
ハーガンの心は、砕け散った肩当てと共に、粉々に砕け散った。
彼にとって最強の武器であり、最後のプライドだった鉄肩。それが、赤子の手をひねるように、何の感慨もなく打ち砕かれた。
そして何より堪えたのは、アレンの無関心。
アレンは、ハーガンを敵としてすら認識していなかったのだ。ハーガンの存在そのものが、彼の世界には、もはやノイズとしてすら映っていなかった。
「あ……あ……」
声にならない声が、ハーガンの喉から漏れる。
立ち上がることすらできない。指一本、動かす気力も湧いてこない。
ハーガンの世界から、色が、音が、意味が、すべてが消え失せていく。
残されたのは、ただ、砕け散った鉄の欠片と、全身を貫く絶望だけだった。
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